◇医師抜き「リスク高い」/「技術育たない」の声も
全国的な産科医不足が問題となる中、正常分べんなら助産師が対応する「院内助産」を扱う病院が他県で増えてきている。県も4月から院内助産につながる「助産師外来」の支援に乗り出すが、県内では助産師が妊婦検診から分べんまで扱う病院はまだ一部にとどまり、助産師外来を掲げていても助産師のかかわるレベルはさまざま。医師抜きでの分べんにはまだハードルが高いようだ。【稲生陽】
「ほら、ここが目でここが口。もうすぐ会えるからね」
2月下旬の静岡赤十字病院(静岡市葵区)。超音波スキャナーで胎児を画面に映しながら語りかける年齢の近い助産師に、出産予定日を8日後に控えた母親(25)は信頼した視線を向けた。
同病院では昨年3月から、曜日ごとに決まった助産師が妊婦を診断する助産師外来を開設している。年間約640件の分べんも、正常分べんなら医師立ち会いのもと助産師が担当し、産科医4人は帝王切開など難しい場合のみ扱う分業体制としている。石川睦子助産師長は「正常分べんは助産師がとり上げるのが基本。立ち会い医師もつけない場合でないと、本当の院内助産とは言えない」と話す。
助産師は本来、医師の立ち会いがなくてもお産を扱うことができるが、多くの病院では出産介助や産後ケアしか関与できないのが現状だ。助産師が分べんに関与する病院でも医師が立ち会うのが一般的。静岡徳洲会病院(同市駿河区)では昨年8月末、立ち会う非常勤医が確保できなくなったことから分べんの扱いをやめ、それまで月十数件の分べんを扱っていた助産師も全員辞めた。「結局何かあったときのために医師が立ち会うのが現実的。リスクが高過ぎる」と言う。
一方、藤枝市内のある助産師は「医師は助産師を過小評価している。病院では助産師も看護師のような仕事しかさせてもらえず、技術が育たない」と批判する。「現状では病院勤務と開業助産師では技術に差があり過ぎる。最低でも触診だけで逆子かどうか分かる技術が必要」という。08年度予算に助産師外来の補助金2520万円を計上した県こども家庭室は「本来難しい手術を受け持つべき医師が正常分べんまで担当するのは効率が悪い。まずは助産師外来をてこ入れして助産師の技術向上を図り、3年後をめどに院内助産につなげてほしい」と話している。
◇全国平均より少ない産科医
厚生労働省によると、県内の産科・産婦人科医は06年12月段階で264人。人口10万人あたりでは6・9人で、全国平均より1人少ない。特に賀茂地域では3・9人、中東遠も4・2人と平均より大幅に低い。対して助産師は県内に706人いるが、その大半は病院勤め。分べんを扱う開業助産所は十数軒しかなく、助産所で生まれる赤ん坊も1・4%にとどまっている。
毎日新聞 2008年2月26日