社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:覚せい剤 少年にも広がる汚染の一掃を

 覚せい剤の乱用禍が不気味な広がりを見せている。全国の警察は昨年中に約340キロの覚せい剤を押収したが、何と一昨年の2・6倍に当たる。乱用や不法所持による検挙者も増え、1万2000人を超えた。戦後第2のピークとされる84年当時より統計上は沈静化したが、実態は深刻だ。

 密輸入量は、依然として減っていない模様だ。警察庁などによると、摘発のかいあって最大の仕出し国だった北朝鮮からの密輸は激減したが、代わりにカナダが密輸出国として幅を利かせ出している。小分けして航空機で運び込むらしく、水際での監視網をかいくぐられているのが実情だ。

 乱用者のすそ野は広がっている。モラル低下の風潮とあいまって、最近は会社員や主婦らが興味本位で手を出しているケースも目立つ。昨年8月には、大手企業のトップが覚せい剤などの不法所持で警視庁に逮捕される事件を起こしている。国連薬物犯罪事務所が、日本には60万人の常用者と100万人から300万人の一時的使用者がいる、と警告しているほどだ。

 驚くべきことに、汚染は中高生にまで及んでいる。関係者によると、首都圏の少年鑑別所や少年院では、収容者の半数前後に覚せい剤乱用の形跡が認められることが珍しくないという。補導の容疑は暴行、恐喝などのため統計に表れないが、収容後の調査で乱用が判明する。校内で密売し、売り上げた百数十万円を預金していた中学生もいた。

 覚せい剤への社会の関心は一時より薄れているが、汚染の現実を直視し、撲滅の機運を高めねばならない。火にあぶっての吸引やジュースなどに混ぜて飲む摂取法が流行し、注射器で体を傷つけない分、発覚しにくくなり、罪悪感も薄れているとの分析結果もある。中高生らには折に触れ、覚せい剤の恐ろしさを教える必要がありそうだ。

 警察などが摘発を強化すべきは言うまでもない。だが、即決裁判制度の導入によって、支障が生じていることも見逃せない。初犯の乱用者らの取り調べ期間が短縮されたため、直接の容疑の裏付けに追われて、密売人の割り出しなどが後手に回り出しているからだ。裁判のスピード化は重要だが、密売組織を解明して壊滅に追い込む捜査も欠かせない。新たな捜査手法を開発する一方で、即決裁判の運用方法を再検討すべきではないか。

 警察の組織改編で、覚せい剤などの薬物犯罪が暴力団事件を扱う組織犯罪対策部の担当になったことも、懸念材料の一つだ。個別事件の捜査は充実されても、防犯に力点を置いた戦略的な捜査が手薄になったと指摘されているからだ。捜査当局は薬物禍は人類を滅ぼす、との危機感を新たに態勢を強化し、覚せい剤犯罪の撲滅を目指してほしい。

毎日新聞 2008年2月24日 0時05分

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報