1.総評
【2008年度センター試験の特徴】
・政治分野が2大問、経済分野が2大問、融合問題が1大問で、融合問題の出題が昨年より減少した。国際政治分野の内容を多く含んだ大問が1問出題されたが、国際経済分野の設問は昨年に比べ減少した。
・正確な知識と理解を求めた、オーソドックスかつ標準的な出題。また、時事問題、資料読解の思考力まで幅広い学力が問われた。 |
多角的・総合的視点のリード文という傾向は、昨年から変更がなかった。大問構成は、昨年の融合問題3大問から今年は1大問に減少して、政治分野、経済分野それぞれに独立した大問が設けられた。また国際政治分野を多くとりあげた大問が出題された。基礎的かつ重要な事項が知識として定着しているかどうかを問う出題を中心に、具体的事例をもとに考えさせる理論考察力、時事的な内容への理解、資料読解の思考力などが求められた。きちんと学習を積み上げてきた受験生にとっては高得点が期待できる出題で、難易は昨年並。
2.全体概況
【大問数・解答数】 |
大問数5、解答数38個は昨年から変更なし。 |
【出題形式】 |
語句選択問題、2行の文章選択問題がやや減少し、1行の文章選択問題が増加したが、文章選択問題中心の傾向は昨年から変更なし。また、昨年に引き続き、統計資料や図表を用いた問題が6問(グラフ4問、表2問)出題された。 |
【出題分野】 |
政治分野2大問、経済分野2大問、融合1大問で、昨年より融合問題の出題が減少した。国際政治分野を多く含んだ大問が1問出題された。 |
【問題量】 |
昨年並。 |
【難易】 |
昨年並。 |
3.大問構成
大問 |
出題分野・大問名 |
配点 |
難易 |
備考(使用素材・テーマなど) |
第1問 |
企業の社会的責任 |
24点 |
やや易 |
融合(政治、経済) |
第2問 |
統治機構と日本国憲法 |
19点 |
やや易 |
政治 |
第3問 |
国際政治と日本 |
19点 |
標準 |
政治(国際政治分野が中心) |
第4問 |
戦後の日本経済 |
19点 |
やや難 |
経済(うち、国際経済分野が3問) |
第5問 |
少子高齢社会と雇用問題 |
19点 |
やや易 |
経済 |
4.大問別分析
第1問「企業の社会的責任」
- 企業の社会的責任を切り口に、国民生活に関連する設問が政治分野・経済分野から幅広く出題された。日本の法律や社会的問題に絡めて、時事的な内容も出題された。
- 問1は、企業に関連する幅広い知識を必要とする出題。「コーポレート・ガバナンス」・「カルテル」の意味、「公企業」・「中小企業」の分類を正確に理解できていれば解答できる標準的な内容。
- 問2は、企業の社会的責任を促すことを目的とする具体的な事例が問われた。「企業の社会的責任」の意味を理解し、常識的に判断すれば正答は明らかであったろう。
- 問3は、設備投資などのGNE(国民総支出)に計上される投資の具体的事例が問われた。「設備投資」の意味が理解できていれば容易に判断できた。
- 問6は、日本の法制度における個人情報保護の内容、問7は、「いじめ」や「セクハラ」における日本の法制度やその運用について問われた。選択肢は昨今の日本において話題となっている法制度やそれに関連した社会問題を取り上げており、時事的な内容。詳しい知識が要求されており、受験生には判断が難しかったであろう。
- 問8は、政府一般会計予算の目的別歳出構成推移から、費目を選択するグラフ読み取り問題。1970年度に比べ2005年度には国債費が増加したこと、高齢化とともに社会保障関係費が大幅に増加したこと、構造改革などにより国土費が減少したことをおさえられていたかが解答のポイント。資料の読解力だけでなく、背景知識も必要であった。
- 問10は、法人税の内容について誤っているものが問われた。選択肢1・2・3の内容は正しいがいずれも内容が細かく、判断しにくい。正答選択肢2の「国税収入に占める割合が最も高い税率」が「法人税」でないことを知っていれば、判断できたであろうが、いずれにしても受験生にとってはやや難しかった。
第2問「統治機構と日本国憲法」
- 政治分野からの出題。日本国憲法に関連させながら、行政や国会・内閣についての内容がオーソドックスに出題された。
- 問2は、日本国憲法の規定で明記された内閣の権限ではないものが問われた。日本国憲法の正確な理解を必要とする基礎的な内容。
- 問3は、行政委員会についての内容が問われた。正答選択肢である1の内容はやや細かいが、2・3・4の内容から消去法で正答にたどりつけたであろう。
- 問4は、二院制が採用され、両議院の議員が国民から直接選挙されている国を選択する設問。選択肢3のドイツおよび4のフランスがどのような政治体制を採用しているかについての内容は細かいが、正答選択肢1のアメリカの政治制度は基礎的な内容であるため、容易に判断できた。
- 問5は、衆議院解散についての内容が問われた。日本国憲法を正確におさえていれば解答できる。ただし、選択肢1・2の「憲法運用」という言葉の意味が分かりづらく、受験生を戸惑わせただろう。
- 問6は、小選挙区制における架空の選挙結果から選択肢の内容を判断する読み取りの設問。「各選挙区で最も多くの票を獲得した候補者が当選する制度」という設問の条件と選択肢の内容に沿って表を読み取れば、素直に正答を導くことができた。
- 問7は、表現の自由が争われた事件とその権利と対立した利益を結びつける組合せの設問。事件の内容を知らなくても、選択肢の事件名から正答を類推できるため、易しい。
第3問「国際政治と日本」
- 政治分野のなかでも国際政治分野を中心に、国際政治の基礎的な内容から日本の憲法問題まで幅広く出題された。
- 問1は、ゲーム理論を応用した内容で、2004年度本試第4問問5と非常に類似した設問。思考力を必要とするが、設問内容を正確に理解し、選択肢内容を落ち着いて吟味すれば判断できた。
- 問2は、平和維持のための構想・政策についての設問。正答のグロチウスは基礎的な事項であり、選択肢1・2・4の誤りも明確であることから、取り組みやすい。
- 問3は、戦争の違法化を進めた条約とそれらに関する内容を結びつける組合せの設問。不戦条約とその中身についてはやや細かく歴史的ではあるが、「国際連盟規約」と「国際連合憲章」の内容は基礎的な内容であるため判断できる。
- 問4は、主権についての3つの意味を問う問題。具体例を通してその意味の違いを判断することが求められた。
- 問7は、日本の国際協力について問われた。正答選択肢1の「日本がAPECに参加している」ことは基本。選択肢2の「内閣府にDACを設置している」、選択肢3の「自衛隊の組織として青年海外協力隊が設けられている」などの記述から誤りも明らかであるため、受験生にとっては判断しやすかった。
第4問「戦後の日本経済」
- 経済分野からの出題。日本の経済の対外関係について出題された。問1・問4・問6はやや細かい知識を必要とした。
- 問2は、中央銀行の金融政策を経済の状況と関連させて問われた、基礎的な設問。「デフレ」、「インフレ」、「不況期」、「好況期」と中央銀行が行う具体的な政策を対応させ理解できていれば、解答できただろう。
- 問3は、高度経済成長期における日本の経済や社会についてが問われた。選択肢1にある「1人当たり」という言葉を見過ごし、「GNP」と「資本主義国第二位」という言葉から誤って選んでしまった受験生もいたであろう。
- 問4は、第一次石油危機以降にみられた日本の経済現象や経済動向についてが問われた。選択肢1の「1970年代後半には、政府一般会計歳出額の対名目GDP比率が上昇した」かどうかは判断しづらいが、誤答選択肢の誤りが明らかなため、消去法で判断できた。
- 問5は、戦後の国際通貨体制と米ドルの動向について誤っているものを選択する設問。やや歴史的ではあるが、国際経済分野では基礎的の内容。選択肢4の「変動為替相場制への移行」は、「スミソニアン協定」ではなく、「キングストン合意」であり、誤りは明らかである。
- 問7は、日本からの直接投資の推移のグラフとアジアNIES・ASEAN・中国の組合せが問われた。1980年代に直接投資が増加したNIES、1990年代に増加したASEANから判断できた。ただ、2000年代に増加した中国のグラフには、1990年代にも直接投資が増加したことが読み取れるため、受験生は判断に迷ったであろう。
第5問「少子高齢社会と雇用問題」
- 経済分野からの出題。日本の労働問題を中心に出題された。問3・問4・問7は、日本の社会問題に関わる時事的な内容が問われた。
- 問2は、雇用の動向におけるグラフ読み取りの設問。知識を必要とせず、選択肢の内容とグラフを落ち着いて照らし合わせれば解くことができただろう。
- 問3は、労働者の就労条件をめぐる法制度についての内容を問われた。選択肢1・2は内容が細かいため、受験生にとっては判断しにくかったであろう。
- 問4は、公的介護保険制度とそれに基づく介護サービスの内容について問われた。正答選択肢4の「費用負担3割」はやや細かい内容であるが、誤答選択肢1・2・3は基礎的な内容であるため、正答を導くことができる。
- 問5は、合計特殊出生率および65歳以上の人口比率の推移のグラフと日本・韓国・中国の組合せの設問。日本の合計特殊出生率は受験生にとってなじみのある数字であり判断できるが、韓国や中国の出生率や65歳以上の人口推移の傾向を判断するのは難しかった。
- 問7は、男女雇用機会均等法について問うた、オーソドックスな内容。選択肢4の「女性の深夜労働の禁止規定」は撤廃されており、誤りが明らか。また、このような規定が男女雇用機会均等法にはないことからも判断できたであろう。
5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度 |
2007 |
2006 |
2005 |
2004 |
2003 |
平均点 | 64.41 |
61.05 |
64.55 |
61.49 |
62.95 |
6.2009年度センター試験攻略のポイント
- 問われている内容は、各分野の基本的な用語の理解と、原理・原則が中心である。まずは、基本的な知識を確実におさえた上で、論理的に考察する応用力を身につけておきたい。
- 近年、資料問題は5・6問出題されている。単純な読み取り問題だけでなく、その背景にある知識を必要とする問題も出題されている。日頃から、多くの資料にあたり、数値変化の原因などを教科書などで調べ、理解を深めておきたい。
- 教科書だけではなく、資料集レベルの知識や、時事的な事項についての知識も求められるので、新聞・TVの特集記事・報道には十分な関心をもっておく必要がある。学習して得た知識を具体的な事例に当てはめて理解しておきたい。
|