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昨年五、六月にさいたま市内で立て続けに三件発生した幼児虐待事件を受け、市は二〇〇八年度当初予算案に児童虐待防止対策費（関連含む）として前年度より三割以上増の約一億円を計上した。発生予防、早期発見は子育て支援事業と連動していることが多く、予算額には表れていない。実際の対策は、保健センターや児童相談所（児相）、民生・児童委員、保育士、幼稚園教諭ら現場関係者の意識やスキル、経験に頼る部分が大きい。
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| さいたま市の児童相談所。虐待防止策は「意識を持ってやるしかない」という＝さいたま市中央区 |
悲劇は一カ月間に三件起きた。三、四歳児二人が死亡、三歳児が重体となった事件は、いずれも市の児相が虐待事例として事前把握できず、関係者を動揺させた。市は要保護児童対策地域協議会を招集、昨年八月末までに検証結果をまとめた。
報告書によると、解決の対応として、三歳児家庭への支援や地域での見守り、若年出産者への支援強化、近隣からの通告と関係機関の連携強化などが挙げられている。
検証結果を反映した予算案の防止対策は、乳幼児家庭への積極的アプローチによる“見守り”が重視されているが、児相関係者は「予算が付けばどうにかなるという話ではない」と語る。
◆保育の最前線で
「起きたら誰もいなかったよ」
市内の保育園で園児がつぶやいた。言葉の裏側に隠された事実をつかめるか否かは、最前線にいる保育士の力量にかかっている。
「夜中、園児が自宅で目を覚ましたら、誰もいなかった。保護者は子どもを置いて遊びに行っていた」と園長経験のある市職員。置き去りにしたことを「虐待（ネグレクト）」と認識していない保護者も多い。
友達がけんかを始めると、見えない“殻”をつくって無反応になる園児もいた。この家庭では父親の母親に対するドメスティックバイオレンスが、園児の目の前で続いていた。
虐待問題を追及すると、子どもを取り巻く大人の問題に突き当たる。子育てに不安を抱える母親のケースが多く、市保育課は「誰かに見守られていることで、安心できるようになることが防止につながる」と、子育て支援の効果を強調する。
一方、「子どものつぶやきやシグナルに気付いても、保護者にどう話したらいいのか」というのが保育士の悩みだ。園内での協議、児相への通告の判断は、保育園に課せられている。〇六年度、市の児相への通報三百八十九件のうち、七割が実際に虐待があったり心配されるケースだった。
新規の「保育所アドバイザー事業」（二百万円）は、こうした声から生まれた施策。専門家による保育所職員への相談や研修などを行う。
◆１人じゃない
市内の出生数は年間一万人強。保健センターでは、全乳幼児対象の生後四カ月、一歳半、三歳の三回の健診時に育児相談を行っている。四カ月児では九割、三歳児では八割の乳幼児が受診し、このときの相談が子育てに悩む保護者に「一人じゃない、という気持ちを持ってもらっている」（同センター）という。
未受診家庭には、手紙・電話での案内や家庭訪問で受診を呼び掛ける。子育て家庭が地域から孤立するのを防ぐ地道な活動が虐待防止にもつながっている。
◆情報を共有
「事件を機に、それぞれの意識が変わった」
保育園や保健センター、児相など関係機関は虐待事例が起きても『「縦割り」の対応だった』（児相関係者）と、連携が甘かったことを認め、三件の事件の反省材料にした。
市の虐待対応マニュアルの改訂が進められている一方で、各機関は横の連携を図るなど「組織力」を生かした体制づくりに着手。虐待事例があった場合、各区支援課と保健センター、児相が方針や支援、役割を決めた台帳を作り、三カ月ごとに進行状況の確認や情報の共有化を図っている。
「虐待を百パーセント防げるなんて思っていない。できることはやっていこうって、職場の仲間で決めたんです」。保健センター幹部の言葉が、虐待防止への強い思いと姿勢を表している。
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