1.総評
【2008年度センター試験の特徴】
・昨年に引き続いての6大問構成。
・昨年出題されなかった国際政治分野を含め、各分野・項目からバランスよく出題された。
・時事問題への注意や、教科書・資料集レベルの学習ができていれば、それなりの得点が可能な内容。 |
大問数・解答数は昨年と同様で、2006年度のような小問集合はなく全大問にリード文が置かれた。形式では、統計資料の読み取りを求める問題が1問のみになり、組合せ問題も2問に減少した。分野では、昨年見られなかった国際政治が出題されたほか、青年期、文化・宗教、現行課程に入って3年連続となる課題追究(調べ学習)の問題など、各分野・項目からバランスよく出題された。時事的な出題もやや目立った。全体として、政治・経済・国際各分野の知識や原理についても教科書・資料集レベルで学習できていれば解答可能な問題が昨年より増加し、また青年期などの大問が取り組みやすかったため、難しかった昨年に比べて易化。ほぼ標準的といえる難易であった。
2.全体概況
【大問数・解答数】 |
大問数6、解答数は36個で、昨年と同様。 |
【出題形式】 |
統計資料の読み取り問題が2→1と減少。組合せ問題も5→2と減少した。8択問題は3年連続で出題されたが、5択以上の問題が減少し(6→2)、4択の文章選択問題の比率がさらに高まった。 |
【出題分野】 |
昨年出題されなかった国際政治からも出題。青年期や、課題追究(調べ学習)の出題は継続された。文化・宗教なども含め、各分野・項目から幅広く出題された。 |
【問題量】 |
昨年同様全大問にリード文が置かれ、ほぼ昨年並。 |
【難易】 |
教科書・資料集レベルの学習で解答可能な問題が昨年より増加し、また青年期などの大問が取り組みやすかったため、難しかった昨年に比べて易化。 |
3.大問構成
大問 |
出題分野・大問名 |
配点 |
難易 |
備考(使用素材・テーマなど) |
第1問 |
安全の保障と民主主義 |
24点 |
やや難 |
政治(9設問) |
第2問 |
国際貿易と為替相場 |
14点 |
やや難 |
国際経済(5設問) |
第3問 |
世界遺産・宗教・科学技術 |
12点 |
やや易 |
諸課題(4設問) |
第4問 |
国際連合とその課題 |
22点 |
やや難 |
国際政治、地球環境問題(8設問) |
第5問 |
青年期 |
14点 |
易 |
青年期、課題追究(5設問) |
第6問 |
政府の役割と国民の生活 |
14点 |
標準 |
経済(5設問) ※会話文 |
4.大問別分析
第1問「安全の保障と民主主義」
- 現代における「安全」の問題を切り口に、人権、安全保障、日本国憲法、地方自治、選挙制度など、政治分野から幅広く出題された。
- 問2は、犯罪に対処するための日本の法制度について問われた。正答選択肢では、インターネット上のIDやパスワードの無断売買などの行為が、法律上禁止されていることを判断する。「利用権者…に無断で」という箇所から不正アクセスをイメージできるが、ID売買自体が何の法律に触れるのかを考えてしまうと難しくなる。通信傍受法、少年法、DV防止法などの他の選択肢を判断し、消去法的に判断した受験生もいただろう。
- 問5は、国家や政府の在り方に関する思想についての問題。誤答選択肢は、ベンサムの文章はロールズの主張、マルクスの文章はアダム=スミスの主張になっており、またモンテスキューはアメリカを規範としていない点が誤り。正答のホッブズが基本的事項なので、解答自体は難しくない。
- 問6は、人権侵害について「日本国憲法が国家権力に対して例外無しに禁止する事例」を選ぶ問題。題意の把握にやや手間取るかもしれないが、題意に合致する内容として、思想及び良心の自由を侵す事例を選べばよい。
- 問8は、「法の支配に基づく人権保障を貫徹するため、アメリカ合衆国の影響を受けて日本国憲法が採用した制度」の条文を選ぶ問題。問6と同様に題意を正確に読み取る必要があり、正答選択肢が違憲立法審査権についての条文であることを判断して解答する。
第2問「国際貿易と為替相場」
- 国際貿易と日本との関わりを中心として出題された。
- 問3では、円高・円安の影響について、経済理論に沿って思考する力が問われた。受験生が比較的苦手としがちな事項であるが、昨年も類似の観点から「円高の方向に働く要因」が問われており、過去問対策を確実に行っていた受験生は解答できたであろう。
- 問4では、第二次世界大戦後の日本の貿易構造に関して、戦後と現在の状態を比較する観点から幅広く問われた。輸入は原燃料や食料品が中心で製品輸入率は現在でも低い、という誤文を指摘する問題。正文選択肢の判断では、日本の最大の輸入相手国がアメリカから中国にかわっているという時事的な知識も要求された。
第3問「世界遺産・宗教・科学技術」
- 世界遺産を切り口とした、宗教や科学技術など「現代社会」らしい分野からの出題。
- 問1は、リード文中の空欄補充を行う、世界遺産名の組合せ問題。富士山がまだ世界遺産になっていないことや、原爆ドームが「負の遺産」とされていることは判断してほしいが、姫路城と熊本城との選択ではやや戸惑うか。
- 問3は、さまざまな宗教について掘り下げた出題。日本における仏教、神道、儒教、キリスト教に関する歴史的知識が問われており、「現代社会」の学習では対策が及びにくいが、「日本史」を学習している受験生にとっては判断しやすい問題であった。
第4問「国際連合とその課題」
- 国際連合の組織や活動について、時事的な観点を含めて幅広い理解を求める出題。
- 問2では、テロへの対応について問われた。正答選択肢である来日外国人の指紋採取・写真撮影義務づけ(改正出入国管理法)は昨年11月の施行で、時事的な問題。日頃から新聞記事やテレビニュースに注意し社会情勢に気を配っていた受験生は解答できるが、一般的な受験勉強のみに時間を割いていた受験生にとっては難問。
- 問3では、国連分担金について問われた。正答選択肢は、経済社会理事会が分担金の割当てに関係なく一国一票制であるという文章だが、通常、経済社会理事会の議決方法までは学習が及ばない。国連総会の議決方法から類推的に判断する必要があった。誤答選択肢については、分担金の多くを拠出しているのがアメリカと日本であることは判断したいが、全選択肢を消去法的に吟味することは難しい。
- 問8では、「持続可能な開発」について問われた。頻出語句であるが、正答選択肢は、「持続可能な開発」が環境と開発に関する世界委員会の報告書に明記されて知られるようになったかどうかを問うており、積極的に判断するのは難しい。全選択肢を吟味し、国連人間環境会議との時代順、「もったいない」(MOTTAINAI)を広めた人物、グリーンコンシューマリズムの意味について、それぞれ誤りを判断できれば解答可能。
第5問「青年期」
- 青年期について、基本的な知識や、文章の読解力・理解力を求める出題。全大問中で最も易しかった。
- 問3では、尾崎豊に関するリード文から、対抗文化の意味が問われた。用語の意味を知らなくても、選択肢の文意から考えて解答可能。昨年は1960年代の若者文化が問われており、現代の若者文化から2年連続の出題。
- 問4は、失業に関する統計資料の読み取り問題。「ミスマッチ」の問題を指摘する選択肢が正答である点は時事的ともいえるが、単純な読み取りであり、易問。
- 問5は、現行課程に入って3年連続となる課題追究(調べ学習)に関する出題。昨年同様、レポート作成の方法が問われた。選択肢の文意から考えて、常識的に解答可能。
第6問「政府の役割と国民の生活」
- 政府の経済的な役割を切り口に、市場、財政、金融、社会保障などについて問われた。
- 問2は、「セーフティネット(安全網)」としての制度や仕組みに合致する事例を選ばせる問題。用語の意味を知らなくても、リード文下線部を落ち着いて読み取り、各選択肢とつきあわせれば解答可能。
- 問5は、「モラルハザード」と同様の論理構造でない事例を選ばせる問題。問2と同様にリード文下線部の説明を読み取ることが必要で、論理的に思考する力が求められた。
5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度 |
2007 |
2006 |
2005 |
2004 |
2003 |
平均点 | 50.31 |
57.91 |
70.22 |
57.27 |
59.53 |
6.2009年度センター試験攻略のポイント
- 日頃から新聞記事やテレビニュースを確認しておくこと。社会で何が起こっているのかを主体的にとらえ考える習慣をつけておくことが重要である。
- 苦手分野を残さず、具体的な意味・内容に踏み込んで学習しておくこと。ここ2年続いている、国際経済分野で経済理論の理解を問う出題などは、単語名のみを暗記する学習では対応できない。仕組み・原理までおさえておくこと。
- 設問文を落ち着いて読み、問われている内容を確実に理解すること。選択肢の文章自体に矛盾や誤りがあるのではなく、設問文の題意に合致するかどうかを問う出題も一部に見られるので、類題の演習を行っておくこと。
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