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「着工」へ渦巻く疑念

2008年02月25日

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 九州新幹線西九州(長崎)ルートの建設問題を最大の争点にした江北町長選は24日、投開票され、着工に反対する現職の田中源一氏(59)が、容認を掲げた新顔で元県職員の山田恭輔氏(39)を退けて5選を果たした。同ルートは年度内の工事認可が確実だが、沿線住民の間にはなおも根強い疑念が渦巻いていることを、田中氏は当選で体現した形だ。当日有権者数は7768人、投票率は83・51%で、選挙戦となった前々回(00年)を11・69ポイント上回った。期日前投票は1380人で有権者の18%に達した。

 同町のJR肥前山口駅近くの事務所に田中氏が姿を見せると支持者らが拍手と歓声で迎え、田中氏は新幹線着工への反対姿勢を改めて強調した。

 新幹線問題は、町長選が2カ月後に迫った昨年末に急展開。新幹線に並行する長崎線の運行をJR九州が続けることで、同社と佐賀・長崎両県の3者が合意し、沿線自治体の同意を不要にすべく事が進められた。

 だが、05年の町民アンケートでは、過半数が新幹線反対だった。田中氏は、この「民意」に背くものとして3者合意を批判。新幹線容認の町長の出現阻止を大義名分に掲げる一方、基金残高の堅持など4期16年間の実績も強調し、町民の共感と期待を集め得た。

 山田氏は「新幹線の賛否を論議する段階ではない」と田中氏を批判。町政刷新の必要性を訴え、県と連携した企業誘致推進を掲げ、樋渡啓祐・武雄市長や自民党県議、町商工会の会員企業ら建設推進派の支援も得て集会を重ねたが、知名度不足を補い切れなかった。

 《解説》8年ぶりの江北町長選で、田中氏が5選を果たしたのは、最大の争点となった九州新幹線西九州(長崎)ルート建設問題を巡って、昨年12月のJR九州、佐賀、長崎両県による3者合意という「地元外し」に、町民が憤りのはけ口を求めた結果と言える。

 容認派の山田氏の立候補で、田中氏は「反対」が6割を占めた05年の町民アンケートを重視して立候補を決意。選挙戦で町は、行き来したり住みついたりする人口の増加を期待する容認派と、新幹線の「通過点」となってしまい町の衰退を懸念する反対派で2分。賛否で分かれる周辺首長も参戦し、着工の「信認」を問う様相を呈した。

 田中氏は「2700億円もかけて新幹線が必要なのか」と筋論で批判し、4期の任期中、町の基金を維持し続けた堅実な町政運営も強調。行政手腕が未知数の山田氏より安定感につながった。

 着工の道筋がつく中で、あえて「反対」の旗印を掲げることについて、田中氏は「反対し続けるからこそ国などに町の主張を押し通せる」と説いた。だが、現実的に町が何を得るかという道筋は示せていない。

 現在のJR線の「結節点」を、「通過点」にさせないためにもJR側に特急本数維持や新幹線の停車本数の増加を求めたり、町振興のために企業誘致について県に協力を求めたりするなど現実的な対応は不可欠だ。

 一方、これまでなら同意が必要だったルート上の民意が「反対」を掲げた田中氏を選んだことは、国や3者合意の当事者の説明不足を露呈した形だ。説明責任など対応が必要なことは言うまでもない。(村田悟)

江北町長選の得票

当3521 田中源一 59無現
  2943 山田恭輔 39無新
                  =確定得票

当選の新町長(元以下は過去職。▽は出身校)

 田中源一 59 無現(当選5回)県町村会長 元町議・町青年団長▽明大

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