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20年近く前のことですが、神戸市中心部の友人の家に車で立ち寄ったときのことです。たまたまですが、その日は友人のお母さんのお葬式でした。私が、路上に車を停めていたので、「駐車違反が気になるから、そろそろ失礼するわ」と言ったとき、友人の義兄がこう口をはさみました。「今日はこの辺り一帯、どこに車を停めても駐車違反にはなりませんよ」
私の友人は、兵庫県警の警察官だったのです。その時以来、「警察が、自分たちの都合で法律を曲げる可能性がないとはいえない」と思うようになりました。警察権力の横暴から生じた「白バイ事件」は、氷山の一角に過ぎないと思われます。
証拠隠滅について
昨年12月21日、高知県議会の総務委員会で、坂本茂雄議員が県警の黒岩安光交通部長に果敢に質問しました。「公道上で、サイレンを鳴らさずに、白バイが高速走行することがあるのかどうか、と聞いているのです」という質問です。交通部長は眉をしかめ、語勢を荒げて、「全く」のところで声を大にして次のように答弁しました。
「公道で白バイが高速運転することは、全く、ありません。訓練は別のところでやっております」
ホントでしょうか。私の取材では、係わり合いになりたくない迷惑顔の人ですら、「白バイ事故が起こるまで、恐ろしいスピードで白バイがこの辺りを走っていた。最近は、気にならなくなった」と証言しているのです。異口同音に時速100kmは出ていただろうと言います。事故現場付近の人々が皆ウソをついているのでしょうか。
事故を起こした白バイの「時速60kmで走行していた」というのは、対向車線を走っていた他の白バイ隊員の目視による証言です。しかし、自らが逆方向を走行していながら、左前方の白バイと右前方のスクールバスの時速を60km、10kmと同時に正しく認識できるものでしょうか。しかも、そのとき、事故を起こした白バイは、180mも前方にあったのです。
私は、「白バイ事件」では、「証拠ねつ造」とともに「証拠隠滅」も行われたのではないかと考えています。なぜなら、白バイのブレーキ痕(スリップ痕)とタコメーターの記録が裁判資料として提出されていないからです。交通事故鑑定人の石川和夫氏にその点を質問しました。
「通常は、あり得ないです。それらは、裁判資料として提出されるべきものです。私は、裁判に提出されたものだけを検証するのが仕事ですので、その点は、あなたが追及してみてください」
白バイのブレーキ痕とタコメーターには、「時速60km」とは別の証拠が残っていたのだろうと想像されます。もし、それらにより「時速60km」が立証できるなら、県警は提出したはずです。この事件の良心的な取材者であるKSB瀬戸内海放送の映像には、事故直後に、急いで事故車両に青いシートをかける警官たちの姿が映っています。
左端の車のやや前方で白バイ事故は起こりました。道路は、かなりカーブしています(1月17日筆者撮影)。
事故現場のカーブについて
担当の梶原守光弁護士が、この1月7日に上告趣意書を最高裁に提出し、審理の差し戻しを求めています。しかし、それがかなうのは、千分の一の確率なのです。1月18日には、片岡晴彦さん自身が、2万5,000人の署名を最高裁に提出しましたが、片岡さんは、いつ収監されても不思議のない状況なのです。
白バイ事故は、2年前の3月3日に起こりました。最近、私も遅ればせながら、現場で何度か車を走らせてみました。「なだらかなカーブ」ということでしたが、実際に車で走ってみると、このカーブが曲者なのではないかと思えてきました。
国土交通省・土佐国道事務所の小林幸雄副所長の話によると、「時速60kmであれば、70mくらい前方が見えるように設計しています」とのことです。しかし、時速100kmでは、42mくらいしか見えないことになります。時速100kmという速さは、秒速28mです。発見してすぐブレーキを踏んだとしても、間に合わなかったでしょう。
道路には、段差のある中央分離帯があり、1mくらいの木が植わっています。しかし、事故現場には、中央分離帯が途切れていて、ないのです。だからこそ、片岡さんは右折するために、バスを停めて、車の流れが途切れるのを待っていたのです。カーブの先の中央分離帯が途切れており、そこから車の出入りができるということが、道路設計上のミスなのではないか、という気がしました(裁判の行方とは関係ないのですが、事故後改善されていないので)。
左:片岡晴彦さんは、使命感を持って、「冤罪」とたたかっています。右:交通事故鑑定人が、白バイ事故を解析しました(いずれも1月24日筆者撮影)。
片岡晴彦さんを支援する集い
1月24日、高知市で「晴さんを支援する集い(事実と解析)」が開かれました。集会では交通事故鑑定人・石川和夫氏によるブレーキ痕の解析と、担当弁護士の梶原守光氏による裁判の経過報告が行われました。
講演会には、200人くらいの人が集まりました。片岡さんに聞くと、「仁淀川町から人は来ていませんよ」とのことでした。片岡さんの地元の仁淀川町に支援する会がありますが、そこが動員をかけた結果ではないようです。「いったいどこからこれだけの人が来たろうね?」と梶原弁護士も驚いていました。高知県では、200人の人が集まるというのは、それだけでニュースなのです。まして、警察権力の横暴に抗議する高知市民の集まりです。自由民権運動発祥の地では、堂々たるニュースのはずです。しかし、地元の高知新聞は、1行の記事も載せませんでした。私の友人の1人がつぶやきました。「権力にしっぽを振り続ける新聞は、もういらんな。存在意義がないもん」
交通事故鑑定人・石川和夫氏の話
話の最初でまず示された結論は、警察の提出した「ブレーキ痕」はブレーキ痕ではない、というものでした。交通事故鑑定人の石川氏のブレーキ痕の解析は、スクリーンに拡大した写真や絵図を駆使して詳細を極めていました。以下に石川氏の鑑定結果の要点を箇条書きにします。
1.バスのタイヤゴムが路面の凹凸によって削られてできるブレーキ痕が、路面の凹部にまでついている(ブレーキ痕が液体でできていたということ)。
2.スリップ痕にタイヤゴム固有の溝がない。
3.ブレーキ痕は、前方より後方が濃くなるが、写真のブレーキ痕はその逆である。
4.前輪の左右2つのタイヤによるブレーキ痕が、同心円を描いていない。
5.前輪の左右2つのタイヤによるブレーキ痕先端の色の濃い部分と、色の薄い部分とは、ずれ込んでおり、幅がちがう(後から書き足したからと思われる)。
6.前輪より鮮明なブレーキ痕を残すはずの、後輪ブレーキ痕がまったくない(130枚の写真の中に1枚もない)。
担当弁護士・梶原守光氏の話
1審で証言したベテラン警官は「こんなブレーキ痕はあまり見たことがありません」と言っています。さらには、色の濃い部分を「濡れている」、色の薄い部分を「乾いている」、とも言っています。皆さん、タイヤのブレーキ痕というのは、濡れていたり、乾いていたりするものなのでしょうか。ブレーキ痕というのは、それらしいものは、刷毛と清涼飲料水で、1本20秒で描けるのです。まさか警察がそんなことはしないだろうと言う人が多いですが、彼らは、プロ中のプロなんですよ。私は、1、2審ともブレーキ痕の検証を要求しましたが、両方とも全然検証しようとしないのです。
事故現場に駆けつけた白バイ隊員は、本部と無線で連絡を取り合っています。ですから、事故処理は本部の指示でなされたと考えられます。事故処理には、大勢の警官が動員されました(30名という目撃証言がある)。
片岡さんの罪は、業務上過失致死ということです。では、片岡さんにどのような過失があったのでしょうか。裁判官は「安全確認を怠って道路に進入した」と言うのですが、片岡さんは右側を2度確認しています。何人も証人がいます。その点をつくと、裁判官は「走行中も右を確認すべきである」と言うのです。皆さん、安全確認の後は、前方を見なければならないのではないですか。このように、検事が提出していないことまで、裁判官が根拠としてあげているのです。
この裁判は、あまりにも矛盾が多い。今の日本の裁判では、判決はどうにでもなる。私は、今回そういうことを思い知らされました。私は最高裁に言いたい。「この日本の司法をどうすらあや?」
推定有罪
刑事事件の裁判の原則として、「推定無罪」という言葉があります。「疑わしきは罰せず」の精神です。しかし、私は、この事件と少しかかわって、刑事裁判は流れ作業で事務的に処理されており、出発点の警察の方向付けで、裁判がそのまま進行していく傾向が強い、と感じました。出発点が間違っていれば、刑事裁判も間違い続けることになるのです。裁判は、警察段階でほぼ終わっているのです。こんなことでは、3審制は時間とエネルギーのムダ以外の何ものでもありません。1回ちゃんと審理してもらう方がよほどましです。「推定無罪」どころか「推定有罪」というのが、今の日本の刑事裁判の現実なのです。片岡さんの場合は、「冤罪」です。
私は、片岡さんには3度会いました。高知県の山間地で、53年間真面目に生きてきた人のように思いました。思い起こしてみれば、彼は私の前で、1度も「私は無罪です」とは言っていないのです。彼は、「ちゃんとした裁判を受けさせてください」と言っているだけなのです。「白バイ事件」に関しては、1、2審とも裁判の名に値しません。審理が尽くされていない、というより、審理はされていない、と言った方が正しいのです。片岡さんを無罪にするはずの証拠・証人は故意に無視されました。「推定有罪」の線からはずれる証拠・証言は、故意になかったことにされました。警察の起訴も強引でしたが、裁判の進め方もまた強引でした。3審制も機能麻痺を起こしています。
はたして、日本は、法治国家と言えるのでしょうか。
(小倉文三)
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関連リンク:
・片岡晴彦さんを支援する会HP
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