厚生労働省は2月20日、医療事故の原因を調べる第三者機関の創設に向けた12回目の検討会を開催し、最大の焦点である「行政処分」と「届出の範囲」について議論した。行政処分について、厚労省は再発防止に重点を置いた「業務改善命令」や「再教育」などを提案。届け出の範囲については、29の具体的な事例を示して意見を求めた。
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「再発防止」に方向転換で、議論錯綜
死因究明制度、「大きな前進だ」 厚労省は「死因究明等の在り方に関する検討会」(座長=前田雅英・首都大学東京法科大学院教授)で、医療事故を起こした医師らに対する行政処分の基本方針を示した。
これによると、医療事故の原因を調べる委員会は責任の追及を目的とした機関ではなく、再発防止や再教育を重視し、委員会と別の組織が行政処分を行う。
行政処分は、医療事故の原因によって医療機関に対する処分と個人に対する処分の2種類。医療機関の診療体制などに原因がある場合(システムエラー)は「業務改善命令」で、さらに医師や看護師らの不注意も事故原因として考えられる場合は「再教育」を併せて実施する。
このうち、業務改善命令は医療安全の体制に関する計画書を作成して再発防止策を講じさせる内容で、医療機関に対する処分の類型を医療法に新たに規定する。
また、医療従事者に対する処分は医道審議会の意見を聴いて実施する。処分の内容は、「業務の停止を伴う処分よりも再教育を重視した方向で実施する」としている。
一方、行政処分の対象となる事例について、厚労省は広狭2つの案を示している。「案1」は故意や重過失、カルテ改ざんなどの悪質な事例、「案2」は捜査機関に通知されるような事例に限定せず、「医療機関の管理体制、他の医療従事者における注意義務の程度を踏まえて判断する」としている。
このように、罰則よりも再発防止に重点を置いた今回の提案について、委員はおおむね好意的に受け止めた。楠本万里子委員(日本看護協会常任理事)は「医療にはたくさんの人がかかわっている。標準的な看護を提供しても及ばないことがある。1人を罰しても安全確保にはつながらない」と述べ、システムエラーの改善を重視する方針を評価した。
樋口範雄委員(東京大大学院法学政治学研究科教授)は「行政処分」という言葉の響きが悪い印象を与えていることを指摘。「医療法人の設立を認めてあげるのも行政処分であるように、行政処分の中には医療機関にとってメリットになるものもある。決して悪い部分だけではない」として、医療安全に資するような行政処分にする必要性を改めて強調した。
■ 届け出の範囲、「資料が独り歩きすると危険」
医療事故と考えられるような死亡が院内で発生した場合、医療機関はどのような事案を調査委員会に届け出るべきか。
厚労省は前回の会合で、届け出の範囲をフローチャートで示した。これによると、判断の出発点は「誤った医療を行ったことが明らかか」という故意・過失の判断で、2段階目は「行った医療に起因して患者が死亡したか」という因果関係の判断になっている。
このフローチャートによると、届け出が必要となるケースが2類型で、不要となるケースが3類型。届け出が必要な第1の類型は、「誤った医療を行ったことが明らか」で、かつ「行った医療に起因して患者が死亡した」という場合(届出範囲1)。
第2の類型は、「誤った医療を行ったことが明らかではない」という場合のうち、結果発生との因果関係が認められる場合に第3段階の判断に進み、「医療を行った後に死亡することを予期しなかった」場合に届け出が必要になる(届出範囲2)。
この日、厚労省は29の事例を(1)届出範囲1、(2)届出範囲2、(3)届出不要a、(4)届出不要b、(5)届出不要c――の5パターンに振り分けて例示した。
事例は実際に起きた医療事故を素材に作成し、1〜6行に簡略化している。厚労省は、これらの事例について「医療機関において判断される可能性が高いと考えられる事例」という表現で例示しており、委員に具体的なイメージを持って議論してもらうことを目的にしている。
しかし、委員からは個別の事例ごとに厳しい意見が出された。「届出不要」に分類された事例でも、「技術が未熟な医師だった場合」という条件を加えれば違う結論になるため、「この資料が独り歩きすると危険だ」「医療安全の観点から大事なものが落ちていく危険性がある」といった指摘が相次いだ。
更新:2008/02/22 18:31 キャリアブレイン
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