東備版で、岡山県南東部の東備地域にゆかりの深い作家たちのひととなりを振り返る「東備 文学の小みち」を連載しています。
岡山県は多くの小説家や詩人、歌人を輩出してきましたが、ここ東備も例外ではありません。正宗白鳥、柴田錬三郎、竹久夢二など“エース級”がずらり。取材を進めると、おもしろい逸話がどんどん出てきました。
たとえば、眠狂四郎シリーズを世に出した柴田錬三郎氏。生前、テレビのクイズ番組で見せていた豪快なイメージがあったのですが、常宿だった老舗旅館のおかみさんの回想では、瀬戸内の魚をあてに酒が入ると、「おかあちゃんを思い出す」とよく涙ぐんだそうです。
また、映画化された「秋津温泉」で有名な藤原審爾氏は備前焼を愛したのですが、なぜか作家とはほとんど付き合いがなかったようです。
<夕焼小焼の赤とんぼ>の作詞で知られる三木露風氏は、閑谷学校在籍中、三人の女性と交際したと言い伝えられています。
こうしたこぼれ話を聞くと、遠い過去の文豪の素顔が垣間見える気がして楽しい限りです。
それにしても、きら星のごとく時代を彩った人々だけに、もう少し地元で顕彰されてもよいのではないでしょうか。このことは恐らく全国津々浦々、普遍の課題でしょう。
時がたち、生前の彼らを知る証言者はどんどん少なくなっています。「何とかならないものか」。文学に疎い私でも、ばく然としたあせりのようなものを感じます。
(備前支局・二羽俊次)