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2008年2月27日

◎住基ネット利用 石川方式で一層の効率化を

 石川県が新年度から独自に進める住民基本台帳のネットワークシステムを利用した業務 の効率化策に期待したい。二百億円の予算を投じて完成した住基ネットは電子自治体の構築に欠かせぬ情報インフラにもかかわらず、個人情報の漏えいやプライバシー問題が過剰に言いはやされた「悪評」が尾を引き、十分に活用されているとは言い難い。

 住基ネットは現在、パスポートの交付申請など六十九業務で利用されているが、石川県 はさらに滞納者の行方不明調査など、県税の賦課・徴収にかかわる二十二の事務を加えるという。住基ネットを使って業務の無駄を省くアイデアはまだまだあるはずであり、「石川方式」を果敢に進め、一層の効率化に努めてほしい。

 住基ネットは、国民それぞれに十一ケタの番号を付与し、オンライン上で、氏名、住所 、性別、生年月日の四情報を管理している。運用開始から五年以上が経過し、システムの信頼性の高さは、ほぼ証明されたといってよい。転居や結婚後もデータ更新されないために、膨大な数の年金記録が不明になっている社会保険庁の年金管理システムと比べると、住基ネットの安定度、使い勝手の良さは際立っている。厚生労働省が公的年金加入者の情報を住基ネットで確認する方向で検討を始めたのはごく自然な流れといえよう。

 住基ネットをめぐっては、プライバシーの侵害などを理由に全国で住民訴訟が相次いだ 。このうち金沢地裁では、全国で初めて住基ネットの違法性が指摘され、個人情報の削除を命じるという理解しがたい判決が出た。二審の名古屋高裁金沢支部で一転して合憲判断が示されたのは当然だった。

 石川、千葉、愛知各県を相手取った三件の訴訟の上告審で、最高裁第一小法廷は、判決 期日を三月六日に指定した。二審の結論変更に必要な弁論が開かれないということは、住基ネットを合憲とした判決が支持されると考えてよかろう。住基ネットをめぐる訴訟に一定の区切りが付くのは喜ばしい。

 個人情報保護を理由に、住基ネットの用途を制限しようとする発想はもはや説得力を持 たない。石川県はもとより、国も住基ネットの用途拡大を真剣に考える時期に来ている。

◎建設業の農業参入 絵に描いたモチにできぬ

 建設投資が減る中で、事業転換を迫られている建設業に対しても法改正によって二〇〇 五年から農業への参入の道が開かれている。石川県はそのものずばりの窓口「農業参入サポートデスク」を、富山県は農業に的を絞らない、広く他業種への転換の相談に応じる窓口を開設しているが、まだ転換例が生まれていない。

 農業への転換は、地域の足腰を強化することにつながる。すなわち、農業生産者の高齢 化や、それによる耕作放棄農地が増えていることにブレーキをかけるものとして期待されているのだが、農業に的を絞った石川県を例にとると、開設されて一年余になり、これまでに建設業からの相談が十七件に達したが、実現が一件もないのである。

 建設業界の過当競争や相談件数などからして参入への関心はあるといえるのだから、転 換を誘導する試みを絵に描いたモチにしない挑戦が期待されている。参入への潜在的な志向はあるのだから、はやく成功例をつくり、それを起爆剤に新しい流れをつくり出したいものだ。

 サポートデスク担当者らによると、建設業が農業への参入に踏み切れない大きな理由と して、生産した物を売りさばく販路確保の心配や、価格が大きく変動することへの不安が指摘されている。

 建設業というのは、仕事が出てくるのを待つ「待ちの業種」であるのに対して、農業と いうのはJAを通すか、買ってくれる食品業者や消費者をさがすかの違いはあっても、よい物を作って、それを売るための働き掛けが求められるのだ。

 建設業の従業員には農業の経験者や兼業農家が少なくないため、農業生産そのものにつ いての不安はさほどではないのだが、作物に何を選び、どう売るかの販路の開拓となると、自信が持てないようである。

 地方によっては耕作放棄地が多くても、まとまった農地が借りにくいところもあるよう だが、石川、富山両県ではそのようなことがないといわれる。石川県では昨年、食品関係の企業二社が制度を利用した農業への参入を果たした。外国産の食品の安全性が問われて社会問題になっている。参入へのチャンスととらえることができるものだ。


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