◎機能性白衣 全国に広げていきたい石川発
石川県内の繊維企業五社が、第三セクターの「繊維リソースいしかわ」のバックアップ
で全国に先駆けて機能性白衣を開発し、新年度から金沢医科大看護部に採用されることになった。
構造不況業種だとさんざんこきおろされてきた繊維産業だが、伸びていける可能性がま
だまだあることを理解させる開発であり、医療分野での石川発の新商品として全国へも販路を広げていくことにしている。
その成功を願わずにはいられない。頑張ってもらいたいものだ。
開発した白衣は何よりも付加価値でずば抜けている。伸縮性があり、疲労回復効果が期
待できるマイナスイオンが発生する素材を使って、動きやすさ、防臭性、抗菌性などを持たせている。定番のワンピースと、上着とパンツに分かれるツーピースの二種類がある。
二〇〇六年の終わりごろから金沢医科大の協力で開発に取り組み、医療現場のニーズに
基づき工夫を重ねてきた結果だった。
ここに至るまでにさまざまな試みを経てきた。繊維産業の活性化を目指して、まず一九
九〇年に国と県と地元企業が出資して株式会社の繊維リソースいしかわを設立した。
新商品の開発や人材育成の指導を担う第三セクターであり、繊維産地として栄えてきた
気構えや技術の蓄積をバネにして繊維産業が生きていくために婦人衣料を中心にした用途の多様化をはじめとしてインテリアやスポーツ、下着など新しい分野への進出の可能性を追求してきた。
自動車や土木の部材などの開発にも乗り出すなど、繊維や繊維産業のあり方に対する既
成の考えをひっくり返すというか、いわゆる「領空侵犯」も積極的にしてきたのだ。
そうした試みの一つが機能性白衣の開発につながった、医療すなわちメディカル分野で
の試みだったのである。この分野では機能性、防臭や抗菌性などをさらに高める手術着、シーツ、パジャマ等の開発も進めており、今度の白衣に先行して血流を改善するストッキングの開発に成功している。
斬新な企画を生み出す力、高度な生産技術、全国や海外にも目を向けた販路開拓の三点
で、業種を問わず、学び取ってほしい姿勢だ。
◎大学の特許急増 金大の顕微鏡研究に着目
国公私立大学や短大、高専などの高等教育機関が過去三年間で特許出願を三・七倍に増
やし、二〇〇六年度は九千九十件を数えた。国立大学の独立行政法人化移行に際し、国立大学の特許出願が年間わずか百数十件しかないと指摘されていたことを思うと、急激な様変わりといえよう。知財立国を目指すとした小泉政権時代の国家戦略が着実に実を結び始めているのは心強い。
これまで日本の大学は、いわば論文至上主義で、論文だけ書いて特許を出願しなかった
。ノーベル賞を受賞した田中耕一さんも論文を書いたものの、特許を出しておらず、この技術を使って利益を手にしたのはドイツの企業だった。私たちは田中さんの業績を誇りに思う一方で、偉大な発見を自国で生かせなかった苦い教訓を糧にしていく必要がある。
出願した大学発の特許のうち、実際に使われた特許実施件数は約二千九百件あり、この
なかで一番注目度が高いのは、金大が〇五年度に出願した遺伝子研究に関連した特許である。世界で初めて、動いているDNAを撮影した顕微鏡を発明し、既に日独米の三社に技術移転されている。大学が特許出願を通じ、社会に貢献した具体例であろう。
政府は、人の皮膚の細胞から初めて新型万能細胞(iPS)を作成した京都大学の山中
伸弥教授の研究支援を目的に、関連特許を一括管理する方針を打ち出した。再生医療の飛躍的な発展につながる研究を支援するのは当然だが、世界の最先端をひた走る優位性を維持しながら、国内企業がその果実を得て、国産化していく戦略が欠かせない。
米国では大学発のベンチャー企業がこれまでに四百社以上も誕生し、企業から得るロイ
ヤルティー(特許収入)も累計で一千五百億円に上るという。これは国費を使った研究成果を大学に帰属させることを認めたバイ・ドール法の成果といわれる。日本でも九九年に日本版バイ・ドール法と呼ばれる産業活力再生特別措置法第三十条が施行され、国立大学の法人化で、研究成果を死蔵させず、積極的に活用する空気が生まれた。バイ・ドール法の成立が米国より二十年遅れたツケを取り戻し、大学と経済の活性化につなげたい。