■医師不足と収入減、救急病院の危機 |
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市民の命を背負う救急隊員。
その現場は、1分1秒を争う・・・。 |
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しかし、去年の暮れ、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
89歳の女性が、35回にわたり病院から受け入れを拒否され、翌日に死亡。驚くべきは、拒否された回数はもちろん、病院搬送までに2時間を要したこと。まさに「たらい回し」だ。 |
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この問題が起きたのは、大阪府南部に位置する富田林市消防本部管内。実情を取材した。
毎朝9時、業務引継ぎ式。隊員たちの24時間勤務が始まる。 |
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富田林市消防本部の救急係は10人が所属し、2班の交替制。
1班3人の救急隊員が24時間続けての勤務となる。この日、分隊長を務めるのは、芝池浩さん。消防と救急それぞれ10年以上の経験を持ち、統括を任せられるベテランだ。 |
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【富田林市消防署主幹 芝池浩さん】
「乱雑に書いてあるのが残っているだけ。後は記憶で出動内容を記載しますので、明日、あさってというわけにはいきません」 |
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夜間救急までに既に3件の出動があり、その合間を縫って、隊員たちは詳細な活動報告書の作成や事務作業に追われていた。 |
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午後5時半。
指令室では、毎日、この時間に周辺の夜間救急病院に直接電話をし、その日の当直体制を確認している。 |
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本来であれば、病院の情報を一括して把握できる府の医療情報システムがあるが、病院サイドで頻繁に更新することは現実的に不可能で、あまり機能していない為だ。 |
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隊員「交通事故の患者2名お願いしたいのですが・・・」
息つく間もなく入る救急指令は、夜も続く。
午前1時40分。ようやく、仮眠室へ・・・。 |
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午前3時12分。民家火災。
火災発生時は、全車両が出動する。 |
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芝池「ここは完全に無人ですね」
消化の目処が立ち、負傷者がいないのを確認したところで、芝池さんたち救急隊は次の出動に備えて撤収した。 |
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出勤から23時間、緊急指令。朝から雪が散らついていた。
【搬送依頼1件目】
芝池「血圧は触診で200。いかがですか?・・・そうですか・・・」
【搬送依頼2件目】
芝池「処置困難ということですか?」 |
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【搬送依頼3件目】
芝池「入院が必要であれば、我々その場で待機しますから、診察お願いできないですか?」
現場到着から、既に30分・・・。 |
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【搬送依頼8件目】
芝池「すいません。もう8件目になるのですが、難しいですか・・・?」
芝池「意識レベルは?2ケタ?」
患者の容態を確認しながら、電話をかけ続ける・・・。 |
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11件拒否され、ついに・・・。
芝池「3次対応かどうかは難しい判断ですが・・・」
本来は重症患者の最終受け入れ機関である3次救急病院へ連絡を入れた。
芝池「お願いします。今から向かいます」
到着から、1時間が経過していた・・・。
【患者の家族は・・・】
「けいれんが起きて意識がなかったので・・・。『呼んだらすぐに来てもらえる、運んでもらえる』と思って呼んだので、それがこんな時間かかってしまったら・・・」
「本当にどうにかしてもらわないと、自分の身に降りかかってきて、こんなに大変なんだって思いました」 |
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実際、富田林市では、去年1年間で10回以上拒否されたケースが123件起きていて、搬送時間が1時間を超えたケースも20件あった。 |
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【富田林市消防署 溝川秀敏署長】
「ここ2年くらいから増えてきました。最近はもう『常態化している』と言っても過言ではありません。救急を主に受け入れていただいている2次病院が崩れてきた・・・」 |
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この10年で、富田林市の救急件数は1.5倍以上に膨らんでいる。 |
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その一方、入院・手術を要する患者を主に受け入れる2次救急の病院数は、5年ほど前から減少に転じているのだ。 |
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富田林市の隣、羽曳野市にある城山病院。
ここでは、月平均で500件近い急患を受け入れているが、去年4月、急患の数が多い内科の診療を休止した。 |
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【城山病院 池浦達雄院長】
「ゼネラル(複数の科)に診られる医者が非常に少なくなりまして。色んな事情で内科医が引き上げたことが、大きな原因です。この地域の救急の2分の1はうちの病院が診ていましたので・・・」 |
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2004年、研修医制度が変わり、新人医師が研修先を自由に選べるようになった。
これにより、大学病院では研修医の確保が難しくなり、地方へ派遣していた医師を引き上げるケースが増えている。
さらに、追い討ちをかけるように診療報酬の引き下げが続き、2次救急を担う中核的な病院の経営を直撃。当直体制を組むことが困難になってしまった。 |
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それでも、城山病院では、来月から専門の科にとらわれずゼネラルに患者を診ることができる救命救急の専門医を派遣してもらえる方向だ。
【城山病院 池浦達雄院長】
「この地域で救急を30年やっているので、やはり責任を果たさないといけない。それが一番大きいですね」 |
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2次救急で対応できる症状までも、3次救急へ。
「これでは最後の砦をも崩壊させかねない」と危惧し、行動に出た自治体がある。最も人口の多い政令指定都市・横浜は、10月から新しい救急システムを導入する。 |
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隊員「火事ですか?救急ですか?どなたがどうしたのですか?意識の状態はどうですか?呼吸はどうですか?」 |
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これは、119番の段階で傷病者の重傷度を識別する『コールトリアージ』のプログラムだ。コールトリアージ自体は災害現場などで用いられてきたが、通報時での生式導入は全国初。 |
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もうひとつの目玉は、救命器具を搭載したミニ消防車の導入。
法律では1件の救急事案に対して『救急車1台・救急隊員3名』と決められている。しかし、横浜は特区申請をし、ミニ消防車を活用した柔軟な体制を組むことが可能になった。 |
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コールトリアージで軽症と識別された場合、救急車と救急隊員2名で出動。
一方、重症度が中程度の場合は、救急車とミニ消防車にそれぞれ2名の計4名が出動。そして、重症と判断された時は、これに加えて消防車と消防隊員も出動する。 |
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【横浜市安全管理局 坂野満司令長】
「救急車が出払っていても、救急隊員の乗務したミニ消防車がいち早く到着する。ファーストタッチをいかに早くして、救命措置の開始を早くするかということ」 |
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この制度には、もうひとつの狙いがある。救急車の適正利用だ。増え続ける救急要請だが、実は、6割以上が軽症者によるものなのだ。 |
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【横浜市安全管理局 坂野満司令長】
「『日焼けをして背中がヒリヒリする』『深爪をしてしまった』。そういう事例については、不適切と判断して救急車は出動させません」
「本当に危篤状態に陥った方々、救える命を救っていきたいと・・・」 |
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午前9時30分。再び富田林市消防本部。
【富田林市消防署主幹 芝池浩さん】
「あの時間帯は特に先生が忙しく、難しい時間だった。搬送先が決まって良かったです・・・」 |
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最後の報告書をまとめた頃、出勤から27時間が経っていた・・・。 |
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