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海自OBら「艦長らの判断、お粗末」 イージス艦事故

2008年02月25日07時40分

 なぜ、当直士官らが漁船団の存在を認識しながらイージス艦「あたご」は自動操舵(そうだ)を続け、漁船清徳丸との衝突直前まで回避措置を取らなかったのか。海上自衛隊の護衛艦艦長や潜水艦隊司令官の経験者らは、あたごの艦長や当直士官の判断や指示に多くの問題があった、と口をそろえる。衝突時に艦橋にいなかったとされる艦長の舩渡健・1等海佐への批判も出ている。

 ●薄い危機感、ミス連鎖

 元潜水艦隊司令官の西村義明さんは、判断や操船ミスの連鎖が、衝突の大きな要因だとみる。

 漁船団を確認した際、「当直士官が前方の目標を危険になると認識していない」ことがまず問題と指摘。周囲にいる船の針路や動静を判断し、どれが危ない船か見極めなければならないが、「当直士官に危機感が薄く、見張りやレーダー担当者にフォロー(継続監視)の指示がなかったのではないか。それで回避行動も遅れた」。

 小回りが利く漁船は行動を予測しにくい。西村さんは「漁船群の中に入ってしまえば、1隻をよければ別の1隻と危ない関係になりかねない。大きく迂回(うかい)したり、早めに停船したりして漁船群ごと避けることはできなかったのか」と疑問を投げかける。さらにレーダーなどで船団を把握しながら、自動操舵を続けた点も問題だとした。

 最新鋭のイージス艦はミサイル探知・防衛などの能力は高い。だが、西村さんは「戦闘艦の船乗りは近海をすぐに抜け、限られた時間を大海での戦闘訓練に充てる。航行能力は貨物船や商船の船乗りと変わらないか、場合によっては少し低いかも知れない」と指摘。現役時代は、より慎重に運航するよう口を酸っぱくして言っていたという。

 ただ、あたごの操船を巡り国会で「自爆テロもよけられない」といった議論が起きていることには、「今回の衝突とは別次元の話」と疑問を呈した。

 ●艦長就寝は「言語道断」

 「お粗末の一語。多くの同僚が艦長の判断を疑っている」。イージス艦など複数の護衛艦の艦長を務めた海自1佐は艦長の責任を強調した。調べなどで艦長は衝突時、艦橋におらず、少なくとも直前まで別室で寝ていたとされる。

 衝突現場の野島崎沖は船舶の過密海域。関門海峡や瀬戸内海と並ぶ危険個所として海自内でもよく知られている。「ずっと手前で自動操舵を解除し、艦長は起きて艦橋で指揮していなければならなかった。当直士官に任せきりで眠っていたとすれば言語道断」。少なくとも艦長は事前に、当直士官に手動操船への切り替えを指示しておくべきだったと言う。

 全員起床の午前6時までの最後の2時間は「最もつらい時間帯」。見張り員などの注意力が低下しがちで、艦長に代わり全責任を預かる当直士官は、乗員を厳しく引き締めなければならない。この1佐は「当直士官にも大きな過失があるのは間違いない」と話す。

 ハワイで訓練を終えた艦艇が日本に近づくと、艦内は興奮気味になり注意も散漫になることが多いという。「我々は『ハワイ航路ボケ』と呼んでいるが、状況から見るかぎり、艦長以下乗員に慢心があったと思われても仕方ない」

 ●当直士官の責任大きい

 護衛艦の艦長を経験した海自OBは、当直士官の責任が大きいとみる。

 「前方の船舶を発見するのは見張り員より当直士官が早いことも多い」。ほかの当直者より高い安全意識を持つよう心がけるからだという。

 見張りは重要な任務だが、砲雷など航海以外が専門の者が交代で行う。当直士官が先に見つけ、見張りから報告がない場合は、注意喚起を兼ねて確認・報告を指示する。先に見張り員から報告があれば、すぐにレーダー担当に距離や針路を確認させるのが通常だ。「漫然と対応し、事故に至ったのではないか」

 危険を感じれば艦長に報告するのも当直士官の重要な任務。別の海自OBは「漁船の群れが接近しているだけでも艦長に報告し、艦長は様子を見るため艦橋に上がるのが本来のあり方」と話す。

   ◇

 〈キーワード〉艦長と当直士官 自衛艦乗員服務規則などによると、艦長は艦の首脳として副長以下の乗員を指揮統率し、艦務全般を統括する義務を負う。航海長または当直士官に操艦を任せられるが、慎重な注意を要する時は自ら操艦に当たらなければならない。当直士官は担当する当直時間帯の責任者として、当直員らを指揮する。衝突の恐れが生じた場合や天候の急変などは艦長への報告義務がある。

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