一人で始めた虚報との闘い

三浦和義


【報道冤罪を許さない 本人訴訟を】


三浦さんは大ぎな拍手に迎えられ、[今日まで、私のことに深い関心を持ち続けて下さったことに深く感謝します。本当にありがとうございました」と述べて次のように話した。


◆24時間、メディア監視下に

84年1月18日、『週刊文春』が発売されて以降いちばん困ったのは、家族が24時間、新聞、テレビ、週刊誌などメディアの監視下におかれたことです。門の外で、記者が郵便受けに手を突っ込んで郵便物を抜き取り私たちの目の前で堂々と封を破って中を見たあげく、捨てるということもありました。

 私と子どもが外を歩いていると、「子どもを突き飛ばせば、三浦は立ち止まって抗議する」と突き飛ばされたこともあります。抗議すると私が怒った顔をアップにして、「取材に対して三浦はこんな乱暴な暴カ団のような...」と放映される。スーパーに買い物に行くく50人ぐらいがついてくる。買った品物を見て公衆電話に走って「きょうの三浦邸の夕食はすき焼きです」と、局や新聞社に電話するわけです。家の前には朝から晩まで24時間ーテレビ局のワゴン車など15台前後停まっていたと思います。

 記者が冷静に冷静に名刺を出して、社会人として常識的な取材をしてきたら、取材に応じたと思います。ところが、ほとんどのメディアは、カメラを突きつけ、どこの会社かと聞くと「てめえに言うことなんかあるか」、会社にも階段の途中まで追いかけて来て、「殴れば立ち止まるから、映像が撮れる」と、実降「新聞社系の週刊誌」を名乗った記者に殴られたこともありました。

◆悩んだ末、本人訴訟に着手

 85年9月に逮摘された後、「こんなでたらめな報道にあっていったいどうすればよいのか」く本当に悩みました。そのまま放置すれば、報道が事実として皆さんの胸に残ってしまう。

 当時私を犯人だと思っていた人は正常と思います。あれだけの報道の中で、そう思わない人は逆におかしい。拘置所に面会に来てくださった人権と報道・連絡会の方の中に支「最初は三浦さんを犯人と思っていた」と言う方がいました。それが当時の報道に接Lた人のごく自然な受けとめ方だと思います。

私は悩んだあげく、「報道は事実ではない」とはっきり言つために、朝日新聞はじめ多くの新聞社に抗議のした。しかし、半分以上は返事ももらえない。返ってきても「当社としては信じるに足りる取材・報道をした」で終わりです。

 私は1個人です。しかし新聞社は何億という資本金を持った大会社です。1対1になるのはどうすればいいのか。結局民事訴訟を起こして、法廷に彼らを引き出し、裁判所にどちらが正しいか判断してもξつしかない、そう考えて、、初めて訴状を書いたわけです。

 訴状は、「「本人訴訟はこうすればできる」という本を参考に書き、そうしてこれまでに486件の訴状を出して争ってきました。

 当時、私がいちばん悩んだのは、日本には報道被害を訴えていく第三者機関がない、ということでした。報道やメディアに対して警告を出してくれるような機関がない、最近、テレビ界にはBROに関ずる委員会機構ができましたが、その第一回の判定をみるくやはりメディア寄りの印象があります。そういう不満は今でもあります。

 結局個人がメディアと闘って、ごく当たり前に誤りを正させるには民事訴訟を一人で起こすしかない、なぜ一人でかというと、日本の民事訴訟の判決は、勝訴して良いいところ100万円。弁護土を立てれば、その謝礼などでほとんど消えてしまって、1割り残ればいい方。それが今の判決状況です。それで、本人訴訟でやり始めたわけです。本人訴訟はどれぐらいでできるか。仮に300万円の損害賠償を磧球する訴訟を起こした場合、印紙代は2万4600円、一それに予納郵券などを入れても3万少し。あとは、ボールペンー本と若干の努力さえあれば、だれにでもできるのです。

 ◆立証責任はメディア側に−

 名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させた、というところで発生します。関連する法律は民法723条などです。メディアが訴訟に負けるということは法を侵したということ。メディアは人の行為を責めながら、平然と法を侵し続けたのです。裁判所が名誉毀損を免責する条件は、報道が

1 公共の利害に関し
2公益目的で真実または真実と信じるに足る相当の理由があった場合です。


それが立証できれば免責されますが、できなければ、メディアは名誉棄損の責任を負うわけです。


 例を挙げると、スポニチは「私たちは殺されかけた」という私の家族の話を報道しました、もちろん全くの虚偽で、提訴しましたが、スポニチ側は、「真実と信じる相当の理由があった」[週刊誌がすでに報道していたから二次報道であり、責任はない」と主張しました。私が、だれから話を聞いて真実と信じたのか、だれから取材したのかと聞いても、記者は黙ったままでした。二次報道でもスポニチの読者は週刊誌の読者とは別だから、免責の理由にはならない。彼らは何も立証できなかったわけです。驚いたことに、尋問に出た記者は「当時ロス疑惑報項が沈滞気味だったので、盛り上げようと思ってやった」と証言しました。判決はスポニチに100万円支払え、という私の勝訴でした。

 報道が真実か、または誤信する相当の理由があったことを立証するのは、メディアサイドの責任です。だから、私にも訴訟ができた。もし、私に「報道がウソだということを立証しなさい」と言われたら、そんなことはできません。していないことを立証しろと言われてもだれにもできないと思います。もっとひどい例が,『東スポ』訴訟ですなんと「うちのの新聞を信じる人はいない」という主張をしてきました。判決は「そのような主張は、報道機関の自殺行為だ」と非難しました

◆泣き寝入りりせず、訴訟を−

 『週刊朝日』に、安部譲二氏がで「三浦は死刑相当」と書いたことがありますメディアで知ったことだけでこんなことを言いていいのか、と裁判所に間い、「彼の発言は言諭の自由の保障の範囲外」として名誉棄損が成立しました。ところが、安部氏は、無罪判決の後の「文化放送」で、「オレは、あんな野郎に100万円取られちゃった」などと言っています。実際に払ったのは朝日新聞社ですから、この人は大ウソつきだと思います。
 私が起こした訴訟について、マスコミで流れている[勝率は6割」というのは、トリックです。私の敗訴の半分以上は、時効による門前払いで、私は負けたとは思っていません。

 ◆判決後の報道では、ある週刊誌の元編集者が、「彼は犯罪者だ」[やったに違いない」と言ったという報道。この1件を来月までには訴えるつもりです。報道被害に遭った方々が、すべて泣き寝入りしないで訴えたら、メディアは大きな衝撃を受けると思います。それが50件、100件と起きて常にそういう訴状が裁判所に出されるようになれば、メディアは確実に変わっていくはずです。


 報道被害にあったら、どんどん訴訟を起こしたらいい、私はそう言ってきましたし、現に名古屋、大阪、東京拘置所で3人の方が30件以上の訴訟を起こし、何件かは勝訴もしています。拘置所にいる間はほとんどできませんでしたが、これからは彼らに私の民事訴訟の訴状、準備書面、判決などのコピーを送って、どんどん訴訟を起こしてほしいと思っています。

※三浦さんのメディア訴訟体験を基に編集した本「報道の人権侵害と闘う本--やればできる本人訴訟」(報道・連絡会編“三一新書)をぜひご一読ぐださい(事務局)

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これは、「人権と報道 連絡会ニュース」98/7/30号の一部をocrしたものです。ほんものは、〒168 東京都杉並区郵便局私書箱23剛
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