佐賀県唐津市で1月4日未明、意識混濁の状態で救急車に収容された男性が佐賀、福岡両県内の15医療機関に受け入れを断られるなどし、約50キロ離れた福岡市東区の病院に約2時間半後に搬送された後、脳出血で死亡していたことが27日、分かった。

 唐津市消防本部によると、男性は、玄界灘を航行していたコンテナ船内で体調不良となった中国人乗組員(45)。唐津海上保安部の巡視船が海上で引き取り、同消防本部の救急隊が1月4日午前1時5分、唐津東港で救急車に収容した。既に呼び掛けに答えることが難しい容体だったという。

 救急隊は、携帯電話に登録した救急医療機関の連絡先などを基に、唐津市、佐賀県多久市、伊万里市、佐賀市と福岡市の15機関に受け入れを要請したが、いずれも応じてもらえなかった。救急車はその間、港に足止めされ、16カ所目で受け入れに応じた福岡市東区の病院へ出発したのは約1時間半後だった。搬送中に心肺停止となり、同3時43分に病院に到着後、同4時32分に死亡が確認された。

 同病院は、死亡と搬送遅れの因果関係は「分からない」としている。

 搬送を要請された唐津市内の病院の1つは、西日本新聞の取材に「当直医2人が他の急患の処置に追われていた」と断った理由を説明。佐賀市内の病院の1つは唐津市からの搬送時間が40‐50分かかり、「『まずは近くで探してみては』と答えた。再度要請があれば受け入れるつもりだった」としている。

■夜間救急体制もろさ露呈

 佐賀県唐津市で収容された急患男性の病院搬送が遅れ、その後死亡した問題で、受け入れを断るなどした15医療機関のうち半数近くは「24時間365日対応」を掲げていた。夜間救急体制の脆弱(ぜいじゃく)さをあらためて露呈するとともに、大阪などで相次いだ急患の“たらい回し”が、どこでも誰にでも起こり得る現状を浮き彫りにした。

 救急医療は、在宅当番の開業医などを「初期救急医療機関」▽24時間体制の救急病院などを「2次機関」▽さらに24時間体制で重篤患者を診る救命救急センターを「3次機関」‐と位置付け、都道府県ごとに整備。2、3次機関は国の通知で、初期機関が対応できない場合は、すべての急患を原則受け入れるものとされている。

 しかし、この3層体制も夜間の急患に対応しきれていない。今回のケースでも断るなどした15機関のうち少なくとも7つは2、3次機関。このうち2次機関に当たる唐津市の病院は当直医2人で夜間に対応。1月3日夕から4日未明にかけては、脳梗塞(こうそく)や心疾患を含む8人の急患があり「手いっぱいだった」(総務課)。

 急患の増加も問題に拍車をかけている。佐賀県消防防災課によると、2005年の県内の搬送急患は2万8918人と、10年前に比べて1.5倍。高齢化や安易な119番通報の増加が背景にあるとされ、うち4割余りが休日・夜間に集中している。

 政府は2008年度予算案に、搬送要請に応じて受け入れ先を調整する「コーディネーター」を都道府県に配置する事業を盛り込んだが、手薄な夜間救急体制が改善されるわけではない。唐津市のある救急隊員は「出動指令があるたびに、今夜は受け入れ先が見つかるだろうかと不安だ」と話す。 (佐賀総局・南陽子、多久小城支局・座親伸吾)

=2008/02/28付 西日本新聞朝刊=