ギョーザ中毒事件に関し中国公安当局は二十八日初めて開いた記者会見で農薬が中国で混入された可能性は「極めて低い」と述べた。しかし、これで事件の捜査を一段落させるわけにはいかない。
公安省刑事偵査局の余新民副局長は記者会見で、残留農薬が引き起こした食品安全問題ではなく「人為的な混入」による事件と断定した。
製造元の天洋食品(河北省石家荘市)の生産管理は厳格で工場内での混入は困難とし、従業員についても「毒物を入れた疑いのある人物は発見されていない」と明言した。
日本の警察当局は農薬が包装内部から検出されたため生産工程で混入された疑いを強めている。これに対し余副局長は一定の条件では農薬が包装の外から内側に浸透することがあるという実験結果を公表した。
日本側が農薬の不純物から中国製とみていることにも、農薬の生産場所を特定はできないと反論した。
さらに、日本の警察当局が中国側の求める日本の現場視察や物証確認に応じていないとして「深い遺憾」を表明し不信をあらわにした。
ギョーザ事件の捜査は日本側が中国での農薬混入の疑いを強め、中国側は、それをほぼ否定し日本での犯行をほのめかす混迷に陥った。
背景には双方とも相手国での犯行を疑わせる報道が広がり、互いに不信を募らせる国民感情がある。
余副局長が、警察庁の安藤隆春次長が訪中し協力を加速することで合意した直後に記者会見し、日本側への不満を、あえて口にしたのも中国の国民感情への配慮だろう。
しかし、ちょっと待ってほしい。ことは外交交渉ではなく、事件捜査なのだ。五歳の女児が一時重体になるなど深刻な被害は日本で起きた。
余副局長も認めたように事件の真相は、まだ明らかになっていない。問題のギョーザを輸出した中国が、自国に問題のないことを言い立て、日本の捜査に反論することに、どのようなメリットがあるのか。最初の記者会見で結論めいた発言をして「幕引き」を図っていると疑われるのは決して本意ではないはずだ。
日本の警察当局は中国側の不満表明に困惑している。中国側が資料を提供しない段階で手の内を明かせない駆け引きがあるのかもしれない。しかし、中国の事情も理解し、さらに踏み込んで捜査協力する度量を示すべきだ。
両国当局が互いに不信を募らせ捜査が混迷すれば、四月に来日を予定している胡錦濤国家主席の歓迎ムードに水を差す。その陰で真の犯人はほくそ笑んでいるのかもしれない。
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