企画特集:「竹島」
【波頭を越えて 竹島リポート 第3部】(5)「島根1区だから…」
「棚上げ」意識からの脱却
「そもそもね、うちの選挙区じゃなくって、1区の問題ですから」
島根県選出のある衆院議員の秘書は、竹島に関する取材依頼に、こう応じた。
竹島の住所は、島根県隠岐の島町竹島官有無番地。確かに衆院の選挙区は島根1区だ。秘書は「1区の細田(博之)先生を差し置いてお話はできません」と「1区」を3度繰り返した。
結局は島根1区選出の細田、2区の竹下亘、参院の青木幹雄の3議員が連名で「統一見解」としたA4の文書1枚を送ってきた。発信元は細田事務所。
文書は、竹島問題についての質問に対し、「地元の要望を毎年聞き、調整やアドバイスをした」「竹島の日などの行事に可能な限り参加した」とこれまでの取り組みを挙げ、今後は「請願にもあった竹島問題を所管する組織の設置」などに取り組むとした。
だが、ある自民党の島根県議は「調整やアドバイスなんて聞いたこともない。竹島問題は、島根県選出の国会議員が、国会や外務防衛委員会で取り上げて当然なのに、これまで一度も取り上げていない」と断じた。
7月の参院選。「保守王国」といわれた島根選挙区で3選を目指した景山俊太郎を破った国民新党の新人、亀井亜紀子は選挙戦をこう振り返る。
「1区の松江市美保関町を回ったとき、『細田先生は竹島問題に取り組んでくれない』という声を聞いた。期待は私に向いている、と感じた」
今年8月25日、連合中四国ブロックは、隠岐の島町で「竹島の領土権確立を求める集い」を初めて開催。あいさつした連合総合組織局長の大塚敏夫は「連合としては竹島問題はまだ議論し尽くされていない」としながらも、「労組、民間でできる課題を検討していきたい」と今後積極的に取り組む方針を明示した。
基調講演した拓殖大教授の下條正男は「竹島問題は右とか左とか何党だからではなく、日本人としてどうあるべきかを考える問題。連帯を組んで取り組む必要がある」と連合にエールを送った。
「外交は票にならない」とはよく言われるが、ある自民党島根県議は「今後は政治家も竹島問題を避けては通れないだろう」と話す。その動きは、これまでこの問題を棚上げしてきた政府・与党の外で広がりつつある。
亀井も、参院選で竹島問題に取り組むという公約を掲げたわけではない。だが、「自民では竹島問題は進展しないし、地方は活性化しない。だから私が勝ったんでしょう」とみて、こう語る。
「『竹島の日』条例には大いに賛同するし、領土問題は主張しないと解決しないのだから、外務省は政策を転換すべきだ。本来、外務省に働きかけ、動かすのが国会議員の役割なのに、島根選出の議員は、政府が本腰を入れていない問題をそこまでやりたくなかったんでしょう。でも、私はそれでいいとは思わない。
「竹島の日」に積極的に賛同する数少ない国会議員だ。
島根県知事を5期務めた前知事の澄田信義は「20年前は、竹島に触れれば日韓関係を阻害するのでは、と『タブー』のような雰囲気もあった。(「竹島の日」)条例ができて初めて、過激なナショナリズムに走らず、感情的になりすぎずに議論できる雰囲気が、日本にできた」と話す。
条例を機に、日本各地の自治体で韓国の自治体との交流が途絶え、澄田は批判の矢面に立たされた。だが、「領土問題については是は是、非は非で冷静に互いの主張を述べ、その一方で交流親善を進めるのは、決して矛盾しない。それがひいては日韓親善、世界平和にもつながる」と持論を貫いた。
引退後、澄田は北東アジア地域の自治体でつくる国際組織「北東アジア地域自治体連合」で、竹島問題解決の糸口を探っている。同連合は、行政、経済、文化などあらゆる分野での交流を進め、共同発展と世界平和への寄与を目指す組織だが、澄田にはこう映る。
「条例で交流が断絶した韓国の慶尚北道と島根県が、ここだと知事同士で会える。1対1ではできない議論が『多対多』だと案外できるんです。ここから新たな方策が見えてくるかもしれない」(文中敬称略)
=おわり
第3部は総合編集部の田井東一宏、木村さやか、大衡那美が担当しました。