2月8日、大阪の再開発地区、梅田北ヤードの容積率拡大が決まった。地元では建物が大規模化してにぎやかになると歓迎する声も多いが、事は公共用地の入札に関わるだけに、筆者は単純に喜べない。行政が事後的に大幅な容積率緩和に踏み切った今回のケースは、落札企業への利益供与に等しいと考えているからだ。
今回の都市再生特別措置法に基づく審議会決定で、3つの街区のうち駅前街区の容積率は、入札資料で提示されていた1200%から1600%へと変更された。3街区全体では平均1.28倍の容積率拡大が認められた。三菱地所やオリックス不動産などの企業グループによる落札価格は約3400億円とみられるから、拡大した容積で得られる価値は単純計算で1000億円弱になる。賃料を多少下げたとしても、割り増した容積には数百億円の価値がありそうだ。
今回の決定を巡っては、有識者や大阪市議会議員などで構成される審議会の表と裏で、激しい議論が交わされたと聞く。関係者によると、周辺の道路渋滞などへの影響を考慮して容積率を引き下げようとした審議会委員と、この動きに危機感を抱いた三菱地所などデベロッパー側の綱引きがあったという。容積率緩和は、税収増が見込める大阪市にとっても悪い話ではない。結局は教育・研究施設や公共スペースの拡大などを提示したデベロッパー側が、水面下での勝負を勝ち抜いた。
容積率拡大は結果として、2006年に実施された入札の正当性に大きな疑問を投げかけることになった。この方針が先に公表されていれば入札結果が変わっていた可能性もあり、落札を逃した他のデベロッパーは割り切れぬ思いを抱いていることだろう。入札をやり直せば落札額は以前の3400億円を大きく超える可能性があり、その差額は、旧国鉄債務の返済を進めている売り主の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)や、ひいては税金(一般会計)で債務の一部を肩代わりしている国民にとっての逸失利益となる。市場関係者の中からは、オフィス床の供給増加で、梅田エリアの賃貸市場軟化を懸念する声も上がっている。
容積率を決定する権限を持つ各自治体は、デベロッパーに対して強い影響力を行使できる立場にある。入札資料記載の容積率と今回決定の容積率が大幅に異なることについて、大阪市側は「売り主と市では主体が違う。入札資料と市の決定は関係ない」といった趣旨の説明に終始している。売り主が市に一つの相談もせずに、そのような重大な事項を書くはずはないのだが。振り返れば、2006年5月の入札に先立って実施した事業審査の議事録が非公開だったことなど、市の手続きに疑念を指摘する声は以前からあった。新市長のもとで、徹底した情報公開が行われることを望む。
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