もう二十年以上前になる。学生時代から信州を中心に、鳥取の大山、北海道などいろんなスキー場に足を運んだが、あの時ほど冬山の恐ろしさを感じたことはない。
豊富なゲレンデを備えた大規模なスキー場でのこと。霧がかなり濃くなり、滑走者がほとんどいなくなっていた夕方近く。「まだ視界はきく」と自分なりに判断、三キロ以上ある林間コースを滑っていると突然猛吹雪に。間もなく、霧と雪で視界が「白一色」になり、天地左右が識別できない現象に襲われた。
「ホワイトアウト」だ。自分がコースのどの辺りにいるのか分からず、身動きできない状態が続く。「遭難」―。あまりの恐怖にパニックに陥った。運良く三十分ほどで視界が改善、日没前に何とか難を逃れたが、今思い出してもぞっとする。
今月三日、広島県の「国設恐羅漢(おそらかん)スキー場」で、スノーボードをしていた七人が行方不明となる遭難事故が起きた。いずれもスノーボード歴十年以上。雪深い場所を求め、コース外を滑走していて道に迷ったらしい。「山を甘く見ていた」「最悪のケースを考えて行動するべきだった」というのが、救助後の会見での彼らの反省の弁だ。
長野県のスキー場でも同日、大学のスキー実習中の学生二人が雪崩に巻き込まれ、死亡した。引率の講師は立ち入り禁止のコースと認識しながら進入したという。
たとえ、山のベテランであっても、天候急変や雪崩は技術では超えられない。冬山では、慢心やちょっとした判断ミスが命にかかわってくるということを、あらためて思い知らされる。
(社会部・南條雅彦)