梁山泊グループによる相場操縦事件(上) | 東京レポート |
[特別取材]
2008年02月25日 11:30 更新
アイ・シー・エフを錬金術の道具にしたベンチャーたち
大阪府警は、パチンコ情報会社・梁山泊(大阪市)グループによる相場操縦事件の核心に切り込んだ。2月13日、東証マザーズ上場のIT関連企業アイ・シー・エフ(現・オーベン、東京都)が不正な買収をしていたとして、金融商品取引法違反(偽計)容疑で、梁山泊グループ代表の豊臣春国容疑者(57)=ビーマップ事件で公判中=と、アイ社元社長の佐藤克容疑者(32)ら計4人を逮捕した。
1年前の2007年3月。大阪府警は大証ヘラクレス上場の情報通信サービス会社・ビーマップ(東京都)株の仮装売買を繰り返した株価操縦の容疑で、梁山泊グループの経営者である豊臣春国容疑者と、その指南役の川上八巳容疑者などを逮捕した。
梁山泊の事件化は、ビーマップの株価操作だけで終わると見る向きはいなかった。梁山泊グループがもっと、大掛かりな株価操縦をやっていた銘柄があったからだ。それが、東証マザーズ上場のアイ・シー・エフ(2006年8月にオーベンと商号変更)である。
アイ社には、朝鮮総連中央本部の土地・建物をめぐる仮装売買事件で逮捕された元公安庁長官・緒方重威被告=詐欺罪で公判中=が監査役を務めていたのをはじめ、さまざまな人物が関わった。
村上ファンドの仲介で売却
アイ社は、ITベンチャーの井筒大輔氏が97年に設立したネット上で企業間の電子商取引市場を運営する会社で、2000年10月に東証マザーズに上場した。
しかし、ネットバブルは崩壊。出資したベンチャー起業家は荒稼ぎできなかった。ベンチャー起業家は、新規公開で得た資金を未上場のベンチャー企業に投資して、株式上場の際に高値で売り抜けて資金を膨らませる手法をとっていたからだ。
アイ社には、ネットバブルの寵児となった重田康光氏の光通信、史上2番目の若さで東証マザーズに上場を果した藤田晋氏のサイバーエージェント、家業の有線放送を引き継いだ宇野康秀氏の有線ブロードネットワーク(現・USEN)、嵜岡邦彦氏が率いる商工ローンのニッシン(現・NISグループ)の4社が出資した。
だが、新規公開による高値期待は空振りに終わった。電子商取引ビジネスの実績はなく、将来性はなきに等しかった。筆頭株主である井筒氏はアイ社の売却を決める。
井筒氏が売却の仲介を頼んだ先が、あの村上ファンドの村上世彰氏=村上ファンド事件で公判中=。村上氏は、投資会社バリュークリエーションの天井次夫相談役を介して、翼システムの道川研一社長(当時)と会い、井筒氏の株を引き取ってもらうことで話をまとめた。
翼システムは2001年12月、井筒氏、光通信、サイバーエージェント、有線ブロードネットワーク、ニッシンからアイ社の株式を買い取り、42.9%の筆頭株主になった。アイ社株を井筒氏側から道川氏側に譲り渡す仲介をしただけで、村上ファンドには2~3億円の手数料を得たという。村上氏にしてみれば、まさに棚からボタモチだった。
裏口上場狙いのM&A
翼システムは、自動車の整備・板金・塗装業者向けのパッケージシステムを開発、そのソフトを自動車整備工場に的をしぼって売り込み、全国にネットワークを築いたソフト会社。そのノウハウを取り入れた「カーコンビニ倶楽部」を立ち上げて全国展開に乗り出した。「突っつくわョ」という美川憲一のTVコマーシャルで話題になった。
だが、翼システムは未上場だった。代表の道川研一氏は、3年間に約38億6,000万円の所得を隠し、法人税約15億6,000万円を脱税したとして、逮捕・起訴されていたからだ。
道川氏がアイ社を買った理由は、ほどなくわかる。アイ社は、翼システムの子会社であるオートバイテルの第三者割当増資を引き受けて、オートバイテルを子会社化した。同時に、オートバイテル社長がアイ社長を兼務した。
このM&A(合併・買収)は、大株主の翼システムが上場企業のアイ社を利用して裏口上場するために仕組まれた。刑事被告人がオーナーという理由で、上場できない翼システムにとって、上場会社の買収は裏口上場を果す格好の器となった。買収できれば、正規の審査を経ずに上場の立場を得る「隠れ上場」が可能になるからだ。裏口上場するために、東証マザーズ上場のアイ社を買収したのである。
アイ社が赤字を垂れ流し続けたため、道川氏は、ネット通販でそこそこ実績をあげていた佐藤克氏をアイ社に迎え入れた。2003年10月、社長に就任した佐藤氏が、最初に手がけたのは、子会社売却によって10億円の現金をつくることだった。
03年12月、ネット消費者金融のウェッブキャッシング・ドットコム(以下ウェッブキャッシング)を株式交換方式でホリエモンこと堀江貴文氏=ライブドア事件で公判中=のライブドア(当時・オン・ザ・エッヂ)に売却した。ライブドア事件の際に、アイ社は「ライブドア錬金術」に利用された会社として話題になった。
ライブドアによる錬金術
ライブドアとアイ社は当初、現金での売買に合意していたが、途中でライブドアが株式交換にしたいと変更した。投資事業組合をダミーに使うことで、ライブドアは現金を支出せず、しかも、ライブドアが儲かる仕組みを考えたからだ。両社の株式交換に介在する「M&Aチャレンジャー1号投資事業組合」は、元ライブドア役員の野口英昭氏(ライブドアへの強制捜査直後、沖縄で変死)がつくった。
ライブドアはウェッブキャッシングの株式を取得、ウェッブ社の株主(親会社)であるアイ社はライブドア株を取得する。アイ社は投資事業組合にライブドア株を売却して、売却代金8億5,000万円を現金で受け取る。形式は株式交換だが、実際は現金売買と変わりないため、いくらでも現金が欲しいアイ社は、その提案に飛びついた。
投資事業組合は、そのライブドア株を市場で売却して回収するわけだが、このスキームには、アイ社に知らされなかった後段がある。同投資事業組合はライブドアそのものといえるダミーファンドだったことだ。第三者のファンドを装うために、野口氏のエイチ・エスインベストメントを表面に立てただけである。
投資事業組合は売却益を分配金名目でライブドアファイナンスを経由してライブドアに還流させた。ライブドアは自分のカネで自社株を買って、それを売って売上高や利益を増やしていたのである。
しかも、株式の大量分割を繰り返して株価が暴騰した時期。ウェッブキャッシングなど6件の企業買収で還流した売却益は約80億円に達した。アイ社の佐藤社長は「株でもらっておけばよかった」と地団太を踏んで悔しがったという。
そのため佐藤社長はライブドアをまねて株式交換によるM&A(合併・買収)に乗り出していくことになる。
2004年1月23日。梁山泊グループの1社であるビタミン愛が翼システムからはアイ社株を買い取り、29.4%を保有する筆頭株主に躍り出た。
つづく