元公安調査庁長官・総聯詐欺事件―河江被告の初公判(メモ)
(敬称略、適宜加筆修正の予定)
■関連記事
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080209-00000070-san-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080208-00000102-san-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080208-00000023-yom-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080208-00000033-mai-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080208-00000048-jij-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080206-00000091-san-soci
■事件名等
東京地方裁判所 刑事第6部
2008年2月8日午前10時から12時過ぎまで
事件名 詐欺 平成19年刑(わ)第2326号
東京地裁104号法廷
■人定質問
被告人 河江浩司(こうじ)
生年月日 昭和39年9月(略)
職業 経営コンサルタント
住所 東京都世田谷区成城(略)
本籍 福岡県直方市(略)
■黙秘権等告知
合田裁判長「他2名(緒方、満井)とは別」「今日から審議」「起訴からかなり時間が経っているのでなるべく早く進める」
■起訴状朗読
(分離前のもの)
被告人は、昨年5、6月頃、緒方、満井と共謀の上、「森さん(森憲吾氏)は確実にお金を出してくれるから」「森さんのほうで資金の準備は終わっている」「登記を確認してから代金を出す」などと、総聯のチョウ・ヒジェ(本名チュンチ※)及び土屋公献代理人らに申し向け、売買の出資が確実に行われるように偽って、総連中央本部不動産の所有権を移転させ詐取した(緒方、満井は、総連側から4億8400万円をだまし取った詐欺罪でも起訴)。
※趙孝済(조효제)氏のこと?
http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2007/01/0701j0528-00004.htm
■罪状認否
「まず最初に、私の発言により混乱を生じ、御迷惑をお掛けしたことを朝鮮総聯の皆様にお詫び申し上げたい。」
「私が緒方や満井と共謀したことはない。」
「不動産を騙し取ろうと考えたことはない。満井に頼まれて投資家探しをしていたのは事実。投資家が集まらない場合には登記を取り消すという話にもなっていた。」
■起訴状に対する弁護人の意見
・本件で欺罔行為の対象とされているのは所有権移転「登記」。つまり、不動産を詐取するという詐欺の既遂ではない。
・故意と共謀は否認。
■検察官冒頭陳述
・被告人の身上・経歴(略)
・緒方が事件に関わった経緯の説明。1998年頃、朝堂院大覚(松浦良右)に接近。その関係から、強制執行妨害事件で満井の刑事弁護を引き受ける。
―2001年頃、満井が経営する旧三正の本社ビルについて、共同債権管理機構との間で、資産留保を条件に任意売却※を行う。この時の作業を松浦に手伝わせる。約6億5000万円の報酬を得る。「自分の肩書きで取引相手を信用させて利益を得ることに面白さを感じる」(緒方検面調書)。つまり、資産留保の条件を反故に。弁護士業務からの逸脱。
※任意売却
http://allabout.co.jp/glossary/g_estate/w001953.htm
―京都の名園(かいふそう?)の買収で緒方、満井に5000万貸付。当時、貸付額の合計はおよそ9000万円に。
―2004年12月、緒方、満井が実質支配する医療電子科学研究所の取締役に就任。
―その他、親密な間柄→TSK案件へ。
・総聯側の事情。2005年11月12日、整理回収機構、約627億の返還を求めて総聯を提訴。2007年2月19日、和解交渉打切り。総聯、任意売却により、強制競売を適法に逃れようとする。
・緒方、満井はTSKビル(東亜マンション他)の地上げで資金が必要。六本木の1200坪の土地。更地にして転売すれば莫大な利益を見込める。
―2003年頃から、浅井健二→外資等から資金調達、松浦→明渡し交渉、をそれぞれ担当。その後、松浦の東亜ビル管理組合が管理権を主張。
―千葉の会社、浅井に2億5000万円で権利を転売。2007年、浅井、松浦にカネを払って立ち退きを迫る。緒方、満井は(浅井側に立って?)松浦に支払うカネを準備する必要があった。
※関連記事
http://www.shiokinin.com/report_tsk.htm
http://manota.seesaa.net/article/45323224.html
http://www.kokusaipress.info/06t.htm
・2007年3月、総聯側、パレスホテルで緒方らに経過説明。30億で売却、年3億の使用料、35億で買い戻すという話を呈示。
・緒方、満井ら。本部不動産は少なくとも60億で転売できる。TSKよりも簡単。確実な当て。満井、「中国、韓国で数百億を運用」と総聯側に説明。
・同月下旬、満井、浅井に購入代金の調達を打診→断られる。
・登記を先にした理由。緒方を代表とする「受け皿会社」を作れば、対外的な信用が高い。朝鮮総聯を信用させられる。
・緒方、満井、「売買代金調達のために、すでに動いているプロジェクトを組み直す必要がある」「ファンドの解約に違約金が必要」などと偽って、売買契約前に4億8000万を総聯から詐取。
・緒方、「自分は元公安調査庁長官であるけれども、在日朝鮮人には共感を抱いている」などと総聯側に説明。これは満井の指導による演技。満井は過去、朝鮮総聯旧東京本部を高値で買い取った経緯があり、総聯からの信頼を得ていた。
・同年4月23日、売買代金を35億に変更。
・満井と河江はTSK案件で前から顔見知り。同月13日に、満井、河江にこの件を相談。
同月18日、医療電子科学研究所の事務所で、満井、河江に3億の見せ金。「実際に投資家がいると信じ込ませてほしい」と満井から告げられる。河江、当時、多額の借金。
・同月中旬頃、モリタ・テツハル弁護士を新たな資金調達先として選定。しかし、「不可能」との回答。
・同月24日、緒方事務所で、ハーベスト社を受け皿会社にする相談。総聯側には支払引延しの連絡。
・同年5月中旬、度重なる支払引延しに総聯、不信感を募らせる。
・河江、森憲吾に再三、出資を依頼するも、「不動産はやらない」「北の関係には手を出せない」などと断られる。
・5月25日、医療電子科学研究所の事務所にて相談。緒方、満井、「森を出資者に仕立て上げる」。河江も了承。モリタ弁護士が裏切ったという虚偽の顛末書作成。
・同月26日、JR東京駅構内のカレーショップで、河江、森に再び出資を依頼。森、断る。しかし、河江は「森さんはゼニ、カネに関係なく協力してくれる」という虚偽の報告書を作成。出資が確実であると印象付けるために、緒方が河江に事細かに内容・表現を指示。
・緒方、満井ら、「騒ぎになって投資家が集まらなければ、登記を解除する言い訳ができる」などと河江に説明し、安心させる。
・同月27日、経過報告書、土屋にFAX送信される。「出資は確実なので、朝鮮総聯で独自に購入先を探さないでもらいたい」などとも説明。
・「森さんは99%の確証があっても、ウンとは言わない人です。その森さんがここまで言ってるのだから、実際は100%確実です。ゼニ・カネの問題ではなく、琴線に触れたと言っています」などと総聯側に説明。
・緒方、満井ら、6月18日に整理回収機構による貸金返還請求訴訟の判決があり、6月1日に中国に出向くので、5月31日中の登記を急ぐ。
・緒方が契約書・特約書を作成。登記は司法書士アリノ・ヒサオに依頼。
・6月8日、登記手続完了。
・同月9日、緒方、満井、移転登記の事実を告げて、浅井に出資を再要請。浅井、断る。
・同月11日、結局、代金を工面できず。チョウ、土屋、「納得できない」。同日、総聯側、マスコミから問い合わせを受けた事実を緒方らに伝える。総聯、登記を戻す準備に着手。4億8000万の返還請求。満井、2億だけ返す。
・4億8000万の分配状況。河江に報酬1億+登録免許税5000万。満井から緒方に1億(東亜マンション手付金に)。2億はチョウに返還。残りは松浦に。
・チョウの被害感情「満井、緒方、河江らの詐欺だとしたら、絶対に許せない」
■検察官の証拠調べ請求
・甲号証1~228まで(最初288とメモしたけれども、どうも228みたい)
・乙号証1~25まで
■弁護人の意見陳述
・まず、冒頭陳述の「第2」の部分には、被告人は関与していない。
・冒頭陳述8頁、上から2行目に被告人に対する「報酬」とあるが、これは詐欺に加担したことに対する報酬か、それとも出資先を探したことに対する報酬か?→検察「両者を含む」
・甲151、153(緒方・検面調書)、甲32(森・検面調書)、甲?(満井・検面調書)等については不同意。その余については同意するが信用性を争う。→検察、不同意部分については、今のところ、証人申請を予定せず。
■証拠の要旨
・甲1~14 総聯・チョウの検面調書。
・甲15~30 土屋代理人の検面調書。
・甲31 司法書士による登記
・甲32~42 森の検面調書。
・甲42~59 投資家、セキネ、スギモト、ヒルマ、シナガワ、ツジの検面調書。
・甲60~61 浅井の検面調書。
・甲62~65 整理回収機構・東京特別調査部長の検面調書。
・甲66 不動産会社経営者の検面調書。
・甲67 ハーベスト社前代表・公認会計士の検面調書。
・甲68~80 医療電子科学研究所への1億円の送金。帳簿の不正操作の事実。
・甲81~106 TSK関係(浅井、松浦)の供述調書。
―緒方が2億を用意。しかし、暴力団が分割支払いを拒否。
―2007年5月末、浅井から松浦に3億。
・甲107~119 旧三正本社・売却の顛末。
―旧三正(現アーク不動産)・弁護士他の検面調書等。「資産を留保しないと確約した上での任意売買。緒方の行為は弁護士のそれから逸脱。」
・甲120 満井による京都の名園の買収。緒方が満井に5000万を貸付。
・甲122 2003年、満井の世田谷区野毛の自宅を買い戻すのに、緒方が金融会社から4億3000万を借金。転売すれば、10ないし12億の利益が見込める。
・甲123 医療電子科学研究所取締役の検面調書。
・甲125、126 浅井の検面調書。
・甲127~129 緒方の所得税。税理士の検面調書。2002年以降、満井に千万単位で貸付。2004年1月で約1億を貸付。
・甲130 緒方事務所、事務員の検面調書。よく松浦が来てTSKの打合せをしていた。
・甲134~140 河江による報酬の使途。交際相手、友人、妻に支出。
・甲141~160 緒方の検面調書。「満井の負担で海外旅行」「自分の信用で何億円も儲かる」「検事時代にはない面白さ」「いい気になっていた」「自分も元検事であり、ウソの弁解が通る余地はまったくないことをよく知っているので自白した」
・甲161~195 満井の検面調書。「自分は数十億ももっていない」「TSKの立ち退きで緒方と協力、資金が必要に」「ファンドの違約金名目で総聯からカネを引っ張る」「総聯色を薄めるために、緒方を受け皿会社の代表取締役に。投資家が付き易くなるので」「本部不動産は60億ぐらいで転売できると考えた」「自分から緒方に依頼。総聯から数億引っ張り、1億程度を緒方に。総聯・在日朝鮮人にシンパシーを示して信頼を得よと緒方に指南」「4億8000万の件については総聯との間で表沙汰にしないことになっていた」。190~193は罪証隠滅の状況。
・甲196~205 関連の不動産・法人登記簿
・甲206~220 捜査報告書。犯行現場の状況。
・甲221 松浦の検面調書。満井、緒方から2億5000万。報酬は5000万。
・甲222 TSK関係。千葉県の会社。22億の預手。3億が満井、緒方に。
・甲223 緒方事務所で押収したTSK関係のメモ書き。メモには「道仁会」、「松浦」などと記載。
・甲224 アーク不動産の関係
・甲225~228 捜査報告書
・乙1 河江の身上。数千万円の借金。
・乙2~23 河江の検面調書。犯行を自白。
―2007年4月13日、満井、河江に連絡・相談。
―同月18日、満井、河江に3億の見せ金。「1億ぐらいは払う」と。
―同月24日、売買代金を30億から35億に引き上げたことの説明。4月中に移転登記したいという説明。
―満井「最悪でも錯誤無効で登記を取り消せばよい」。
―同年5月25日、緒方、満井、河江による相談。満井「このまま(「出資者が見つからない」ということ)じゃまずい」。河江「森という奴がいる」。
―同月26日、緒方、河江、森と面談。森出資を断るも、「森さんはゼニ、カネに関係なく協力してくれる」という報告書を作成。
―同月31日、河江、「森さんは100%大丈夫です」と総聯に説明。
―6月12日夜、満井、河江に「出資に時間がかかっていることにしよう」と提案。
―同月13日、緒方、記者会見(在日朝鮮人の権利保護云々は満井の振り付けと検察)。
―緒方から罪証隠滅の働き掛け。「このままでは私も逮捕される」「森さんがキーマンだ」「最悪、満井が引き込んだことにしろ」などと口止め工作。
一方、満井も河江に同様の働き掛け。
・乙24 一部訂正。
■今後の予定
次回、被告人質問。弁護側、検察側、各90分の予定。
※ 筆者の印象等
(公判前)
・傍聴者に公調職員とみられる者、少なくとも10名弱。公調は法務・検察の下部組織で、いわばこの事件の隠れた当事者でもあるが、検察は進行中の事件記録については公調に開示したりはしない(オウム事件の際も同様)。公判の状況や、傍聴者の面子、発言内容等々を調査するのが目的。
・総聯、ないし緒方氏関係者とみられる人物群(複数の弁護士を含む)も傍聴。内一人の弁護士(とみられる人物)は、「緒方さんも検察も、民事の実務に通じていない」などと述べて、売買と登記をめぐる学説を披露し、検察の論理には致命的な欠陥があると主張。筆者が理解する範囲でも、登記と売買は必ずしも一致しない。登記のない売買があるし、売買の事実がなくても登記されていることがある。また、条件を付しているのならともかく、一般論として言えば、代金が完納されなければ売買契約そのものが成立しないわけでもない、はずでは・・・。
・同「弁護士」は、傍聴者の一人から手渡された「公訴事実に対する意見書」などと題する書面に目を通して、「やはり同じことが指摘されている」などと述べた。
・同「弁護士」は、「(緒方氏の弁護団を)強化する必要がある」とも話していた。
・公調職員も右のように、傍聴者の発言に聞き耳を立てていることが推測される。
(公判の内容)
・聞き落としたのかもしれないけれども、許宗萬・総聯責任副議長の検面調書がない→取調べを拒否した可能性あり。
・総聯側の被害感情について2007年7月15日付「読売新聞」朝刊記事。
<在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の土地・建物を巡る詐欺事件で、朝鮮総連の代理人である土屋公献(こうけん)弁護士(84)は14日、朝鮮総連としては、東京地検に逮捕された元公安調査庁長官・緒方重威(しげたけ)容疑者(73)の処罰を求めないとする「確認書」を、緒方容疑者の弁護人に提出したことを明らかにした。緒方容疑者側の要請に応じたもので、緒方容疑者の弁護人は、この確認書を東京地検に提出した。>
・一方、チョウ氏の検面調書の内容。筆者が聞き取った範囲では「満井、緒方、河江らの詐欺だとしたら、絶対に許せない」ということで、若干含みを持たせているような印象だけれども。検面調書の全体が分からないので何とも言えない。
・もっとも、筆者が想像するに、総聯はある段階から「騙された」と気付いたに違いない。表向きはともかく、今も内心「騙された」と思っているのでは?
・総聯に近い人は、「緒方氏は後世、評価されるだろう」などと述べる。それは公式見解に沿っている。その辺、チョウ氏の検面調書(朗読部分)との齟齬。
・筆者が想像するに、昨年3月頃の時点では、本気で出資者を探していたのでは? ところが総聯がかなり切羽詰っていることが分かって、カモにする方向にシフトしたのかもしれない。
・甲223号証に言う「道仁会」は多分このこと。
http://accessjournal.jp/modules/weblog/index.php?date=20070709
メモの内容が分からないけれども、検察側がわざわざ朗読しているのは、無論、緒方被告のダーティーさを強調するためである。
・昨年、松浦氏を取材したところでは、
http://web.archive.org/web/20070620144313/http://espio.air-nifty.com/espio/2007/06/post_9bfd.html
―そもそも、「六本木のプロジェクト」への参加を緒方被告に呼び掛けたのは松浦氏である。
―<(満井被告が)今年の3月、総聯中央本部700坪の土地を30億で、と言ってきた。値段が安いので、世界空手道連盟の本部にちょうどいい。全員追い出して道場にしようと思ったら、建物は使用し続けるという話だったので、そんなバカなと言った。私の記憶では8億円の賃料でどうだということだった。>
ということである。
・検察は詐欺の動機をTSKの案件を前面に立てて説明している様子。つまり、浅井氏、松浦氏の供述にかなり依存している。松浦氏は限りなく当事者に近い位置にいたことが分かる。一歩間違えば、刑事訴追されたかもしれないほどに。
・検察の証拠によると、総聯は整理回収機構と昨年2月まで和解協議を続けていたことになる。
http://web.archive.org/web/20070810035402/http://espio.air-nifty.com/espio/2007/07/post_30be.html
・合田悦三・裁判長は武富士関連の刑事事件も担当。分かり易くて、なかなか面白い人。被告人がウダウダ訳の分からない話を始めると、「要するに、あなたはこの時、これこれこうで、こう考えて、こうしたということでしょ」てな具合にどんどん明快(!)に捌いていくので、こういう事件には向いているのかも。
・緒方被告は本人も自白したとされているように「面白い」体験をしたはずで、数億のカネを簡単にやり取りするその有様を傍聴する現職職員の胸中や如何に?
・果たして一連の事件の真相は?