このページでは、ミステリ作家の視点から、書籍、映画、ゲームなど色々な「表現」について評論したいと思います。
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英語も理科も駄目だと思ったら漢文も
唐沢俊一の「裏モノ日記」2008/02/21にちょっと気になる記述があった。
いろいろとあせることあり。
しかしあせることが出来るというのは恵まれたことである。
小人閑居して不正をなす、という例はいくらも見ている。
小人であることを自覚すればノンビリはしない方がいい。
「あせること」という思わせぶりな言葉に突っ込ませて、「仕事が沢山あって、忙しすぎて困ってる」意味だとせせら笑うという釣か知らんと思うのは穿ちすぎか。まあ、そんなことはどうでもいい。問題は漢文に対する無教養ぶりで、これからはこんな文言を引用するのはお控えになった方がいいと思う。
そもそも「不正」じゃなくて「小人閒居して不善をなす」。原文は「君子必慎其独也,小人閒居為不善」。君子は独りでいる時に必ず慎み深くするが,小人は他人の目がないと悪い事をするという意味である。まさに唐沢俊一そのものだが、「閒居」を暇と取り違え、「小人」であることを自覚して、忙しく働けばいいのだろうという意思表明。原典の引用も間違え、解釈も間違え、その結果アクションプランも見当違い。呆れ果てた無教養である
参照;「言葉は正しく使いましょう」
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ガセビアはまだまだあるぞ。
P206「石油のトリビア」から
しかしその後研究が進み、最近は「石油無機起源説」を唱える科学者も出てきた。その論者の一人、トーマス・ゴールドによると、石油は地殻の深いところに棲息する微生物が、地底にある炭化水素を石油に変成させてできるのだという。
ねえ。どう思います。雑学といったら博覧強記。かの南方熊楠は博物学者であったし、植草甚一だって早稲田の建築だ。つまり、理系オンチでは、とてもとても雑学王なんて気取ることは出来ないのよ。
唐沢は東北薬科大学で学んだ(中退)ということで、ことさらのように毒物に詳しいとかほのめかしているが、上の文章を読む限り、この人は高校の化学程度の知識もないことが分かる。英語が全然駄目なことは、安岡先生が指摘しているが、前記の「花見」のエピソードと本件で、この人物は理科に関しても全然駄目だと結論しよう。
「有機化合物」と「無機化合物」の違いは、炭素を含むか否かだが、二酸化炭素とか炭酸塩は慣習的に「無機化合物」として扱っている。だから、「有機化合物」は有機体すなわち生物に起源を有する化合物といった方が分かり易いので、しばしばそうした意味で使われる。これまでの「石油有機起源説」は、つまり生物を起源とする考え方。生物の死骸が堆積して、ケロジェンという物質になり、これが石油に変化したという考え方である。一方「石油無機起源説」は、そうした生物とは関係なく、もともと地球深部に大量に存在する炭化水素が、地殻の断裂を通じて地表に向けて上昇し、油田を形成したという考えなのだ。
唐沢は微生物(酵母)による石油蛋白の生成と勘違いしたのかも知れんが、「無機」といいながら「微生物」などと、根本的にこの問題が全く理解できていない情けないことをことを書いているのだ。
はっきり言う。あんたの偏差値じゃあ、雑学なんて無理だよ。
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出鱈目満載粗製乱造本
吉村作治早稲田大学教授によれば、エジプトの遺跡発掘には、厳密な縄張りがあって、英国の研究家の中には、祖父の代からその地を発掘していて、部外者を立ち入れないようにしている奴がいるんだそうである。よその国の王族の墓荒らしをしたうえ、利権を主張するたあ、とんでもない毛唐だと思うが、京都大學人文科學研究所附屬漢字情報研究センター安岡孝一准教授はそんな狭量な人間ではあるまい。
いや、本書『唐沢俊一の雑学王』は、もっぱら安岡先生がターゲットにしているインチキ本、つまり“縄張り”だから、つまらない冗談を吐いちまった。実は安岡先生からもご丁寧なメールを頂戴したし、この度、本当の雑学本。『キーボード配列QWERTYの謎』NTT出版を上梓されるそうで、これまた楽しみであります。
さて、小生の拙い知識の範疇で、本書のインチキを暴いていこうか。P24から―
花見の季節は女性がもっとも美しく見える季節といわれているが、これは意外にも額(オデコ)に受ける日光の照射量に秘密がある。
花見に行くと、花をながめるために自然と人間は上を向き、額に陽が当たることになる。人間の額のすぐ裏側には「松果体」という光センサーの働きをする器官があって、ここが光を感ずると、女性の子宮や卵巣からはエストロゲンというホルモンが分泌される。このエストロゲンは、別名を“発情ホルモン”といわれるぐらいで、女性を“セックスいつでもOK”状態にする瞳孔は大きく開き、肌はつやつやとし、行動も大胆になって男性(と、いうよりオス)を誘う準備を整えるわけである。春先の女性が他の季節よりも魅力的に見えるのはこのためなんである。
なんであるじゃねえだろって。この文章の大意は、「花見で上を見上げるから、春先の女は色っぽくなる」なんである。馬鹿も休み休み言え。花見に出かける女性は全女性人口のごく一部。そして、ずっと上を見上げているわけでもない。花なんか見向きもせずに、飲み食いに没頭する。しかも、一日限りのことであって、大半は夜桜見物なんじゃないか。
いや、そもそも、人間の器官で“目”以外に光を感知する部位があろうとは寡聞にして知らなかった。“指でものを見る”というトンデモさん。もしくは額で感知する“第三の目”ロブサン・ランバ(チベット僧と偽ったイギリス人ペテン師)ではあるまいし。確かに“松果体”は光を感知してホルモンを分泌するが、それは目が闇を感知してメラトニンを分泌するということで、おでこで光を感じるからではないし、エストロゲンと光はなんの関係もない。光がおでこに当たるだけで色っぽくなるなら、花見時より日照時間がずっと長い夏場はどうなのよといいたいところだが、舌の根も乾かぬP32には、こう書かれている。
しかし、実際には男女の性欲というのは、夏には著しく減退するものなのである。
あれ? エストロゲンはどこにいったの? もっとも上の根拠は「睾丸は暑さに弱い」 ← だから金冷法だろ、なにが雑学だ。「ナトリウム不足(汗をかくから)」「熱中症」「脱水症状」「冷房病」と、要は「夏バテでやる気がしない」と言うだけの話。
さらに「松果体」のガセビアは使いまわされていて、P70では
ところで、なぜ秋は物寂しくなるのか。人間の脳には日の光を受けて体内のリズムを整える器官があり、ここに日光が当たると精神が活性化する。だから、昼の時間が短くなる秋になると、人々は鬱々とした気分になってくるわけだ。
で、その日光感受器官だが、これがなんとおでこの真ん中にあるという。実際、鬱病治療に、おでこに強い日光灯を当てるという方法があるらしい。
~ 中略 ~
ハゲに陽気なタイプが多いのは、おでこにたくさんの光を浴びるからなのだろうか?
使い回しがバレないように“松果体”という言葉は使わず、「ハゲ」を引っ張り出してくる姑息さ。
よくもまあ、こんな本が出版されたと思う。
安岡先生のインチキの指摘は、こちら。
・血液型
・タイプライター
・補聴器付きブラジャー 1
・補聴器付きブラジャー 2
・補聴器付きブラジャー 3
・秋葉原
・バカをさらけだしてて見苦しい
・王冠のギザギザ
・ミキサーとハイイロガン
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驚くべし、唐沢俊一が正しかった例
パクリまくられた『珍々発明』だが、最後の最後に、間違いが書かれていて、なおかつ唐沢がなんと、その部分を訂正して『奇人怪人偏愛記』に載せている。
『珍々発明』
日本でも、大正四、五年ごろだった、たしか長岡半太郎博士(日本の物理学の大御所)が、水銀から金を作る方法で特許をとっている。
当時、それが新聞に発表されて、いわゆるヤマ師たちがワンサと押しかけたという。
なあに、元素転換なんだから、たいへんな装置を使い、膨大なエネルギーを使って、顕微鏡で見たって見られないくらいの、ごく微量なものしか作れなかったのである。それでヤマ師たちは散っていった。
テル・ヤー・ボーネンはここまで特許に関しては(日本特公昭六―二六五八)とか(イギリス特許第一二六九六一号 1920)なんて具合に具体的に書いていた。だから、番号は記されていないし、「大正四、五年」とか「たしか長岡半太郎」なんて記述は妙だし、心もとない印象である。この部分も唐沢はしっかりパクってはいるが、
『奇人怪人偏愛記』
日本の物理学の父であり、原子核理論で国際的な評価を得ていた長岡半太郎も東京大学教授時代、水銀を金に変えると言う還金術にとりくみ、一時はそれに成功したと報じられて、大騒ぎになったことがある(すぐ誤報と分かった)。
理研ニュースNo.254にこの件が載っているが、事実は唐沢の記載に近い。長岡は特許も取っていないし、微量の金も作り出していない(原子核を構築している核力は強大で、長岡のやり方では不可能だった)、またこれは大正十三年の出来事である。
まあ、『珍々発明』の流れの中でパクっていることに変わりはないが。
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珍しく引用元を記していると思ったら…。
『奇人怪人偏愛記』のパクリの続きである。この本のP195に一読、アレ? と思わせる記述がある。その部分を引用しよう。
日本で発明された永久機関のアイデアには、次のようなものがあるという。
「まず、水を電気分解する。そして得られた水素と酸素に化学反応を起こさせる。つまり燃すわけだ。すると非常に高温になるので、そのガスは空高く上がるだろう。その上がっていくところに大きな、高さ千メートルくらいの煙突を立てておく。上に上がったガスは冷えて水になる。それを貯めて、落差千メートルの水力発電所を作る。そして、発電した電気で水を電気分解する……」
(坊年輝哉『珍々発明』より)
ね? 唐沢の本で引用部分を「」で括って、ちゃんとそれとわかるようにして、著者名をきちんと記した例なんて珍しいと思うんだが。この『奇人怪人偏愛記』には「美人の描写今むかし」という章があり、いろんな作家の美人の描写を引用していて、さすがにそこでは、こうした一手間はとられているが、この当たり前のやり方が、唐突に現れると、ミステリ作家は「怪しい」と勘繰ってしまうのだな。
因みに『珍々発明』(書影)は、テル・ヤー・ボーネン著、読売新聞社1971年初版という本であり、唐沢はわざわざ著者の本名を記しているが、著者はあくまでもテル・ヤー・ボーネンのはず、そして、テル・ヤー・ボーネン氏の名誉の為に断わっておくが、原著にはちゃんと「燃やす」と書かれていて「燃す」なんて変テコな日本語は使われていない。ちゃんと引用したつもりで、しっかり劣化コピーになっているところは、如何にも唐沢らしい。
さて本エントリの主旨はそこではない。きちんと引用元を記した引用の後、話題は"眼力エネルギー実験機"に移っていく。唐沢は、こう記す。
『奇人怪人偏愛記』P195
透明なガラスケースの中に、うんと細い絹糸のようなもので、コイル線(これもうんと細い金属で作っておく)を地面と平行になるようにブラ下げておく。このコイルのわずか下のところに電極を置き、コイルと電極に放電しない程度の電圧をかけ、“コイルと電極”“ガラスケース”は絶縁しておく。さて、この状態でコイルがゆれを止めて静かになるのを待ち、それを確かめてから実験者はそのケースの外から、片目でそのコイルの一方の端を、じっと力を入れて見つめる。すると、そのコイルは、なんと静かに回転を始める!
こんどは視線を、もう一方の端に移してみる。すると、今度は逆回転を始める。この現象は、下の電極を電磁石に置き換えても起こるし、また、普通の磁石でも同様である。
さらに、上下同様にコイルにした場合にも、同じように起こるのである。
あれ? この文章どこかで見たことがあるぞ。そう思ったのは当然で、『珍々発明』のあの永久機関のエピソードに続けてこう書かれているのだ。
『珍々発明』
まず、図のようなガラス、あるいはセルロイドのケースの中に、うんと細い絹糸のようなもの(c)で、線輪(b)をぶら下げておく。その線輪も、うんと細い電線で作っておく。
この線輪のごくわずか下のところに、電極(d)をおき、この線輪と電極に放電しない程度の電圧をかけ、“線輪や電極”と“ケース”は絶縁しておく。
さて、この状態でしばらくすると、線輪はゆれを止めて静かになる。それを確かめてから、あなたは、そのケースの外から、片目でもいい、または両方の目で見つめてもいい、その線輪の一方の端を真剣に見つめるのである。すると、その輪線は、静かに回りはじめる!
こんどは視線を、もう一方の端に移してみる。するとこんどは逆回転をはじめる。この現象は、下の電極を電磁石に置き替えても、またふつうの磁石に置き替えても起こるし、上下両方とも線輪にしても 同じように起こるのである。
こりゃ、「線輪」を「コイル」と言い換えただけでほぼ丸写しという状況。さらに錬金術に関しても
『奇人怪人偏愛記』
「小麦のわらを、細かく刻み、等量の小麦をませて(ママ)、冷水にひたす。次にそれを華氏五十九度(多少の誤差は許容)で十時間放置し、その後、陶製の皿(または土器)に、その液を漉して水だけ入れる。この液を、華氏六十度(多少の誤差は許容)で二十四時間おいておく。すると、表面に浮いてくるものがあるから、それを取り出して乾燥させると、その結果として、フィルム状の金が得られる」
『珍々発明』
「コムギのワラを、ラワ(ママ)の太さくらいの長さに短く、そして四角に切り、それを等量のコムギに混ぜて冷たい水にひたしておく」
なるほど……。
「つぎにそれを、華氏五十九度(多少の誤差はいい)で、十時間、静かに放置して、その後、陶器か土器の皿に、その液だけをコシテ入れる」
なるほど……。
「この液を、華氏六十度(多少の誤差はいい)で、二十四時間おいておくと、表面に浮いてくるものがある。それをとり出してかわかしてやると、その結果として、フィルム状の金が得られる。 」
驚いたね。これだけで、もう充分過ぎるほどの『奇人怪人偏愛記』を回収絶版に出来る証拠はあると思うんだが、これも唐沢は無視し、楽工社もシカトを決め込むんだろう。本当に天誅を下してやりたくなってくるよ(嘘ですよ)。
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唐沢俊一の得意技炸裂
はいはい。唐沢俊一的パクリ本の作り方が、よおっく分かる本で御座いますよ。
例えば、この本のP157に「幽霊を生むオンナゴコロ」という章がある。ここで、三つのエピソードが紹介されているが、章題の「幽霊を生むオンナゴコロ」に当てはまるのは最初のモートン・シャッツマン博士のエピソードだけで、他の二つは「丑の刻参り」と「コリン・ウィルソンの心理実験」の話であり、女性は登場するが、オンナゴコロが幽霊を生んだ話ではない。
相変わらず杜撰な奴だと指摘するのが主旨ではない。実は一括りで提示される三つのエピソードは、あるサイトからのコピペなのだ。
そのサイトとは「マッドサイエンティストの部屋」である。ここに書かれている、「生きている人の幽霊」「呪いを科学で解明する」「幽霊製造実験」の文章を唐沢の著書と比較してみよう(因みに唐沢本は2006年刊、マッドサイエンティストの部屋」は最終更新が2005年である)。
『奇人怪人偏愛記』
精神神経科医モートン・シャッツマン博士の患者に、自由に幽霊を作り出すことの出来る患者がいた。博士は彼女をルースと仮名で読(ママ)んでいるが、ルースは幼少の頃から幽霊をよく見る女の子だった。 十歳の頃に、実の父親からセクシャルハラスメントを受け、このときから、彼女には父親の幽霊が 取り憑くようになる。幽霊と言っても父親は死んではいないのだが、どんなに寝室に鍵をかけても 幽霊となった父親はやってきて彼女に性交渉を迫り、また結婚後は夫も幽霊となって彼女に迫るようになった。これに困ったルースは、シャッツマン博士のもとにやってきたのだが、その幽霊とは彼女が心の中で 作り出しているものだと診断した(幽霊の本場だけあって無碍に否定しないのである)博士は、幽霊を 排除するのではなく、あなたの中でコントロールできるようにしなさい、と勧めた。 つまり、幽霊を恐怖心で見るのではなく、それと面と向かえるようにして、 恐怖心を克服するように教えたのだ。ルースはさすがに、最初は怖さが先に立ってなかなか幽霊と話し合えなかった。そこシャッツマン博士は、幽霊が坐っている、と彼女が言った椅子に、わざとドッカと腰掛けてみせたという。ルースの目には、幽霊があわててその椅子からどいたように見え、これで彼女にとって、幽霊の怖さはだいぶ軽減されたものとなった。やがてルースは、怖い幽霊ばかりでなく、自分の親友や、 シャッツマン博士の幽霊も自由に作り出せるようになり、幽霊は自分にとって怖い存在ではなく、 親しいものだと意識できるようになった。結局、シャッツマン博士は幽霊を退散させることは出来なかったが、逆手にとってルースと幽霊を仲よくさせることで、彼女の生活に幽霊が支障となることをなくさせ、 その恐怖から彼女を解放した。ルースは今でも、幽霊たちと仲よく生活しているはずである。
「マッドサイエンティストの部屋」
イギリスの精神医学者モートン・シャッツマンは「ルースの物語(1980)」を記した(ルースは患者の仮名である)。この幽霊の特徴は生きている人物の幽霊(ルースの父親や夫など)であることである。幼少の頃から幽霊らしきものを比較的自由に見る事ができたルースだが、10歳の頃に実の父親から強姦されそうになる。この事件をきっかけに、父親の幽霊が取り付くようになる。また、結婚後は夫も幽霊となって、性的交渉を迫るようになる。これに困ったルースは治療を求めた。シャッツマンは幽霊を『あなた自身がつくりだしているものだ』とルースに分からせることで、幽霊を制御可能なものへと変えた。較的自由に幽霊を出現させたり消したりできるようになったルースは、恐怖心から解放され、幽霊と面と向かって対話できるようになった。シャッツマンはこの会話を録音したが、さすがに幽霊の声は録音できなかった。幽霊の声はルースにしか聞けなかったのだ。あるとき、シャッツマンは幽霊が座っているはずのイスに無理矢理腰掛けようとした。このとき、ルースには幽霊がイスから逃げ出すように見えた。幽霊は人間と同じように振る舞うのだ。やがてルースは、シャッツマンや親友の幽霊も自由に作り出せるようになった。この時点で治療は成功したと判断され終了した。彼女にとって幽霊が煩わしくなければそれで構わないのだから。
参考:「新幽霊科学」徳間書店 発行 ゆうむはじめ 著
参考:「夢魔」株式会社未来社 発行 スタン・グーチ 著 川澄英男 訳 1989年第1刷発行
唐沢の記述には「幽霊の声」の部分がないし、「マッドサイエンティストの部屋」以外の他の情報も書かれていない。
『奇人怪人偏愛記』
昭和二十九年、秋田県で、藁人形の呪いをかけて殺人が行われかけたことがある 田中義江さんという若い女性が突然胸の痛みで倒れ、医者に見せても原因が分からぬまま過ぎたが、義江さんの交際相手の山本鉄也さんから警察に「彼女はのろいをかけれている」との訴えがあった。山本さんは、数年前からKという別の女性と交際していたが、義江さんとつきあうようになり、Kの方には別れ話を持ち出した。しかし、Kはあきらめきれずに義江さんをうらみ、近所の神社で丑の刻参りを行ったのだ。警察は検討した結果、Kを逮捕した。すると、とたんに義江さんの体は回復し、周囲の人を驚かせた、と当時の新聞にある。
当時の新聞がなんなのか記載して欲しいところだが、当然ながらそれはない。
「マッドサイエンティストの部屋」
第2次大戦後の日本で、警察が呪いに対して動いたことがある。 昭和29年の秋田市にて、 田中義江さんは、突然胸の痛みで倒れた。医者には原因がわからぬまま。 数日後、交際相手の山本鉄也さんが警察に「彼女はワラ人形の呪いをかけられている。」と訴えた。山本さんは、数年前から堀田清子さんと交際していたが、 義江さんのことが好きになり別れ話を持ち出した。 しかし、清子さんは諦めきれずにやり場のない怒りを義江さんに向けて近所の神社で「丑の刻参り」を行なったのだ。警察は検討した結果、清子さんを脅迫容疑で逮捕した。 すると途端に義江さんの体は回復し、周囲の人を唖然とさせたのだ。
参考:日本テレビ「特命リサーチ200X」1997.7.6 放送「呪いのわら人形の謎」
参考:「怪談の科学 Part2」 P.12株式会社講談社ブルーバックス中村希明 著
なお、上にある日本テレビの番組はここを参照。参考文献がきちんと書かれていると、信憑性もぐっと増すし、便利である。
『奇人怪人偏愛記』
1976年、心霊研究家として有名な作家コリン・ウィルソンが監修したBBCの心霊番組の中である女性に催眠術がかけられ、特定の男性に会うと幽霊が見えるように暗示が与えられた。もちろん、その女性には自分に与えられた暗示は知らされていなかった。
その後、波止場で、その暗示で与えられた特定の男性が彼女に近付くと、女性は、今、自分の脇にいた人が急に消えてしまったと不思議がった。その消えた人の服装を質問すると、その答えは催眠術で与えられた幽霊と全く同じだった。女性は、そんな人間が実際にはいなかったことに、まったく気がついていなかった。これだけなら面白い心理実験のおはなし、で終わりなのだが、実は後日談がある。放送後BBCに、その波止場で、同じような幽霊を見たという報告が相次いだのである。まったくの創作で、モデルなどいない架空の幽霊であったのに。
「マッドサイエンティストの部屋」
幽霊研究先進国イギリスにおいて、人工的に幽霊を作り出す実験が行われ、この実験は1976年にBBCにより放送された。コリン・ウィルソン監修のシリーズ番組「Leap in the Dark」のなかで行われた実験は次のように行われた。まず、ある女性に催眠術がかけられ、その女性が見るであろう幽霊について詳しい説明がなされた。次に、特定の男性に会うとその幽霊が見えるとする「後発性暗示」が、その女性に与えられ、催眠術は解かれた。ひとけのない波止場に立つ女性に、男性が歩み寄る。その時、女性は今いた人が急に消えてしまったと不思議がった。その消えた人の様子を質問すると、その答えは催眠術で与えられた幽霊そのものだった。また、女性から見てその幽霊(?)はごく普通の人間に見えたと言う。この話には後日談がある。放送局や心霊研究家のところへ、同じような幽霊を見たと言う報告が相次いだのである。しかし、この幽霊は完全な創作であり、それ以前に目撃されたことはない。つまり、幽霊話は噂だけでも伝染するものであり、元がニセモノでも構わない。第2次大戦直前のアメリカでおこった火星人騒動も同じである。幽霊製造実験は心霊スポット製造実験ともなったのだ。
参考:「新幽霊科学」徳間書店発行 ゆうむはじめ著
引用元はコリン・ウィルソンの「ミステリーズ」(工作舎)
一読お分かりのように、唐沢の方には番組名や「後発性暗示」という言葉は書かれていないし、別の情報もない。
1章丸パクリとは豪勢なと思われたかも知れない。だが、この本のパクリはこれだけではないのだ。
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毎朝PCを立ち上げて、まず最初にすることは、どなた様もそうだとは思うがメールのチェックであります。毎朝、平均して100件ほどのメールを受け取ります。おお、なんたる人気作家! じゃないんだよねえ。まずこのうちの約30件は受信トレーじゃなくて直接ゴミ箱にいっております。いわゆるスパムという奴ですね。さらに残りの30件は、ローマ字表記(英語?)の送信者・件名によるもので、件名をよく見れば「貴方の逸物増大させます」なんてものばかり。まともな日本語でかかれた送信者・件名が、残りの40件です。
もっとも、これらにも「3日で-15キロ!」「宿便が10キロも出る!」「毛穴のない女になる!」なんてのが混じっております。なんで初老の男がいきなり「毛穴のない( ← 死ぬぞ)」「女」にならにゃあならんのか。
さらに「直美です。昨夜はゴメン」なんて件名で、差出人が「Tanaka Youko」なんて杜撰なものとか、「とりあえず写真貼りましたから見てください」なんて書いてあるから、しょうがねえなあ、じゃあ、とりあえず見てやろうかいと開けてみると「割り切った男女のお付き合いのサークルです」とか書いてあってURLはあれど写真なんかないとか酷いものばかり。
さらにmixiからのお知らせ(これにもmixiyなんて偽が混じってる)だが、これがどれも一日遅れで来るらしく「メッセージ」も「コメント」も既読のものばかり。
やっと数通のまともなメールが残ります。ここのメールフォームから来たメールは「お便り受付け」という件名になっているので、分かり易い。で、その中に全く未知の方から「『××』という作品を読んだら面白かったのでメールしました」なんてのがあるんですが、こういうのは嬉しいですねえ。もうその日一日の元を取ったような気がします。それから、既知の方からのお便り、連絡(これらには、二度目なので「お便り受付け」は付加されません)。
そして―
わけの分からないメールという奴が、一日に1,2通あるのです。
わたしが所属している拳道会の門下生という人間からのメール(匿名でしかもホットメール)。「押忍」という書き出しからこいつが偽者と分かります。拳道会では「押忍」という言葉は使いませんから。で、あなたの主張に賛同する、悪人には天誅が下るべきだが、あなたは手を汚してはいけないからわたしが代わりにやる、といった内容。削除しようとしたら、ちょっと気になることが書いてあったのです。「不意打ちは卑怯なので、まず予告のメールを送り、散々脅してから実行にかかる」。こいつが偽者で「天誅」を下したりはしないことは間違いないが、悪質な悪戯メールを送りつける可能性は否めない。
拳道会の名前でそれをやられて、なにか問題になったら不味いだろう。かといってあの人に「これこれと言った内容の脅迫メールが届くかも知れないが、それは悪戯なので気にしないで下さい」なんてメールを送ったら、脅迫メールが届いていようがいまいが、ただのマッチポンプに見られてしまうだろう。
一計を案じて、日記に根も葉もないことですと書いたんだが、やっぱり余計なことだったようですね。「脅迫」の「力に訴えると主張した」とか2ちゃんに書かれてしまった(2ちゃんだから構わないという考えもあるけれど)。まあ、その2ちゃんにも「闇討ち」とか書いた奴がいたから、万が一を考えてあんなこと書いたのですがねえ。
そんなこんなですが、メール待ってます。悪質な悪口雑言罵詈讒謗でない限りはお返事いたしますので、じゃんじゃんメール下さい。
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世界最大の「お笑い投稿」本
新本格誕生から20年、『もっとすごい!!「このミステリーがすごい!」 20周年記念永久保存版 』別冊宝島 なんて本も発売されているが、なんとVOWは今年で30年ということで、同じ宝島社から、本書が発売されたわけである。うーん、30年か、歳をとるわけだなあと感慨にふけったら、なんと本日で小生は57歳になっちまった。いやはや。
最近は「まぐまぐVOWデジカメでぽん」にばかり投稿して、本家とはご無沙汰だったが、やっぱり書籍(ムックだが)として、VOWもんを一望するのも楽しいものだ。
VOWネタには色々あるけれど、小生が愛するのは『手書きの貼紙』で、内容は大抵がクレーム。「犬に糞をさせるな」「駐車するな」「立ち小便するな」「ゴミを(指定日以外に)出すな」といった、市井の、それも切羽詰まったものばかりで、書いた本人は必死で思いを伝えようとしているのだろうが、そのエネルギーが主張のベクトルをしばしば、変てこな方向に捻じ曲げてしまい、妙におかしいものが多い。それに比べて“ウケ”を狙ったようなものは、笑えても失笑の類だが、これまた意図したウケとは全く別の要素で大いに笑えるものがあるのだ。
本書だと前者なら「ユータン進入禁止」という手描きの看板。選者は「早見?」という自分の突っ込みにも、また突っ込んでいて笑える。
後者なら町田康のCDの手描きPOP「布袋に殴れました」が最高。POPに「布袋に殴られた」と書くのも“うけ”狙いを超えたおかしさがあるのだが、そこで間違ってしまうのはもはや書いたご本人の意図ではあるまい。
飲食しながら読むのはやめましょう。悲劇が起こりかねません。
『日本の笑いVOW!!』 別冊宝島 宝島社 2008
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2ちゃんねるの唐沢俊一盗作関連のスレッドに、親切なねらーの方が、『ハレンチ学園』について、詳細にレスポンスして下さった。ここに引用させてもらいます。
藤岡真様
漫棚通信様
こちらをお読みと思いますので、レスポンスさせていただきます。
藤岡先生のサイトの
http://www.fujiokashin.com/criticism.html
2月15日分に「ハレンチ学園」における金嬉老事件のパロディについて、
御両名のやり取りを拝見いたしました。
その件について、本スレッドに書いたのは自分ですので、ソースを説明いたします。
自分の手元にあるのは集英社漫画文庫「ハレンチ学園」2巻です。
昭和51年12月31日発行の第2版で、初版は同年の11月30日となっています。
他の版が手元にないので確信は持てませんが、内容や発行年代から考えて、台詞の修正等はほとんどないと思われます。
それで、問題の台詞ですが、丸ゴシ先生籠城事件の3話目にあたる「大乱戦の巻」の2ページ目第5コマです。
籠城事件の新聞記事を楽しみ、丸ゴシ先生に負けて負傷していた息子を笑っていた山岸父が、事件の経緯を聴いて
「ふーん なかなかホネのあるやつだなーぐわっはは 金 亀老といい勝負だ……」と喜んでいました。
漫棚通信様がお持ちの最新版では、おそらく別な台詞に変わっていると思われます。
実は初単行本化時には、当時小学生の自分が、“見たことのない漢字だ”と思った記憶があるので「金嬉老」だったようにも思えますが、これは記憶違いかも知れません。
劇場犯罪を喜び犯罪者をスター化する大衆の本音を描いた先駆的な作品ではあったと思いますが、金嬉老氏をヒーロー化しているというレベルのものではありません。
以上、ご参考まで。
「金嬉老」が昭和51年に単行本収録される時に「金亀老」に替えられた可能性はあるでしょうね。しかし、唐沢が言ったような―
>当時読んでいた漫画に彼を主人公っていうかモデルにしたようなマンガがねいくつもあって
ということはやはり嘘でしたね。
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パクリはいけません
その本が著者の意図したところとは全く別のところで笑える本、それがトンデモ本だったはずだが、ここ(『トンデモ本の世界T』)で紹介されている本『人はなぜ「占い」や「超能力」に魅かれるのか』樺旦純 PHP研究所は、そういう意味では全く笑えない本なのだ。では何故取り上げられたのかといえば、この本がパクリ本だからなんだそうである。
よりにもよって「と学会」からパクっちまったのだから、お気の毒だが、ここで評者、皆神龍太郎はその悪行について滔々と語ってくださる。
順番が微妙に入れ替えられているものの、誰がみても明らかに内容は同じ。 ~ 中略 ~ つまりこの本は、ネタの多くを『トンデモ超常現象99の真相』からパクって、そのまま書き写して造っちゃったというパクリ・トンデモ本なのだ。(P182)
なんかどこかで聞いたような話だなあ、と思われたろうが先に行くよ。
大部分がこれまた信州大学の菊池聡助教授らの『不思議現象なぜ信じるのか』(北大路書房)や、テレンス・ハインズの『ハインズ博士「超科学」をきる』(化学同人)などからの書き写しなどである。確かに巻末に参考文献としていずれの本も挙げてはいるものの、この書き写し方は、参考とか引用の範囲を明らかに超えているんじゃないでしょうか?(そもそも引用だったら、なんで微妙に書き換えてあるの?)(P184)
おおっとぉ! ここでのけぞりましたね。散々パクリだと罵られていたこの本、著者の姿勢・能力(しばしば“写し”間違えている)はともかくも、樺さんは少なくとも参考文献として明記しているのではないか。唐沢俊一が己の犯罪を、コピペして改竄して、自分の文章に見せかけたことは認めながら、そのことを明記しなかったことだけだと言い訳したことを考えるなら、この樺さんはなんら責められるようなことはしてないじゃない。そもそも、
>そもそも引用だったら、なんで微妙に書き換えてあるの?
という台詞は、お友達のその唐沢俊一に叩きつけるべきなんじゃないの。
唐沢俊一、山本弘、志水一夫、植木不等式に続いて、皆神龍太郎も糞認定。