24日に橋下徹・大阪府知事が大阪府立女性総合センターを視察に訪れるというので、センター存続を求める署名などにも参加するため、現地に出かけました。当日行われたイベントにも、当然知事は現れるだろうという期待もあり参加したのですが、肩透かしを食らいました。聞けばだいぶ駆け足で廻られたようですが、この程度の表面的な「視察」だけで政策決定されるようでは困ったものです。
2月24日、橋下徹・大阪府知事が大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)を視察されました。私はその取材のために大阪入りしました。
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「ここの事業は絶対に必要。だがここの箱モノが必要なのか疑問」と橋下徹知事=ドーンセンター視察で(livedoor ニュース)
橋下知事は「府営施設は2つの図書館以外不要」という方針を打ち出しています。しかし「そうはいっても現場を見ずに廃止を言うのは乱暴だ」という批判もあり、現地視察を始めています。
知事がお見えになると言われていたこの日の夕方、私は7階大ホールで開催されていたメーンイベントに参加していたのですが、残念ながら知事の姿を拝見することはできませんでした(目撃者によると、ホール入り口のドアを少し開けて覗かれただけということ)。肩透かしを食らった形です。
左:次々立ち止まって署名してくれた来館者。右:男性も署名してくれました。
■存続求める署名活動に、暖かい励まし
これに先立つ当日の昼過ぎから、私は
「好きやねんドーンセンターの会」による、ドーンセンター存続を求める署名活動に参加していました。
この会は、ドーンセンター利用者や存続を求める府民らで急遽立ち上げた団体です。府外在住の男性である私にとっても、このセンターは、過去、イプセンに関するイベントや、女性の労働問題に関するイベントなどに参加してきた、思い出深い場所です。時にはボランティアとして、汗を流した思い出もあります。大阪府民だけでなく、府外の人も多数参加する、男女共同参画についてのイベントなどにとって大事な拠点と考え、今回の署名行動に参加したのです。
この日は寒風が吹き荒れ、時には雪が舞う中、一生懸命署名を求め、多くの来館者の皆様にご協力頂くことができました。女性だけでなく男性も署名をしてくれました。途中、館内1Fにあるギャラリーの人も、進んで署名をお願いする行動に参加してくれました。
ある、センター利用者の女性は「頑張ってください」と励ましの言葉をかけてくれただけでなく、わざわざコンビニに走り、差し入れまでしてくださいました。
また若い女性2人組は「えー!センターなくなっちゃうの?まじ!?」と驚き、快く署名してくださいました。
■「メインイベント」で待ち受けるが……
この日行われた一番大きなイベントは、センター共催事業である、「『こほろぎ嬢』上映&吉岡しげ美コンサート」です。
知事は15時から始まったこのイベントに、当然姿を現すだろうと考え、私も参加していました。
シンガーソングライターの吉岡さんは、金子みすず(みすヾ)の詩「みんなちがってみんないい」などを、オリジナルの作曲にのせて、歌いました。次いで、浜野佐知さん監督の
映画「こほろぎ嬢」が上映されました。
上映前に、浜野さんからこの映画を作った背景についてお話がありました。「こほろぎ嬢」は、昭和初期に活躍した尾崎翠が原作の同名の小説など3篇を元につくったものだそうです。
浜野さんは、
「男性の高名な文芸評論家が、尾崎は不幸だと断じていた。私は、彼女の故郷の鳥取を取材して、そんなことはないと思った。しかしその男性評論家は『尾崎は筆を取れなくなったから不幸に違いない。普通の女性のように嫁にいけなかったから不幸に違いない。』と言い出した」しかし「尾崎翠は、自分から選んで結婚しなかったのだろうし、自分で選んで筆を執らなくなったのかもしれない」と語り、この男性文芸評論家への反発心などが、この映画製作の動機になったと説明しました。
この映画は、自主制作で、かなり、お金の工面が大変だったそうです。映画にも出演した吉行和子さんの妹・理恵さんは、尾崎翠についての書評を書いていて、この映画の完成も楽しみにしていたが、ロケ直前になくなられた。その遺産の300万円を寄付していただいたことで、かなり助かったということです。
そんな苦労話などを聞き、この映画の意義をよく理解することができました。
また話の途中「橋下知事が今日、来られているようなので、来られたらノーギャラで特別出演していただきましょう」と、爆笑を誘う一幕も。映画の内容については「ネタバレ」してはいけないので、実際に上映会に足を運び、ご覧になってください。
吉岡さん(左)と浜野さんの対談。橋下知事は結局最後まで現れず。
次いで、吉岡滋美さん(左)と浜野佐知さん(右)のトークショーがありました。
最初は、お2人の苦労話も交えたお話です。映画業界は浜野さんの若い時は、採用募集はまさに「大卒男子限定」という差別がまかりとおっていたそうです。
浜野さんは「最近、NHKの番組で女性監督を取り上げたが、インタビューをした男性NHK職員は『これはレズを奨励する映画じゃないよな』など、心無い質問をした」そうで、今でもそういうあからさまな偏見があるのだなと、取り組みの大変さが伝わってきました。そうした男性目線の発信がまだまだ主流の中で、女性の視点にこだわった制作活動をされていることに、心を打たれました。
さらに浜野さんは、橋下知事によるドーンセンター廃止の動きにも言及。「残念ながら、ドアをちょっと開けただけのようですね」と知事にチクリ。「東京では、女性財団が石原知事につぶされてしまった。大阪を東京の二の舞にしてはいけない」と語気を強め、拍手を受けました。
私は、このメインイベントに最後まで参加しましたが、橋下知事は会場中には結局現れませんでした。
■「事業内容」には関心がない?橋下知事
後で橋下知事の動きを追っていた友人に聞くと、知事は、私がいた7Fホールの前までは来られた。しかし、ドアを少し開けて、中を覗いただけで立ち去られたそうです。
ある女性は「知事は、2階と3階は見て回ったが、そのほかは駆け足だった」と証言しています。
また、別の女性はこう証言します。
「こどもたちがたくさんいる部屋に知事は行った。しかし、入り口にとどまり、足を踏み入れようとしなかった。子供が嫌いなように見えた。また、知事は質問を回りのものにしていたが『予算はいくら掛かるか』ばかりを聞き、『何をしているか』には全く興味がないようだった」
■「不正確な情報」で政策決定する恐ろしさ
私は、橋下知事に対して、同じく都道府県の行政に携わる人間として(一般職員と知事の違いはありますが、一般職員でも担当業務は知事の名前で行うのです)、あきれてしまいました。
例えば広島県でも、今は、監査委員による監査が行われる際には、経理状況(お金の出し入れ)を調べるだけでは不十分とされる時代です。最近では、県議の監査委員を中心に「どういう事業をやっているか」に監査の重点を置くようになっているのです。
あるいは、県職員の私が、市町村や事業者の指導に行く場合でも、「相手のお話を伺う」という姿勢で臨みます。そして当然、半日くらいはかけてお話を伺います。それでも、まだまだ実情を掴むには不十分かもしれないという意識を持ちながら、結果を今後の業務に生かすための努力をするのです。
今回の橋下知事のように駆け足で廻るだけで、しかも当日行われていた「最大のイベント」をご覧にならない。それで「視察した」というのはいかがなものかと思います。
知事はお忙しいので、お一人では駆け足にならざるを得ないという意見もあるかもしれません。しかしそうであれば、、知事が信頼する部下に、手分けしてゆっくり現場や府民の話を聞いて廻らせる。その上で、その部下に政策決定の参考になるような意見をまとめさせる、という手だってあるのです。
大阪府は西日本最大の都道府県です。そのトップが今回のような視察を元に、府の政策を左右するようでは困ります。
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