現在位置:asahi.com>社説 社説2008年02月27日(水曜日)付 イージス艦事故―防衛相は何をしている危機に直面したときに、その人の地金が現れるというが、組織も同じである。どんな組織でも事故や問題は免れないだろうが、大切なことは、早く的確な事後処理ができるかどうかである。 ところが、海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故をめぐる自衛隊の発表内容が揺れ動いている。それも後から出てくる情報ほど自衛隊に不利なものだ。これでは情報を隠しているのではないかと疑われ、「いったい何をやっているのだ」と国民から不審の目で見られても仕方があるまい。 「あたご」が漁船「清徳丸」に気づいたのはいつだったのか。衝突までの経過を知るうえで大事なこの点をめぐり、防衛省が情報をほぼ丸1日抱え込んでいたことが新たに分かった。 「漁船の灯火を確認したのは2分前」と、石破防衛相が最初に自民党の部会で説明したのは、事故当日の夕方だ。直前まで気づかなかったため衝突を避けきれなかった、との見方が広がった。 だが、このときすでに自衛隊は、乗組員らの話から「実際にはもう少し早かったようだ」との情報をつかんでいた。夜になって石破防衛相にも報告された。 問題はそれからだ。深夜の海上自衛隊の会見で、幹部は再び「2分前」という説明を繰り返した。 石破防衛相は「確認しないまま外に出せば混乱する」と弁明する。 しかし、これはおかしい。かりにきちんと確認できていなかったとしても、早くから漁船に気づいていた可能性があることを、なぜ説明しなかったのか。新たな情報が出たことで、「2分前」という説明自体もすでに不確かなものになっていたのだ。 衝突の2分前まで気づかなかったとすれば、「あたご」がぼんやりしていたことになる。それはもちろん、許されることではない。だが、もっと早く発見していたのに手を打たなかったとなると、責任はもっと重くなる。 防衛省によると、「12分前に灯火を見た」という情報は、事故翌日の朝、石破防衛相に正式に報告された。だが、防衛省がそれを明らかにしたのは、同日夕方の自民党部会でだった。その間、誤った情報がずっと流されたことになる。 さらに驚くのは「12分前」との報告がいつ防衛相に伝わったかという点も、防衛省の説明が二転三転していることだ。そもそも、なぜ公表の場が身内の自民党の部会なのか。これも疑問だ。 私たちはこれまで社説で、石破防衛相の責任は重大だと指摘してきた。自衛隊の中で何が起きたのか。その事実をきちんとつかんで、国民や国会に説明できなければ、防衛相として失格である。 海上自衛隊が防衛相にも情報を隠しているのか。それとも海上自衛隊のあいまいな対応に防衛相がつきあっているのか。石破防衛相は国民の疑念を早急に晴らさなければならない。 カストロ氏引退―真の世代交代で改革を真っ白になったトレードマークのひげが、半世紀という時の流れを示している。それでも「理想を求める一兵卒」は、権力をなかなか手放さないようだ。 キューバのフィデル・カストロ国家評議会議長が、国家元首としての地位から正式に引退した。81歳という高齢であり、健康問題が理由だという。 東西冷戦のさなかの59年に、米国の裏庭のカリブ海で、親米政権を打倒して社会主義革命を成功させた。それ以来、49年間。戦後の世界で最も長く指導者の地位にあった政治家だ。 後任には、実弟のラウル・カストロ第1副議長が昇格した。06年に兄が腸の手術を受けた時から、暫定的に権力を委譲されていた。既定の路線だろう。 カストロ氏は最高権力ポストの共産党第1書記は降りないようだ。若手の抜擢(ばってき)もなく、これまでの路線に大きな変化があるとは思えない。 ラウル氏は「革命の同志」で、76歳の高齢でもある。暫定的な権力委譲の当初は現実路線へのかじ取りが期待されたが、目立った指導力はみせていない。 今回の就任演説では、重要事項について今後も元議長の指導を受けていく姿勢を明確にした。国家評議会の顔ぶれを見ても、実質的な「院政」に変わりはないように見える。 国民の間からは、改革の遅れを心配する声も出ているという。ポスト革命世代へのバトンタッチはまた先送りされた。 革命キューバが、アジアのベトナムと並んで、第三世界の抵抗運動の象徴だった時期があった。小さな島国の革命が戦後世界に与えた衝撃は、今では想像もつかないほどだ。圧政と貧困に苦しむ民族の解放を訴える議長の姿が、非同盟諸国などで共感を呼んだからだ。 また、国内では教育や医療に力を入れた。識字率の高さや乳幼児死亡率の低さは評価できる。マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」でも、キューバの医療水準の高さが取り上げられていた。 だが、後ろ盾だったソ連の崩壊で大打撃を受け、米国の禁輸もあって経済はどん底になった。冷戦後は革命の旗印は色あせて、グローバル化にも完全に取り残された。 今後のカギを握るのは、なんといっても米国との関係だ。米国は共産体制を敵視し、政権転覆や暗殺まで試みた。カストロ前議長はこれに激しく反発し、反米民族主義で国民を団結させてきた。 一方、強い政治力を持つ亡命キューバ人の存在もあって、米国は貿易や投資を禁止する単独制裁を続けている。 ブッシュ米大統領は前議長の退任声明をうけて「民主的な移行を始めるべきだ」と強調した。一党独裁下で思想統制や人権抑圧を続けていては、キューバに未来はない。米国も来年の新政権の発足に向けて、関係正常化への道筋を示すべきだ。化石のような冷戦をいつまでも続ける意味はない。 PR情報 |
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