◎総合評価落札方式 改革の流れに逆行しかねない
石川、富山県や市町で導入が進む総合評価落札方式は、運用次第では入札改革の流れに
逆行する危惧を抱かざるを得ない。技術力など価格以外の要素を加味することで談合防止の切り札のように位置づけられているが、発注者側の評価の余地が拡大し、その部分が分かりにくければ、かえって不透明感が高まり、談合のリスクが生じかねないからである。
総合評価方式は工事の品質維持を目的として二〇〇五年に施行された「公共工事品質確
保法」の趣旨にも合致するとはいえ、過大な期待は禁物である。入札改革は透明性と競争性を追求しながら一般競争入札の拡大を中心に進めてほしい。
総合評価方式は技術力や施工実績などを点数化して「技術評価点」とし、価格に加えて
落札の判定材料とする。最低価格を入れた業者が必ずしも落札できない仕組みであれば、価格による受注調整が意味をなさなくなるとして各自治体は積極的に導入している。その結果、石川県発注の辰巳ダム建設工事では入札に参加した十二の共同企業体(JV)のうち価格が五番目に低いJVが落札し、富山県でも県発注の富山大橋工事などで逆転入札が相次いでいる。
最低価格の業者以外が落札する「逆転率」を自治体が積極的に公表して改革の成果を強
調する傾向がみられる一方で、この方式については審査の恣意性を懸念する声もある。全国知事会の公共調達改革に関する指針でも、対象工事の選定や評価基準については分かりやすい方法で公開することを求めている。
「技術評価点」の名のもとに発注者側の裁量を増やせば、いわゆる「官製マーケット」
となり、市場原理から離れることにもなる。最低価格を入れてもなぜ契約できないのか。これは住民側の素朴な疑問であり、発注者側には十分な説明責任が求められよう。
総合評価方式の項目として「地域貢献度」を設け、所在地が地元である点や工事実績、
優良工事表彰、除雪契約、地元消防団の加入など、さまざまな地域とのつながりを点数化する動きも広がってきた。地元業者を大事にしたいという自治体側の思いの表れだが、「地域重視」も度を越せば談合の温床になりやすいことを発注者側は留意する必要がある。
◎イージス艦事故 政局絡めず防衛省改革を
海上自衛隊のイージス艦衝突事故をめぐり、石破茂防衛相の辞任を求める野党や一部メ
ディアの主張は、海難事故に政局を絡めようとする意図がちらついて、見苦しい。石破防衛相の辞任で、たるみ切った防衛省のタガが締まるなら話は別だが、頭をすげ替えただけで組織の体質はそのまま、というのが一番困る。
相次ぐ不祥事で、防衛省に対する国民の信頼は大きく損なわれた。防衛省トップには、
緒に就いたばかりの防衛省改革を強力に押し進めるリーダーシップが必要であり、海難事故によって改革がとん挫する懸念はないのか。防衛相の辞任を目的化するような動きには賛同できない。
衝突事故が起きるまで、防衛省をめぐる最大の論点は、不祥事続きの組織改革だった。
石破防衛相が示した改編案は、「背広組」と呼ばれる防衛官僚主体の内局と、「制服組」による陸海空の幕僚監部を統合し、防衛力整備、部隊運用、国会対策・広報という三部門に再編するというもので、是非はともかく、組織の骨格を根こそぎ変えてしまうほどの破壊力がある。石破案に反対する声は、与野党内はもとより、防衛省内にも強いが、背広組と制服組の人事交流を大胆に進め、双方の間の壁を打ち壊すという方向性は、間違っているとは思えない。
思わぬ衝突事故で、そうした改革論議が一時的に吹き飛んでしまったのは、やむを得な
いにしても、非難の矛先を石破防衛相に向け、あわよくば防衛省改革をうやむやにしてしまおうとする動きがあるとするなら、見過ごすわけにはいかない。
衝突事故をめぐり、石破防衛相が海上保安庁の了解を得ずに航海長から事情を聴いたの
は、捜査優先の原則からして適切ではなかったのは事実である。しかし、防衛省と海上保安庁の発表の食い違いなどを「情報の隠ぺい」や「虚偽報告」と決めつけ、石破防衛相の責任に転嫁してしまうのはいかがなものか。石破防衛相が、そうした防衛省の体質改善に乗り出している当事者だけに、責任追及の矛先が間違っている気がしてならない。結果責任を組織のトップが負うべきという意見もあろうが、それでは改革を好まぬ防衛官僚がほくそ笑む結末になりはしないか。