記者の目

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記者の目:「日韓新時代」=堀山明子(ソウル支局)

 韓国初の企業経営者出身の大統領、李明博(イミョンバク)政権が25日発足した。歴代大統領が独立運動家、軍人、民主化闘士--と立場は違うが時代精神を背負って理念を前面に出したのに比べ、李氏は実利主義をモットーにする新しいタイプの指導者だ。日本の関心は高く、就任前から与野党の訪韓団が相次ぎ、盧武鉉(ノムヒョン)政権時代に歴史摩擦で険悪化した日韓関係の改善を李氏に訴えた。

 私も早期の改善を期待する。ただ、李政権発足で歴史問題がリセットされ、対北朝鮮政策を巡る温度差が消滅するかのような勘違いは禁物だ。盧政権でなぜ関係がこじれたかを見つめ、教訓にする必要がある。

 李氏は1月の記者会見で歴史問題について「日本に『謝罪しろ』『反省しろ』とは言いたくない」と述べ、日本に対しては「(謝罪)要求しなくても、成熟した外交をするだろう」と期待感を示した。

 謝罪しろと「言いたくない」と述べたのであって、「言わない」と宣言したわけではない。「成熟した」関係との表現で日本側に善処も促している。韓国内の対日世論が厳しくなれば、歴史批判が再燃する余地は残るということだ。

 日韓関係は韓国新政権発足時には「未来志向」を強調し、政権末期には歴史摩擦で悪化するという波を繰り返してきた。金泳三(キムヨンサム)政権(93~98年)は従軍慰安婦や竹島領有権問題で、金大中(キムデジュン)政権(98~03年)も靖国参拝問題で後半は対日批判を強めた。盧政権(03~08年)は日韓首脳会談(04年7月)で「任期中には公式に(歴史問題を)提起しない」と述べたが、島根県竹島条例制定(05年3月)を機に「外交戦争」(盧大統領)に突入し、首脳間のシャトル外交も日韓自由貿易協定(FTA)交渉も頓挫した。

 この波を「反日感情を政治利用した」と韓国だけに責任を押し付けると関係は成熟しない。特派員として4年間、盧政権下の日韓関係悪化の経過を取材しながら、日本政府の姿勢にも問題を感じた。韓国側が(1)植民地支配の清算(2)北朝鮮核廃棄問題--の主要課題で新構想を示しても、盧政権への警戒心から日本は距離を置いてきたからだ。

 いわゆる歴史問題3点セット(靖国参拝、歴史教科書、慰安婦問題)で短期解決は難しいが、韓国が前向きな打開策を示した時でも日本の反応は鈍かった。

 例えば、盧政権が05年1月、日韓条約(65年締結)関連文書を公開し、強制連行被害者に対する追加支援を柱とする「国外強制動員犠牲者等支援法」(昨年11月成立)の整備に着手した時の対応だ。戦後補償問題を韓国政府の責任として大規模にやり直す盧政権の主体的な試みだ。

 日本に新たな補償を求めず、被害者認定の資料となる被徴用者の供託金名簿など資料提供のみ要請した。日本が積極的に関与すれば、歴史和解に向けた日韓協力になる好機だった。

 しかし、日本は日韓条約見直しの動きを警戒し、文書公開に難色を示した。朝鮮半島出身の元軍人軍属11万人の供託金関連名簿の提供は縦割り行政で調整がもたつき、手渡したのは昨年12月の大統領選翌日。「盧政権末期では、日本の誠意を関係改善に生かせない」と韓国政府当局者は嘆いた。名簿提供自体は意義があり評価するが、ここまで時機を逃すと外交的インパクトはほとんどない。

 対北朝鮮政策でもギクシャクした。「拉致問題の進展」を条件に6カ国協議におけるエネルギー支援まで参加を見合わせる日本に対し「自国の利益しか考えていない」と韓国政府当局者がもらす場面を何度も見た。拉致問題対応への不満というより、日本が核廃棄プロセスにどう関与するかの具体的道筋が見えないことへのいらだちのようだった。

 「創造的実利外交」を目指す李政権は、北朝鮮核問題や日韓関係改善で大胆な提案を出してくる可能性がある。日本があいまいな態度を続けていると、李政権の日韓友好ムードは早晩色あせかねない。

 すでに李氏は大統領選公約で、日朝国交正常化資金を投入し、核廃棄段階で北朝鮮の年間国民所得を6倍の3000ドルに引き上げる構想を打ち上げた。構想が具体化したら、日本はどう関与するのか問われる。

 今年は未来志向への転換をうたった「日韓パートナーシップ宣言」から10年。2年後は日韓併合100年という節目を迎える。実利は成果を一つ一つ上げることが基本だ。「未来志向」が李政権初期だけで終わらないよう、今度は日本から日韓共通の未来構想を働きかける番だ。

毎日新聞 2008年2月26日 0時17分

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