米の名門オーケストラ、ニューヨークフィルの平壌初公演が実現した。金王朝とクラシック音楽という取り合わせは、ちぐはぐに映る 米中雪解けのきっかけになった「ピンポン外交」の例があるが、体制の違う国での民間交流は、一筋縄ではいかないだろう。建国間もない中国に招かれた画家の話を聞いたことがある。「人民のために、どんな絵を描いていますか」と周恩来に尋ねられ、「人民でなく私のために、描きたい絵を描いている」と応じた 途端に周首相は不機嫌になり、祝宴に気まずい空気が流れた。自国では当たり前の言葉も、通じない場所や相手がある。目にした「人民画家」たちの絵はそろって陳腐だったが、それを口にすることだけは思いとどまったという 平壌公演の演目は「新世界より」と「パリのアメリカ人」。皮肉に思える選曲である。どんな理由で当局は公演にお墨付きを与え、選ばれた一握りの人民に聴かせたのだろう かの国の首領は、映画「男はつらいよ」がお気に入りと聞く。いつまでも貧しい暮らしの主人公や家族の姿が胸を痛めるからだそうだが、うわさが本当なら噴飯ものである。
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