艦船職員服務規程 第四章 航海長



第百七十三条
 航海長は其の担任所掌に関係ある事項に付き艦長を輔佐すべし。

第百七十四条
 航海長は艦長の命を承けて水路嚮導のことを掌り其の艦の航海操縦上の性能を熟知し之が計画及び実施に当りては常に細密なる考慮と周到なる注意とを払い万違算なきことを期すべし。

第百七十五条
 航海長は航海に先じ艦長の指示に基づき予定航路を立案して之を艦長に提出すべし。

第百七十六条
 航海長は其の艦航海中航行予定の変更を必要と認めるときは意見を艦長に具申し又予定に依る針路変換若しくは速力増減の時機に達するときは予め之を艦長に報告すべし。但し危険なる場合に切迫し報告の遑なきときは之を避ける為必要なる針路の変換若しくは速力の増減を当直将校に指示し又は自ら所要の手段を執ることを得。

第百七十七条
 航海長は航海中常に其の艦の位置を熟知し毎日午前六時、正午及び午後六時の位置を艦長に報告すべし。

第百七十八条
 航海長は出入港、狭水道通過、陣形運動其の他航行操縦上特に注意を要するとき及び屡針路変換速力増減を要する海面を航行する場合に於いては常に艦橋を離れることなく又艦長の命あるときは自ら艦の操縦を掌るべし。
 前項の場合の外航海長は艦長の定める所に依り必要に応じ当直将校に代わりて艦の操縦に任じ又は之を当直将校に引継ぐことを得。但し之が授受に当りては区分を明確ならしむべし。

第百七十九条
 航海長は艦長の命に依り針路の変換又は速力の増減を行うときは之を当直将校に通告したる後施行すべし。但し緊急の場合は此の限りに在らず。

第百八十条
 航海長は当直将校艦の操縦に任ずる場合には航海操縦に関する必要なる事項を指示すべし。

第百八十一条
 航海長は水先人を傭役するときは厳重に之を監視し若し其の執る所の針路の危険なるを知り又は其の技倆の拙劣なることを認めるときは直ちに之を艦長に報告すべし。

第百八十二条
 航海長は其の艦投錨したるときは其の艦位を精測して之を艦長に報告し航泊日誌に記註すべし。

第百八十三条
 航海長は海軍信号規程、艦隊運動程式其の他信号に関する諸規程を熟知して諸信号の迅速確実に通達することを期すべし。

第百八十三条の二 航海長は気象に関する研究を重ね常に気象変化の推移に注意し之が予知に努むべし。

第百八十四条
 航海長は見張に関する研究を重ね常に艦外に達する監視見張をして遺憾なからしめることを努むべし。

第百八十五条
 航海長は航海科の部署に関する訓練を監掌し之が方針計画を定め実施を指揮監督して其の熟達練磨に努め又航海、操縦、信号気象、見張及び操舵装置に関する一般の教育を按画指導して之が進歩斉一を図るべし。

第百八十六条
 航海長は其の主管の船体、艦船艤装品、機関、機関附属物及び兵備品の構造、来歴、性能、用法、効力及び其の現状を知悉し分担者を督励し他の主管者と協力して之を整理保在し且つ其の充実を図り以って常に実用に支障なからして特に兵器等の活用に関し充分なる研究練磨を積み事に当たり其の全能を発揮せしめることを期し又消耗品等の節約に注意し法規の制限及び予算の範囲内に於いて之を処弁することを努むべし。

第百八十七条
 航海長は其の主管の物件に異状欠損あることを発見したるときは速やかに其の原因を精査し必要と認めるものは之を艦長に報告すべし。但し事件重大なるものは先ず其の概要を報告し又緊急の場合に於いては報告に先じ適宜必要なる手段を執ることを得。

第百八十八条
 航海長は其の主管の物件中構造、修理、検査又は定額の変更、予算の増減等を要するものあるときは理由を具し之を艦長に報告すべし。但し乗員の手にて施行し得る検査修理等にして事態軽微なるものは此の限りに在らず。

第百八十九条
 航海長は其の主管の物件中乗員の手にて施行し得る検査、修理、整頓、手入等を要するものあるときは所要の人員を副長に請求し又は之が施行を分担者に指示し若しくは他の主任者に之を委託すべし。但し艦の行動航海に支障ある修理検査、調整等を施行せんとするときは予め艦長の許可を受けることを要す。

第百九十条
 航海長は其の主管物件の改造、修理、検査等を施行するときは其の作業の状況を監視し又兵備品等の還納若しくは領収するに当りては品質の適否、数量の多寡等に注意すべし。

第百九十一条
 航海長は戦闘後速やかに其の主管物件の欠損を艦長に報告し為し得る限り之を修補して爾後の戦闘に応ずるの準備を為すべし。

第百九十二条
 航海長は其の主管の物件中重要なるものの移動積換えを行わんとするときは予め艦長の許可を受けるべし。

第百九十三条
 航海長は航海科員を誘導監督し常に其の服務の状況に注意し之が才幹、技能、性行、健否等を詳知し下士官以下の進退等に関しては其の議に参与すべし。

第百九十四条
 航海長は副長の指示に依り航海科に充当すべき下士官以下の配置を立案すべし。配置変更を要するとき亦同じ。

第百九十五条
 航海長は主管兵器の器差を検査測定し為し得る限り之が修正を行い且つ水路図誌類は遺漏渋滞なく之を改補すべし。

第百九十六条
 航海長は舵取装置動力の転換使用に関し其の方法を研究知悉し置くべし。

第百九十七条
 航海長は常に艦内の時辰を整合すべし。

第百九十八条
 削除

第百九十九条
 航海長は戦則、部署、内規、操式、教範其の他諸法規令達中其の所掌に関する事項を熟知し其の厳格適切に行われるや否やを監視し又之に関し意見を有するときは案を具して艦長に提出すべし。

第二百条
 航海長は其の艦の運動要表を調製すべし。

第二百一条
 航海長は其の所掌事項に関する諸報告の調製に任ずべし。

第二百二条
 航海長は艦艇記録、羅鍼儀経歴誌、転輪羅鍼儀経歴簿、艦船機関来歴簿(航海長主管)、経線儀日誌、航泊日誌、信号誌、当直記録其の他所掌事項に属する図書、帳簿記録類を保管整理すべし。

第二百三条
 航海長は必要に応じ航海長通達簿を備え艦長命令の伝達、自己の令達通知其の他必要なる事項を記載し関係者をして閲覧承知せしむべし。

第二百四条
 航海長其の職を退くときは担任所掌に関する事項其の他必要なることを新任者に引継ぎ且つ直接保管の諸物件を授受し終えて新旧任者共に之を艦長及び副長に報告すべし。

第二百五条
 航海長は前諸条の規定に依るの外予備艦に在りては就役準備の整頓に従事すべし。