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2008年02月24日(日曜日)付

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租税特別措置―「税の埋蔵金」を掘り出せ

 「おまけ」も度を超せば、「えこひいき」になってしまう。税制に例外を設ける租税特別措置には、そんな思いを禁じ得ない。その見直しに民主党が本腰を入れるという。聖域なく切り込んでもらいたい。

 略して「租特」と呼ばれる租税特別措置は、産業の振興や勤労者の資産形成など、特定の政策を後押しするために設けられる。期間を区切るのが普通だ。

 ある条件を満たせば、法人税や所得税が本来より安くなる。住宅ローン控除や生命保険の保険料控除など、私たちの暮らしの近くにもある。

 道路特定財源を生み出すガソリン税の暫定税率のように税金を上乗せするものもあるが、大半は減税するタイプだ。

 この減税タイプを合計すると、税の減収は07年度の国税で3兆4000億円近くにのぼる。税収の6%以上である。

 政府の財政は600兆円を上回る債務残高を抱え、社会保障や教育など、生活に直結する予算まで切り込まれるようになっている。苦しいなかで税金を軽減するのだから、その必要性や効用を厳しくチェックしなければならない。

 とくに、法人向けの租特による税の減収は合計で1兆1000億円を超える。財務省によると、約60件の法人向け租特のうち、20年以上も続いているものが半数以上の33件もある。

 なかには、敗戦後の船舶と船員の不足から脱出するため1951年に導入された「船舶の特別償却」など、目的や対象を少しずつ変えながら半世紀以上も温存されているものもある。政策的な狙いで設けた特例が、いつの間にか特定業界の既得権になり、使命を終えても廃止できなくなることを示している。

 租特は税による補助金である。ただ、予算は財務省が査定して組まれるが、租特は役所が自民党の税制調査会へ要望を出し、そこで決める。与党が取り仕切る政治的なものであるだけに、政官業の癒着を生みやすい。

 こうした租特に対して民主党は、適用実績や政策評価を国会へ毎年報告するよう政府に義務づける「租特透明化法案」を近く国会へ提出する。08年度中に実態を明らかにしたうえで、それぞれについて廃止や継続を示す方針だ。

 参院第1党の力を生かして無駄な租特を探し出し、「税の埋蔵金」を掘り起こすよう期待したい。

 税を公正、透明に運営するのは政治の根幹だ。この際、与党も民主党と足並みをそろえて見直しに乗り出すべきだ。

 既得権に切り込まれる経済界は戦々恐々だろう。しかし、法人税率の引き下げや消費税率の引き上げを主張するのなら、まず、自ら租特に切り込むぐらいの主体性を持つべきだ。

 とりわけ経済財政諮問会議の民間議員も兼ねる御手洗冨士夫・日本経団連会長には、率先して租特見直しを提案するリーダーシップを見せてもらいたい。

ミャンマー―民主化の空約束は通じぬ

 ミャンマー(ビルマ)の軍事政権が、新憲法を制定したうえで2010年に総選挙を行うと発表した。普通なら「民主化への道」と歓迎したいところだ。だが、その内容や手順にはあまりに問題が多い。

 発表によると、新憲法案をつくって5月に国民投票を行い、承認を受けたうえで2年後に複数政党による総選挙を実施するという。

 「民政に移管する」と宣言してから、実に15年になる。やっと軍政が具体的な日程を明らかにした。昨年、僧侶たちのデモに対する流血の弾圧で国際社会から激しい批判を浴びた。その強い圧力をかわそうという狙いがあるのだろう。

 だが、どんな民政移管計画であれ、軍政当局には言わねばならないことがある。野党指導者のアウン・サン・スー・チーさんらの自宅軟禁が解かれず、彼女が率いる国民民主連盟(NLD)などの活動が認められない形で進むなら、なんの評価にも値しないということだ。

 前回、90年の総選挙には野党も参加が認められたが、軍政側はその前年からスー・チーさんらを自宅に軟禁していた。それでもNLDが圧勝すると、選挙自体が無効にされてしまった。

 10年に実施するという総選挙がどんな形になるかは分からないが、ニャン・ウィン外相は早くも、夫が外国人であるスー・チーさんには「立候補する資格を認めない」と明言した。

 今回の新憲法案にしても、国民会議はNLDや少数民族の代表を排除したまま起草を進めた。その結果、議会の議席の4分の1は軍人が占め、大統領は「軍事の見識」が必要と規定されるなど、軍の権力を温存しようという狙いが露骨なものになっている。

 軍政当局はまず、5月の国民投票に向けてスー・チーさんらをすみやかに解放し、野党勢力が自由に運動できる環境を整えるべきだ。それなしでは、軍当局が人々を動員して投票させる「翼賛選挙」と言われても仕方あるまい。民主化への手続きと認めることは到底できない。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議では、民政移管のプロセスへの疑念の声があがった。日本を含め、国際社会や国連はもっと関与を強めていく必要がある。

 野党勢力との対話を進めない限り、ミャンマーの安定はない。経済発展のための国際支援の道も閉ざされる。日本政府は高官を派遣するなどして接触を続け、そのことを粘り強く説得すべきだ。

 また昨年、デモの取材中に射殺されたジャーナリスト長井健司さんの事件の真相をうやむやにしないための努力も続けてもらいたい。

 最近、ミャンマー人口の3割を占める少数民族の代表が来日し、国民投票などでの国際監視団の派遣を日本の国会議員に求めた。この要請にはなんとしても応えるべきだ。

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