■地域で小児科救急を守る取り組み |
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午後9時。
一次救急施設である姫路市休日夜間急病センターは、まるで日中と変わらぬ混雑ぶりを見せていた。 |
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患者のほとんどは子ども。
これは、一次救急の現場ではどこでも見られる当たり前の光景だという。 |
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7歳未満の子どもの救急搬送数は、全国で年間およそ30万件にのぼる。しかし、その8割近くは緊急性のない軽症だ。 |
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【小児科の当直医は・・・】
「救急は不採算部門なので『奉仕の心』で成り立っているけど、それだけでは現実問題として難しい。やってあげたい気持ちはあるが、できなくなってきている・・・」 |
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そんな状況の中、去年、子どもの時間外救急患者が激減した公立病院がある。
兵庫県丹波市にある県立柏原病院。一次救急から入院・出産まで受け入れているが、小児科医はたった2人。しかも、1人は院長。実質1人で全て診なければならない状態だった。 |
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【柏原病院小児科 和久祥三医長】
「去年の3月は、絶望的な状況でした」
(Q.維持できているのは、なぜ?)
「『守る会』ができたからですね」 |
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『柏原病院の小児科を守る会』。子どもを持つ母親らで作る、丹波市の住民グループだ。
【柏原病院の小児科を守る会代表 丹生裕子さん】
「先生たちが困っているのを知って、何か役に立ちたいと・・・」 |
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【柏原病院の小児科を守る会 杉浦保子さん】
「柏原病院の現状を知っていただいて、丹波市民みんなができることはないかなという気持ちで活動させてもらっています」 |
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守る会の代表を務める丹生裕子さんは、自らも3人の子を持つ母親。その経験が、守る会の活動の原動力となっている。 |
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【柏原病院の小児科を守る会代表 丹生裕子さん】
「夜間の外来で、長男が2晩点滴に通いました。それでも良くならなくて、結局入院・・・。近くの柏原病院だったので、やりくりができた」 |
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おととし、3人いた小児科医が2人に減り、柏原病院の小児科は危機的状況に陥った。
このままでは、小児科がなくなる。それを知った母親たちが、「柏原病院にお医者さんを呼ぼう」と署名活動をしたのが始まりだった。 |
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しかし、日本中で小児科医が不足する中、医者は来なかった。
小児科を守るには、自分たちが変わるしかない。守る会は、地元住民に向けてメッセージを発信した。
(1)コンビニ受診を控えよう
「微熱がある」「薬が欲しい」と、ちょっとしたことで夜間・休日に病院に行くことを避ける。
(2)かかりつけ医を持とう
近所のお医者さんや診療所に『かかりつけの医者』を持ち、まずはそこで診てもらう。
(3)お医者さんに感謝の気持ちを伝えよう
医者だって人間。気持ちよく診察してもらうためにも、「ありがとう」の気持ちを言葉にする。
講演会などを通じて呼びかけたメッセージは、地元メディアにも取り上げられ、母親たちの間に着実に広がっていった。 |
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活動の成果は、数字になって表れた。
柏原病院小児科では毎月100件近くあった時間外の患者数が、40件程度まで激減したのだ。 |
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がんばるお母さんに、子どもたちは・・・?
【丹生裕子さんの長男・瑛一くん】
「ちょっと変やと思う。引き受けすぎ。応援したいけど、無理せんといてって感じ・・・」 |
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子どもたちの心配を他所に、丹生さんたち守る会は、夜に開かれる地元医師たちの勉強会にもゲストとして参加。
会場には、柏原病院の小児科医の姿もあった。
【柏原病院小児科 和久祥三医長】
「柏原病院の和久と申します。守る会に守られている小児科医です」
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「丹波の医療崩壊に解決策があるのかどうか、検討していきましょう!」
住民側と医療側、双方向からの取り組み。丹波の医療が変わろうとしている・・・。 |
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週末のある夜、現状を確かめるべく、取材班は柏原病院に密着した。
この日は、神戸大学付属病院から派遣された小児科医・今西寛之さんが、応援の当直。入院中の子どもや、新生児のケアに当たっていた。 |
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午後9時前、風呂上がりにけいれんを起こした2歳の男の子が運ばれてきた。
今西「何回もけいれんが起きるなら、一晩ここで様子を見たほうが良いかも・・・」 |
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記者「きょうは平和ですか?」
今西「平和ですね。患者さんの意識改革は、僕らにとってもすごくありがたいこと。きょう来てみて、この形でまとまっていけばすごい話だと思います」
この後、朝まで救急患者はなく、呼び出されることはなかった・・・。 |
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守る会が発案し、地元の印刷会社に製作を依頼していた冊子が完成した。
冊子は、子どもが体調を崩した時に保護者がどう対応すればよいかチャート式になっている。守る会珠玉の1冊だ。 |
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【柏原病院の小児科を守る会代表 丹生裕子さん】
「柏原病院の先生や市の保健師さんにも目を通していただき、たくさんの協力の下にできあがった物なので、本当に嬉しいです」 |
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守る会の取り組みは、ひとつの奇跡を生んだ。
噂を聞き、柏原病院で働きたいという小児科医が2人も現れたのだ。『小児科を守る会』が本当に守ったのは、地域の子どもたちだ。
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冊子の中身は、『柏原病院の小児科を守る会』のホームページからもダウンロードできます。
(県立柏原病院の小児科を守る会HP http://www.mamorusyounika.com/) |
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