「ほっとした。きょう1日は喜んでいいかなと思っている」。薬害C型肝炎訴訟で、東京高裁でも29日、国との和解が成立し、東京原告の中心的存在だった川崎市の浅倉美津子さん(57)はうれし涙を浮かべながら話した。一方で「患者全員の救済へ積み残した課題は多い。製薬会社の謝罪と責任の明確化も求める」と気を引き締めた。【北村和巳】
88年、次男(19)を出産した際に大量出血し、血液製剤フィブリノゲンを投与され、感染した。病院の記録でその事実を知り03年に提訴するまで、「高齢出産だから感染したのかも」と自分を責めた。
22歳の時、たまたま見た芝居に魅せられ、劇団に入った。舞台に立ち、付き人も務める日々は充実していた。演劇仲間の夫と結婚、今は26歳になる長男の誕生後しばらくして舞台を降り、夫を後押ししようとパートで家計を支えた。だが、感染後は疲れやすくなり、仕事も家事も十分にできなかった。病気は、夫婦の間に徐々に溝を生み、04年に離婚した。
07年3月の1審判決で、被害を理解してもらおうと世間に姿をさらした。判決で自分は勝訴したが、仲間8人は敗訴。それ以降、慢性肝炎の治療に必要な週3回の投薬を犠牲にして、国に救済を求める活動に没頭。肝機能の数値が悪化し体も心も限界の中、悔し涙を流し続けた。思い返すのもつらいが、被害者救済法という成果を得たのは誇りだ。
この日の非公開の和解手続きでは「薬害肝炎の問題が解決したわけではない。国は2度と薬害を繰り返さないため検証してほしい」と意見陳述した。
和解を機に、4月からインターフェロン治療を始める。年齢的に治癒率は通常より低いと言われたが、可能性があれば元気な体を取り戻したい。救済されていない患者たちを支援し、国に薬害の再発防止を迫り続けていくために。
◇原告たちが会見「救済されない人に協力」
和解成立後、東京訴訟の原告たちは東京・霞が関の弁護士会館で会見し、晴れやかな表情を見せた。山本信子さん(41)は「解決まで、あと何年かかるだろうと思っていたので、うれしい。C型肝炎でカルテがなく救済されない人もいるので、協力したい」と決意を新たにした。
生後すぐに血液製剤クリスマシンを投与されて感染した静岡県の公務員男性(27)は、この日の手続きで「母は『自分の責任』と苦しんで、福田首相が一律救済を表明した昨年12月23日に亡くなった。『国が悪かった』と直接、伝えられないのが悔しい」と意見陳述。会見では「帰って母の墓前に結果を報告したい」と話した。
毎日新聞 2008年2月29日 13時52分 (最終更新時間 2月29日 14時05分)