2008年02月23日

続々・岡田斗司夫の「遺言」第三章

 前回前々回の続きです。

<ガイナックス第一次クーデター事件 その背景>
○ ゼネプロ時代からカウントすると三回目のクーデター。きっと僕の感知しない水面下ではもっとあった。
○ 岡田・山賀は実にならない会議ばかり。庵野くんは「トップ」を手伝ってくれた友達へのお礼としてコンテ切ったり原画書いたりする巡礼の旅に出ている。ゲーム班は毎週のように雑誌の取材が来ていてやけに景気が良い。一方、アニメ班はよそのスタジオのアニメの請け負い仕事ばかりさせられている。その頃のガイナックスは、アニメ班が「この会社はアニメを作る会社じゃないのか?」と疑うような状況であった。
○ 宮崎勤の幼女連続誘拐殺人事件が起こる。ちょうど娘が生まれた時期だったこともあって、ショックを受けた。「とうとうバレた!」と思った。
○ 宮崎勤と我々の違いとは何か。物凄く小さな違いだが、それを説明しようとするととても気持ち悪いことになる。彼を否定しようとすると同族嫌悪に陥る。
○ 僕らは、アニメは素晴らしい!アニメは世界にはばたくものだ!と口にし、作品を作ってきた。しかし、負の側面も確かにある。オタクを1万人集めたら5人や50人はヘンな奴がいる。5%はモンスターがいる(計算があわないけど、大勢集まればごく少数はヘンな奴がいるという意)。
○ 僕達が作ったアニメが誰かに負の影響を与える可能性を考えると、アニメに打ち込めなくなった。完全にスタック状態になった。
○ 宮崎勤事件に対する他のアニメ制作者の受け止め方には未だに不信感を抱いている。「仕事だから」と思考停止している。だが、僕は「仕事だから」という言い訳で簡単にスルーできなかった(ここいら辺は「絶望に効くクスリ」でも語ってましたな)

絶望に効くクスリ 9―ONE ON ONE (9) (ヤングサンデーコミックススペシャル)
山田 玲司
4091511864
○ その点、筒井康隆は偉かった。高校生が祖母を殺して自殺するという事件が起こった際、自作の影響が取り沙汰されると「自分の作品の影響で殺人者が出るのは仕方の。文学は世間に毒を播くもの。毒で良い」と言い切った。
(これは有名な、「大いなる助走」と朝倉泉による祖母殺害事件のことだろう。
大いなる助走 <新装版> (文春文庫)
筒井 康隆
4167181142

参考リンク:http://www.geocities.co.jp/SiliconValley/9776/izumi/index2.html

↓に、その事件への自作の影響を認めた際の対談の抜粋が
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley/9776/izumi/i_tutui.txt

 あと、1月に青森で起こった長男が母や兄妹を殺害した事件と「ひぐらしのなく頃に」との関連について筒井の「大いなる助走」と朝倉泉の祖母殺害事件を引き合いに出した↓が面白かった。
http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20080114/1200283195

 将来もこの類の事件が起きる度に、筒井の「文学者として立派な態度」は言及されるのだろうと思う)

○ 個人が生み出し、個人が責任をとる「文学」なら、それで良いのかもしれない。でもアニメは違う。アニメは人が集まって、システムで作る。人の気持ちによりかかって作るエンターテイメントだ。それがシステムそれ自体を否定しては駄目だ。
○ 「俺達はトンカツ屋なのだから、料亭みたいな高級なものではなく、旨いトンカツを出す」のオタクなりのアレンジ。
○ 覚悟を持って毒を撒く天才は世の中に三人くらいで充分だ。富野由悠季と、筒井康隆と、えーとえーと、あと誰か。

<ガイナックス第一次クーデター事件 その実際>

○ ガイナックス創業者の一人にしてもう一人のプロデューサーでもある副社長の井上博明くんが、上記のような理由でなかなか自社作品を作ろうとしないガイナックスの状況を見かねておこしたクーデターであった(井上博明については岡田がTVブロスのコラムで書いた「井上博明伝説」が最高に面白い)。
http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/priodical/mayoimichi/TVBROS12.html
http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/priodical/mayoimichi/TVBROS13.html
○ 全てのアニメ・ゲーム会社のみならず、多くのベンチャー企業やクリエイター集団が抱える構造的欠陥として「創業者と創業二年以内に入社した人間が実権を握る」というものがある。後から入った人間はなかなか「自分の」やりたいことができない。サンライズやジブリに就職して「自分の」作品が作れるわけはない。
○ ガイナックスもその例に漏れず、自分と大阪芸術大学出身の庵野・山賀・赤井で企画が回っていた。そこでガイナックスを「大阪芸大グループ」と「それ以外グループ」に「分ける」ことを考えた。具体的には、東京造形大学出身であるが才能溢れる貞本義行と前田真宏を切り離そうという計画だった。
○ 「この会社にいたら駄目になるよ」では人はついてこない。「俺についてくればこんなことがあるよ」という餌で釣る必要がある。そこで井上さんが用意したのが、今でもどうやってもってきたのか信じられないのだけれど、なんとNHKのTVシリーズだった。それが後の「ふしぎの海のナディア」。
ふしぎの海のナディア DVD-BOX I
鷹森淑乃 日高のり子 滝沢久美子
B000N4SG6I

ふしぎの海のナディア DVD-BOXII
庵野秀明 樋口真嗣
B000RG1BIC

 ちょっと脱線
○ NHKは受信料や税金といった国民の金で運営している。しかし、NHKで製作した番組の著作権は国民に無い。ちょっと考えればこれはおかしい。
○ NHKは放送法で「営利を追求してはならない」と定められている。そこでNHKは子会社や関連会社に番組制作を発注するという形で、グループ全体として著作権を私有化している。
○ 「ナディア」はNHK→総合ビジョン→東宝→グループタック→ガイナックスという形で来た仕事。ガイナックスに作品の権利はない。
ここで「ネットにアップする時は気をつけて書いてね」とフォロー
○ だが、それにも理由がある。完全な公共物だと誰も儲からないのでメジャーにならない。他国との競争に勝てない。そもそも、18-19世紀の出版物立ち上げの際に発生した著作権という概念が、現在のネット時代に対応できないという問題がある。
 脱線終わり

○ 何故井上くんは貞元を誘ったのか。絵描きには「自分より絵が上手い人には頭が上がらない」というカブト虫みたいな習性がある。かなり年上のスタッフでも貞元くんの絵コンテやストーリーボードを見せると「協力させて下さい」と言ってきた。貞本くんを監督に据えれば他のスタッフもついてくると判断したのだろう。
○ この絵描き順列制度唯一の例外は江川達也。なにしろ「この絵を書いた奴なかなか上手いじゃん。俺のアシスタントに欲しいねぇ」と手に取った絵がレオナルド・ダ・ヴィンチの絵だった。大友克洋もギリギリまでふんばったが、後ろ姿をみると尻尾が下がっていた。
○ 井上くんはプロデューサー専用兵器であって万能兵器では無い。プロデュースすることに長けてはいても、プロデュースする作品内容に興味は無い。僕と山賀くんが話し合っている企画会議で居眠りするほど。
○ 貞元くんが欲しかったのは、山賀くんにとっての僕のような、カウンセリング技法をしてくれる相手であったので、プロデューサーが井上くんでは自信が持てなかった。「好きなものをやって良い」という井上くんと「自信がない」という卓本くんとの間でクーデター計画は次第にグダグダになり、知らない間に頓挫していた。
○ クーデターの真相を知ったのは、来週の水曜日にガイナックスとNHKとグループタックの社長と三社で会議を行うという前週の土曜日。その時の貞本くんの台詞が凄い。「岡田さんは知ってると思ってました……」そんなわけないだろ!
○ 「ふしぎの海のナディア」の最初期の企画書は、まるで前の晩に「ラピュタ」を観た中学生が一晩で書いたようなシロモノだった。「これ『ラピュタ』にそっくりだよね?」と指摘すると、「それNHKに言ってやってくださいよ」と返される。
○ NHKの担当プロデューサーはお年を召したお爺さんだった。「ラピュタ」との類似を指摘するも、認めない。それでも指摘し続けると、仕舞いには倒れて入院しまった。「俺、人が泡吹いて倒れるところを初めてみたよ!」
○ 後から知ったのだが、「ラピュタ」と「ナディア」はもともと同じ企画で、海賊が空賊になったものが「ラピュタ」となったのだ。そのお爺さんは企画を立ち上げた人間の一人で、彼からすればこの企画が「ラピュタ」のパクリでないことは明らかだ。
○ クーデターは起こされる方にも責任がある。特に、アニメを作ることが目的で立ち上げた会社でありながら、長期間アニメを作れない状況にあったので、井上くんや卓本くんを責めきれなかった。彼らの罪悪感を薄れさせる為にも、なんとか企画を形にしたかった。
○ メインプロットは変更できないが、かなりのアレンジを加えることは認めて貰えた。いつものガイナックスのように作り手のテーマを込めつつ、しっかりした冒険活劇でありつつ、時代性をこめたものにしようと考えた。
○ だが、製作の打ち合わせをしていく中で、「ナディア」の製作が時間や予算的にとても厳しいものになるであろうことがみえてきた。宮崎事件でのモチベーション低下やクーデターのショックもあり、この時初めて引退を考えた。この打ち合わせで卓本くんは音を上げた。
○ 特に卓本くんの本分は絵書きであるので、作画の乱れが当然のように予想されるTVシリーズで、自分がデザインした絵が乱れることに耐えられない。結局のところ、そういった厳しさを敢えて引き受ける男気のある奴か、目を瞑れる馬鹿にしか、監督という仕事はできない。
○ そこに「才能は人の10倍あるが、何かが人の1/10しかない男」庵野秀明が現れる。「岡田さん、ボクがやってあげても良いですよ」と、ニヤニヤしながら言いやがる。もう彼しかいないので頭を下げると、更にニヤニヤしながら「貸しですね」。おかげで上手く収まったが、いまだに悔しい。「あいつは、あの状況下で自分以外に監督を引き受ける人間が居ないこととか、NHKでTVシリーズを監督する美味しさとか、すべて分かった上で言ってるんだよ!(笑)」

<90年代初頭のガイナックス>
○ 「プリンセスメーカー」や「サイレントメビウス」といったパソコンゲームが稼ぐ金で会社が持っていて、その金を「ナディア」の製作で使い切るという状況が続いていた。
○ アニメ製作の為にゲーム班で頑張っている赤井くんは左手仕事ばかりしている僕や山鹿くんに大演説をブチ上げたりした。でも山賀くんはそんなの関係ねぇとばかりに新潟帰郷。庵野くんは会社の状況に頓着せず、「ナディア」で湯水のように金を使う。
○ でも、クリエイターはそれで良い。経営者の苦労やら何やらを理解する必要は無い。

<「銀河空港」話>
○ 「ナディア」と同様に井上くんがクーデター計画の一環として水面下で準備していた作品。貞本くんが「前田真宏となら何かできるかもしれない」と監督を引きうけ、三人で企画を進めていた。
○ 前田真宏には圧倒的な才能がある。
○ ゼネプロ時代にブレードランナーの版権が取れたので、グッズ展開をすることになった。庵野秀明や園田健一にイラストを発注し、ポスターとして売った。
○ 当時ゼネプロに出入りしていた前田くんにも何か書いてきてよと声をかけたら、一ヶ月後に持ってきた絵が凄い。油彩のような水彩画で、激しい雨が一枚の写真に降りしきっており、雨でよく見えないがその写真には微笑む女性が写っている、というもの。
○ 一目で「ブレードランナーだ!」と分かるイメージの絵だが、同時に「これは売れない……」と誰もが直感する絵。ブレードランナーなら、スピナーがビューンとか、デッカードが銃をバーンとか、もっと分かり易いものでないと売れない。圧倒的な才能を使いこなすのがこんなにも難しいことであるとは思わなかった。
○ 以降、アニメ製作の現場でも前田くんを使いこなせる人はいなかった。「王立宇宙軍」の人類の歴史を振り返る場面とか、「トップ」の宇宙怪獣のデザインとか、「ナディア」のアトランティス文明とか、「誰も見たことがないようなものは前田先生にお願いしよう!」みたいな感じ。数年前に前田くんが監督した「巌窟王」ですら手のひらサイズに圧縮された前田くんが作ったようなのもの。本人ですら自分の才能を使いこなせていない。
○ 井上さん指揮下で、貞本くんが「前田真宏となら何かできるかもしれない」と、共に進めていたアニメが「銀河空港」。パイロット版まで出来ていた。
銀河空港- Route 20: Galatic Airport Pilot Film


○ パイロット版が出来たとき、井上さんが、「見て欲しいものがある」と見せてくれたが、エンドクレジットに自分の名前があって驚いた。
○ 舞台は未来の植民星。そこでは人間とロボットが共存している。ロボットには開発初期の単純なものから、意識を持って独立して動き回るものまで、色々なものがいるが、大昔に主人であった人間とロボットの間には差別構造が残っている。
○ その星には地球へいく宇宙船が発着する「銀河空港」があって、一種のデートスポットみたいになっている。「いつか地球へ行きたい」という少女の願いを叶える為、主人公である男のロボットが自分の体をバイクに変えて、「銀河空港」まで送り届ける話。要はロボットと人間による「ロミオとジュリエット」。ロボットと人間の中間的存在であるサイボーグ(ハカイダーみたいな)が登場し、少女の親の依頼で二人を引き裂こうとしたりする。
○ 主人公は自分の体をバイクに変化させたら、二度と元の体に戻ることができない。テーマは「バイク」、もしくは「人間にとっての機械とは何なのか」。貞本くんはバイク乗りで、バイクの部品を削り出しで自作したり、エンジンを風呂場でオーバーホールする為に何日も風呂に入れなかったりというような生活を送っていた。そんな「バイク愛」に基づいた作品を作りたかったらしい。
○ 普通、このパイロット版くらいまで準備が進んでいたら作品を仕上げるまであとちょっとなのだが、結局形にならなかった。
○ まず、貞本くんも前田くんも、どちらも作品に対して一歩引いていた。強力なイニシアチブをとっていなかった。山賀・赤井・庵野の三人も反応が薄かった。僕もその「バイク愛」を共有できなかったので、カウンセリング技法の相手になれなかった。まだ「萌え」の方が理解できる。話として理屈が通らなかったので、物語の着地点が見つからなかった(一時期ちょっとだけバイクに乗っていた自分としては、貞本義行がやりたかったであろうことがなんとなく分かります)。

<澤村武伺の招聘>
○ ガイナックスがいろいろな面で行き詰まっていた。自分もアニメ製作に情熱を失っていた。将来の引退を見据え、袂を別っていた澤村くんを大阪から呼び出し、新社長に据えた。
○ 何故袂を別っていたかについては「男のプロテクト」が今でも有効なので話すことができない。ともかく、澤村くんはガイナックスに対して愛憎半ばした思いがあり、当時、兜町の風雲児としてブイブイ言わせていた彼は自分の金持ちぶりをアピールする為、ロレックスの腕時計をはめて颯爽と現れた。ゼネプロの昔を知る者は新社長が澤村くんと聞けば「あの人しかいない」としっくりくるのだろうが、知らない者にとっては「ロレックスをはめた変な人」だったのかも(岡田斗司夫や庵野秀明と比較して、澤村武伺という人物は有名でないのであまりピンとこないのだが、ここいら辺については後述)。
○ だが澤村くん男気溢れる人物だ。大阪の不動産を処分したお金○億円を手土産として持ってきた。奥さんは、そんな会社の社長になるなんて辞めてくれと泣いて止めたそうだが、そりゃそうだよねぇ。
○ 後も、「エヴァンゲリオン」後のガイナックス脱税事件についての全ての責任をひっかぶって、刑務所に入った。本当に男気溢れる人物。

……と、こんな感じか。
 この後、質疑応答やら何やらがあったのだが、埼玉在住の私は終電があるので後ろ髪を引かれながら途中退場した。GyaOとかでした話はもう一回しなくて良いよ!なんて思ったよ。


 全体的に、とにかく面白かった。書ききれなかった感想について書こう。

 まず、「トレスコ」はいかにも末期的な企画だなと思った。昔のテレビ映像風とか、記録映画風とか、様々な調子の映像を切り替えることで演出の一端とする技法は今ではもう普通だ。例えばスピルバーグは「ミュンヘン」で、70年代テレビ映像風の若干ボヤけた映像で導入部を撮っている。「デス・プルーフ」や「プラネット・テラー」はグラインドハウス映画の雰囲気を再現する為にフィルムにわざとダメージを入れている。一番こういうことに意識的だったのはミュージックビデオ出身の監督で、例えばスパイク・リーは「クルックリン」で見せた何十種類もの色調の映像を使い分けていた。
クルックリン
ゼルダ・ハリス アルフレ・ウッダード デルロイ・リンドー
B000M7XQ48

 でもこういうのって、何か表現したいものがあって初めて有効な手段なんだよな。凝った映像技法をみせたい!という願望が先にくるわけではない。そういう意味で末期的だと思った。

 次に、宮崎勤事件への言及について。一時期の岡田斗司夫はオタクのダークサイドである宮崎勤事件に関して敢えて口をつぐんでいるような所があったのだが、この段になるともう喋らずにはいられないと思ったのだろう。
 宮崎勤がオタク(或いは「おたく」)であったかどうかについてはこの際問題ではない。彼は小児性愛者でも死体愛好家でもなく、肉親の中で唯一敬愛していた祖父を生き返らせる為のオリジナル儀式の一環として幼女を殺害したのではないかという意見が現在では一般的だ。
 だが、当時はそうではなかった。宮崎勤は「おたく」の一員であると見なされた。ニュースで放映された部屋の様子から、当の「おたく」も宮崎勤との近親性を感じた。マスコミは「おたく」に対するバッシングを展開し、世の中全てが「おたく」を社会の敵とみなしたかのようだった。

 だから岡田斗司夫が受けたショックもよく理解できるのだが、一方で作品が含む「毒」についての意見は意外だった。
 全てのクリエイターは他人に影響を与えてナンボの世界なんじゃないかと思う。他人に与える影響の、その絶対値が大きければ大きいほど嬉しいんじゃなかろうかと思っていたのだ。

 そういや、上記でも触れたが、筒井が殺人事件への自作の影響を認めた際の対談がすごい。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley/9776/izumi/i_tutui.txt

岸田:ぼくなんか、全然できない。それにしても筒井さんの作品がもっと強い毒を含んでれば、あの子は、お祖母さんを殺したからって、自殺なんかしなかったかもしれない。こんなばばあを殺したからと言って、自殺することはないと。もっと進めば、こんなばばあとおれの一生を引き換えにするのはアホらしい、殺すにも値しないと自信を持って無視できたかもしれない。あの年ではなかなかそこまでいけなかったと思いますが。

筒井:毒が不足だったんだな。『大いなる助走』で、主人公を死ぬ気で行動させたのがいけなかった。


「もっと強い毒を含んでいれば」ですってよ!でも、私も確かにそう思う。

 ただ、岡田が「アニメは違う」という根拠が、自身のアニメ製作体験に根ざしているから簡単に否定できないのも事実だ。この三回のイベントを聞いてきて思ったのだが、人間が多数集まってものづくりを行うってのは、本当に大変だ。最初は仲良しだったり、良好な友人関係を保っていた者たちも、真剣にものづくりをしていくなかで衝突していく。いくらゲームやアニメが虚構の世界の産物だとしても、それを生み出す中での軋轢はまごうことなき現実だ。その現実体験に根ざした意見であるから、簡単に否定できない。

 あともう一つ、このレポートを書く参考の意味合いもあって「のーてんき通信―エヴァンゲリオンを創った男たち」を再読したのだが、いや、これ本当に面白いよ!!
のーてんき通信―エヴァンゲリオンを創った男たち
武田 康広
4847014073

 例えば、岡田が「男のプロテクト」として話さなかった澤村武伺離別の理由について「ゼネプロ運営で僕(武田康広)と意見が食い違った」とハッキリ書かれていたり、クーデター事件についても「岡田君と井上さんの関係が悪くなっていて、一種の主導権争い」と別視点で書かれていたりする。「ナディア」は井上博明企画時点で大赤字になることが明白であり、その責任をとる形で退職したらしきこととか、澤村武伺復帰時期について齟齬があったりとか、実に立体的に楽しめる。一方で、宮崎勤事件については言及ゼロだったり、「ナディア」初期監督だった貞本義行について「ある人物」と名前を隠していたりする。「遺言」イベント参加者は読んで損の無い本だ。……わざわざロフトプラスワンに来るような客は強者ばかりなので、参加者の半分くらいは読了済みな気もするが。

 澤村武伺については大学時代にSFショウ開催に絡めて初めて出会った頃からの記述がある。ちょっと引用したい。

 この澤村くんは変わった経歴を持っていて、お父さんが人形浄瑠璃の振り付け師で、芸人の家に育ったという。(中略)澤村君は宇宙軍で知り合った岡田君から関S連の存在を聞き、わざわざ自分の大学にSF研究会を設立して関S連に入会してきたという行動力のある人物だった。澤村君と知り合ったことがその後のぼくらの精力的な活動の大きなポイントになる。ここ一番の度胸がいいというか。「役者やのう」というのか。初めてのイベントで舞台周りのプロの専門家に対してやや気後れしていたぼくたちだったが、澤村君はお父さんの知り合いの舞台の専門家の名前を出してあっという間に舞台裏のイニシアティブを握った。あのあと澤村君に「さすがに舞台のことは詳しいなあ」と言ったところ「僕は舞台のことは何も知らん。親父の知り合いの名前をだして押し切っただけや」と言っていた。あっぱれである。


 おまけについてる庵野・山賀・赤井の対談でも「岡田---澤村ラインが謎」なんて台詞が出てくる。庵野・山賀・赤井のクリエイター三人で企画を回していたのに対して、岡田・澤村・武田の三人で会社を回していたんでしょうな。

 その武田康広が「仕事をしないので辞めてもらった」とハッキリ書いているガイナックス退社時について語られるであろう「遺言」第四章が非常に楽しみだ。ちゃんとチケット買えるかなぁ?

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(08/02/05 02:36 レコーディング・ダイエットのススメ) 『遺言』第三章 「岡田斗司夫の関連映像作品のテーマ語り&記憶を語り継ぎましょうイベンヮ..
岡田斗司夫の『遺言』第三章 2月12日開催【「エヴァ板とガイナスレ用だよ」Blog】at 2008年02月23日 11:26
●フロイライン綾波に包帯バージョン発売? http://akibahobby-b.sakura.ne.jp/image/20080224/w022.html 腕と頭だけ差し替えなら、制服バージョンが出るときに??.
フロイライン綾波に包帯バージョン発売?【エヴァ緊急ニュース】at 2008年02月25日 03:20
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