東京・世田谷の中核病院、関東中央病院で4月から産婦人科の診療を中止する。医師不足は地方ばかりではない。ついに東京都の中心部にも波及してきた。子も安心して生めぬ国に未来はない。政府は緊急に対処してほしい。
ついにと言うべきか、東京都世田谷区にも医師不足の波が押し寄せている。世田谷区上用賀の
関東中央病院(前川和彦病院長)は、これまで世田谷区の年間6000人の新生児の内の500人ほどの分娩を担ってきた。
写真はイメージです(百度より)
それがいきなり、この4月1日から産婦人科の診療を中止することになった。この病院は公立学校共済組合が運営する職域病院としてスタートしたのだが、現在では、区内一の470床のベッド数を誇り、人口80万を超えた世田谷区の中核医療機関となっている。
しかし、現在、同病院のサイトを開くと、次のようなお詫びのコメントが掲載されている。
「この度、本年3月末をもちまして、当院産婦人科医の派遣元の大学が、医師全員を引き上げるという突発的な事態が発生いたしました。
当院では、在京諸大学の産婦人科教室に医師派遣の協力を鋭意、依頼しておりましたが、現時点では産婦人科の常勤医が確保できておりません。
患者様にはご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんが、4月1日から当院での分娩を含む産婦人科入院診療ができなくなります。
分娩に関しましては、近隣の医療機関にご協力をお願いしております。
なお、外来診療は継続する予定です。
皆様には多大なご不便をおかけすることになると存じますが、なにとぞご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。」(以上、同病院のサイトより)
原因は、医師を派遣していた東大医学部から、医師を派遣してもらえなかったことによるようだ。病院側は、他の大学に依頼して医師に来てもらうように手を回したのだが、結局、医師が集まらず、やむなくこの4月1日から休診となった模様だ。
それにしても日本の医師不足は凄まじい勢いである。4年前、私は高野山で、産婦人科医がいないために妊産婦の女性だけでなく高野山から若い女性が、橋本市など近くの都市に移り、それに伴って、若い男性も高野山から離れて行っているために、凄まじい勢いで人口減少が起こっていることをレポートしたことがある。そのことはJanJanにも書かせてもらった
(美しい高野山の景観の裏にある「人口減少」と「格差拡大」の影)。
その後、医師不足は、地方で特に厳しくなり、中でも産婦人科医と小児科医の不足問題は、地方住民の人権そのものを脅かしかねない深刻な問題となっている。この時には、給料が高く、さまざまな優遇がある東京を中心とする関東周辺に医者や看護士が遍在しているのではないかと、地方から不満が上がったものだ。ところが、東京の山の手と言われる世田谷の中核病院でこんなに早く、産婦人科医不足から産婦人科が消滅してしまうとは、考えてもいなかった。
こうなると、厚労省のこれまでのやり方に、文句のひとつも言いたくなる。政府の少子化対策というかけ声は、いったい何だったのか。産婦人科医の不足問題は、日本社会の福祉政策の根幹に関わる大問題だ。直接的には、「聖域無き財政再建」路線によって医療関係費に対する締め付けのツケが回ってきたと言える。それにしても、日本社会は、子も安心して生めぬ国になりつつあるということだ。そんな国家に未来があるはずはない。政府は緊急に、この問題に対処しなければダメだ。