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元公安調査庁長官・総聯詐欺事件―河江被告の初公判(メモ)―(続)

(筆者の印象等)
■この事件では4月中旬頃に本部不動産の価額が30億から35億に変更されている。
 不思議である。
 はっきり覚えていないので自信がないけれども、この鑑定評価は緒方被告ら側から提案されたものだったのでは?
 むしろ35億という価額を設定する名分として、鑑定評価を行ったのでは?
 ともかく、総聯は本来、どっちみち買い戻すはずだったのだから、当座手にする額は5億増えても、その分、上乗せして買い戻さねばならない。毎年支払う使用料に売買価額が反映されると考えれば、損である。
 この点、やはり4月頃に総聯から緒方被告らに4.8億を支払う話がまとまったとみられることが注目される。
 この4.8億は「総聯との間で表沙汰にしないことになっていた」(満井・検面調書)。つまり、実質、緒方被告らについての当座の報酬を、売買代金に乗せて、出資者に肩代わりさせる話が総聯・緒方被告ら両者の間でまとまったのでは?
 こういう場合、相場として、出資者はどれだけの利益を約束されるのだろう。
 ちょっと考えてみたら妙な話で、緒方被告らがほとんど一文も出さないわけだから、出資者としては出資するくらいなら、かつほぼ全額用意できるのなら、自ら買主になったほうがいい。そのほうが使用料も、買戻し時の代金も丸まま手にできる。総聯側もそういう買主と直接取引したほうが、余計な報酬の類を緒方被告らに支払わなくて済む。純粋経済的に考えれば。結局、話がまとまらなかったのはその辺の事情もあるんだと思う。
 そういう直接契約が出来ないのは政治的な事情があるからで、つまり、元公安調査官である緒方氏をなんとしても、取引にコミットさせる必要があったのである。その必要は総聯、緒方被告ら両者にあったのだと思う。総聯は当局に対する牽制のために。緒方被告らは言うまでもなく、そういうふうに自分の肩書きを利用してハッタリをかまさない限り、そもそも取引に関与する云われがないのだから。出資予定者にしても、直接自分が表に立つのはリスクが大きいとも言えるだろう。
 どっちにせよ、緒方被告らにしてみれば、最後の段階で総聯との約束を反故にして60億で転売するかどうかはともかく、出資者を見つけて取引を成立させるに越したことはない。そのほうが多くの利益を見込めるはず。この件のほうがTSKより簡単だと考えてたぐらいなんだし。その辺が詐欺ストーリーのいま一つ説得力に欠けるところ。

■筆者のミクロな見聞から類推するに、大体、この手のプレーヤーは誰もがお互いを出し抜こうと考えているのである。だから、一方当事者だけが完全に騙されたりすることは普通考え難い。全当事者があれこれ工作を考える。その結果、妙な化学反応が起こる。各プレーヤーにとって想定外の状況が次々と発生する。たとえ当事者であっても、誰一人として事態の展開が完全には分からなくなる。ましてや部外者には!

■公判を傍聴する限りでは、少なくとも緒方被告らが、あるいは取引が表沙汰にならないかもしれないと考えていた風情が窺える。5月末の土壇場になって、そういう話を始めたことになっている様子。これも不思議である。複数の関係者が連日登記をチェックしていたのだから、ほとんど同時的に取引が露見するのに。つまり、マスコミで騒がれることは確実に予測しておかねばならないわけで、普通に考えたら、仮にも情報機関の長であった緒方被告がそんなことも念頭に置いていないなんてことはあり得ないんだけれども。もっとも、緒方被告らが単に間抜けだったと考えれば一応の説明は付く。そういうことも、これまた十分あり得る。

■検察のストーリーによると、緒方・満井両コンビは、元公安調査庁長官の肩書きが、出資者の信用を獲得する上で利用できると考えていた。たしかにそういう面がある。しかし一方、当局との関係では、両者はどういう判断をしていたのか?緒方被告は、どうも権力、とりわけ公調を舐めていたようである。公調のことがよく分かっているので、その分タカをくくったのである。元長官から舐められるようでは終わりである。

■緒方被告が当初から公安調査庁の了解の上で取引をした旨主張する謀略論も未だ一部に見られる。だとすると、公安調査庁も詐欺に関与したことになる。

■冒頭陳述や朗読された証拠の要旨を聞く限りでは、遺棄化学兵器の利権話が取り上げられていない。これもTSKと同様、緒方・満井コンビの利権体質を裏付ける有力な証拠のはずなんだけれども。それは他の事件と絡むから、戦術上、落としたということなのかな。それと筆者が睨むところ、当初関与が報道された「現職職員」、すなわち中国担当のエキスパートは、むしろ遺棄化学兵器の件で緒方被告にアドバイスしていたはず。そういう話が飛び出すと、公調、つまりは検察が血を浴びてしまうので、削ったのかな?

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