日本経済の再建へ向けた構造改革の在り方などを検討する内閣府の「構造変化と日本経済」専門調査会の議論がスタートした。内需拡大などを中心に六月をめどに取りまとめ、七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)で福田政権の経済戦略としてアピールしたい考えだ。
専門調査会の設置は一月の経済財政諮問会議で、米国経済や原油高など外的要因に左右されやすい弱さを克服して自律型経済を目指すためにと提案された。
日本経済が抱える潜在的なリスクを総点検し、内需に支えられた持続的な成長に必要な戦略を議論する。初会合では「企業と家計の間で好循環が形成され、内需の厚みを増す成果配分」や「ダイナミックに成長しつつ格差のひずみが小さい経済構造の在り方」などの観点から検討していくことを確認した。
目標とするのが、中曽根政権当時の一九八六年に、前川春雄元日銀総裁を座長とする「国際協調のための経済構造調整研究会」が示した「前川リポート」の二十一世紀版である。前川リポートは、国際的な批判を受けて貿易収支の大幅黒字額を減らすために外需依存からの脱却を訴え、内需主導の経済構造への転換や市場開放への取り組みなどを求めた。
だが、金融緩和や財政出動がバブル経済の発生を招く要因となった。バブルによって一時的な内需の拡大にはなったものの、肝心の構造転換には至らなかった。
この間、世界経済は中国やインドなど新興国が台頭し、資金の流れが大きく変化した。日本はめまぐるしい展開から取り残され存在感が薄れていく。今国会の経済演説で、大田弘子経済財政担当相は「もはや日本は『経済は一流』と呼ばれる状況ではなくなった」と強調した。こうした危機感の高まりが、二十一世紀版前川リポートへと向かわせたといえるだろう。
しかし、どこまで実効性ある対策が描き出せるかは不透明だ。前川リポートも二十一世紀版も目指すゴールは同じ「内需主導の経済構造」だが、時代背景が大きく異なっている。少子化に伴う人口減や高齢化の進展、低い食料自給率、資源高、そして財政出動や金融緩和も手詰まりになっており、内需拡大を妨げる要因がめじろ押しだ。
閉塞(へいそく)感の漂う日本経済を再び成長の軌道へと導く手だてをどう打ち出せるか。二十一世紀版前川リポートへ寄せる期待は大きい。個人消費を促す家計への対策などを中心に、専門調査会の見識ある提言が待たれる。
地球温暖化対策の一環として国内企業の間で二酸化炭素など温室効果ガスを出す権利を売買する排出権取引制度の導入について、日本国内でも本格的な検討が始まる。
政府は、財界や学識経験者による有識者会議「地球温暖化問題に関する懇談会」を設置、排出権取引の国内導入の是非などを議論する予定だ。経済産業省も、京都議定書に定めのない二〇一三年度以降の排出量削減の手法の一つとして慎重に判断する。
これまで国内排出権取引の導入に反対していた産業界も姿勢が変わった。日本経団連の御手洗冨士夫会長は「そういう方式が世界の主流であるならば、積極的に検討すべきだ」と、導入に前向きの考えを表明した。
国内排出権取引は、「キャップ&トレード」と呼ばれ、国内企業に温室効果ガスの排出量枠(キャップ)を設け、過不足を企業同士で売買(トレード)する方式だ。欧州連合(EU)は、域内の企業を対象に取引市場を〇五年から運営し、米国でも民間ベースで取り組んでいる。
問題は、政府による公平な排出枠の割り当てができるかどうかである。EUなどでも苦情が出ている。省エネが進んだ日本企業には不利とされるだけに、公平なシステムとするため、議論を尽くす必要があるだろう。
京都議定書で、日本は〇八―一二年度に温室効果ガスを一九九〇年度比6%削減する約束だ。しかし排出量は逆に増えており、国際公約の達成は険しい。
福田康夫首相は七月の主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)で、議長国として温暖化問題に取り組む構えだ。国内排出権取引の導入を前向きに検討する時である。
(2008年2月29日掲載)