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第一次世界大戦への道

―― ハプスブルグ帝国の滅亡 ――


第4話 "ボスニア危機(前編)"

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   . . .... ..: : :: :: ::: :::::: :::::::::::: : :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
        Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
       /:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
      / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
      / :::/;;:   ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄ ̄ ̄ ̄
       ↑オーストリア

「ロシア帝国と完全に仲違いしちゃった…」







 とりあえず前回までの流れを、プラスαも交えて話します。



1877年、露土戦争




     「・・・・・・・・・」   「ありがとうロシア帝国、ぼくのために戦ってくれたんだね。」

      , ─── 、      _____
   ゝ/______\  / −、 −、   `\
   /  | /  ─ 、 ─ 、! //|/^|^\|- 、    ヽ
    |  |_|     |    |/   `-●−ヽヽ \   ヽ
    |  |  |.   ^ |^   |  二 |  二 ∪   ヽ  i
   V^`  `ー− っー |(._─ |  ─  __ |   |
   ヽ_   ヽ───⊃ノ ヽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  / !   !
     ヽ   ヽ、_//、  \        / /  / 
       >───イ   \  ヽ_⌒⌒ヽ/ /  /
      / \/ \/ |⌒ヽ-i ━━6━━━━━i
      |  ───┴┬/⌒ヽ ̄ ̄ ̄ ̄      i
      |  _____|_ヽ_ノ────┐     |

      ロシア帝国      自治領セルビア




:::::::::::::::::::::::::::::    ,.-ヽ
::::::::::::::::::::::   ____,;' ,;- i                         へ、     /;へ\
::::::::::::::::::   ,;;'"  i i ・i;                       // _l::|___l::|_ヽ:ヽ
:::::::::::::::  ,;'":;;,,,,,, ;!, `'''i;          / ̄ ̄ ̄ ̄\,,     |l/−、 −、:::::::::::::::`::|
:::::::::::  ,/'"   '''',,,,''''--i        /       __ヽ    /::::::|  ・|・  | 、::::::::::::::\
:::::::::  ;/  .,,,,,,,,,,,,,,,,,   ;i'⌒i;       |       |   |、   /::/ `-●−′ \:::::::::::ヽ
:::::::  i;"     ___,,,,,,,  `i".       |       ∩─| |  ,|/ ── |  ──   ヽ:::::::::|
::::::: i;    ,,;'""" `';,,,  "`i;      |      ∪  `l   |. ── |  ──   .|::::::::|
::::::: |  ''''''i ,,,,,,,,,,  `'--''''"       ヽ __/  _.ノ    | ── |  ──     |:::::_l__
::::::: |.    i'"   ";               |――― 、".      ヽ (__|____  /::::| 新 |
::::::: |;    `-、.,;''"             /  ̄ ̄ ̄ ̄^ヽ∞=、  \           /:::,/| 品 |
::::::::  i;     `'-----j          | |      |  |っ:::::)  l━━(t)━━━━┥ |___|

   自治領セルビア             ロシア帝国      自治領ブルガリア




しかしロシアは、サン・ステファノ条約においてセルビアの領土拡大よりも、ブルガリアの領土拡大を優先。

セルビアは言わばロシアに見捨てられた形になった。




      ____
    /      ̄ \
    /          ヽ
  /              |
  i              |   「…わ、我がセルビアは誰を頼って生きていけばいいんだ…」
  |     , -===- 、i
   |   /         ヽ
   ヽ /          | |
     |_|           |_|
     (.__.)        |_)
      │     -● |
      |     |   |
     ⊂二二⊃⊂二⊃    




セルビアの支配を狙っていたオーストリアは、この機を逃さずセルビアの取り込みを図る。


      ______       ________________________
     r' ,v^v^v^v^v^il    /                                    ヽ
     l / jニニコ iニニ!.   / ロシアに捨てられて気の毒なセルビア、僕が助けてあげるよ  l
    i~^'  fエ:エi  fエエ)Fi  !                                        l
    ヽr      >   V  !  その代わりと言ってはなんだけど…                l
     l   !ー―‐r  l <.                                         l
 __,.r-‐人   `ー―'  ノ_ ヽ  ボスニア・ヘルツェゴヴィナを僕がもらうことは了承してくれ  /
ノ   ! !  ゙ー‐-- ̄--‐'"ハ ~^i \________________________ノ
 ヽ ! ヽ、_     _.ノ  i  \
ヾV /              ! /.入
   きれいなオーストリア





さて、その頃のヨーロッパでは…



【 1878年、ベルリン会議 】

──-  、
       \
______ヽ   「ロシアはバルカンから手を引け。」
.  //⌒ ヽ|
 / /      |             「地中海に出てくるな。」               
  |      |       ___                        「ぼくも。」
__|    ((|     / www ヽヽ         「ロシア空気よめ。」          
## l      l      l 3 3   |_|                              
#  \ ____ノつ__   / (二)    )           /⌒´ ̄ ̄\    , ──- 、 
/⌒\      ノ i         l          ( -( ( - 、ヽ ヽ  /_____ ヽ 
      ̄ ̄ ̄   l  (_      /l ______  l | v|  |v | |_ |   | (/) (ヽ) |__
 ̄ ̄ )         ヽ、( ___//.> _____  | | ー、  ー    ) /  O     ) 
ヽ、/    \)    //ヽ__/ / ̄|⌒ヽ⌒ヽ | | ヽ 、_  /ヽ l     (    ノ   
   ̄ ̄ノ       / /       |.  | v|v  ノ |_ | (,ノ` ┬ イ ヽ.,ノ  ヽ、__⌒ヽ__ /、.   
 ̄ ̄ ̄   ヽ)   i l        | /ーo ー ´   )   /´ ̄ ̄/ヽ    ///|_|\/ ヽ  
\.          | |         |  ̄`>  ./lヽ  | |   l  l  / /        l   i 
T             | |          |   | ̄「/ヽ/ |  | j   |  |   l-l.       |-─|.

↑ロシア        ↑オーストリア  ↑イギリス   ↑ドイツ    ↑フランス




→ ベルリン体制の成立




↑ベルリン体制下のバルカン半島






さて、そのころのセルビア王国は…






      ______       ___________________
     r' ,v^v^v^v^v^il    /                             ヽ
     l / jニニコ iニニ!.   /                                l
    i~^'  fエ:エi  fエエ)Fi  !  セルビア王国は、我がオーストリアが庇護しよう。 l
    ヽr      >   V  !                                 l
     l   !ー―‐r  l <.   そのかわり、君には属国になってもらうよ。     l
 __,.r-‐人   `ー―'  ノ_ ヽ                               /
ノ   ! !  ゙ー‐-- ̄--‐'"ハ ~^i \___________________ノ
 ヽ ! ヽ、_     _.ノ  i  \
ヾV /              ! /.入
   きれいなオーストリア




国防と経済において、オーストリアの庇護なくしては立ち行かない状態だった。







                     /二二二ヽ
      「そうだ そうだ。」   |∧,,∧  | |   「セルビア国王は無能かつ横暴だ!」
    __              | ・ ・   |_| 
  /   /  ̄ ̄ \      ⊂二    __)   「なぜオーストリアなんかと仲良くするんだ!」
 ⊂二>_ヽ__(_ ̄_ ヽ i / ̄ ̄└─┐ ノ|\l>
  | ・) ・) | |) | |) | | ⊂二二>-┬// |∠lヽ  「ボスニア・ヘルツェゴヴィナを奪われた恨みを忘れるな!」
  (  ^  | 丶   _) | (・ )( ・ ) |_ ̄/▽▽^゙\
   ` -─  ヽ._⌒ ィ−' | ⊂⊃   _)| |    |\ヽ
   /     / || ̄||^ヽ ヽ、(「「「「).ノ | |    |//
   | |    | || ⊂ ̄) ̄/ ̄ ̄  ヽ| |   (_)′


セルビアの国民は基本的に親ロシア ( 同じスラヴ民族、同じ正教 )、

反ハプスブルグ帝国 ( オーストリアは非スラブ民族でカトリック中心 ) の傾向がある。



加えてセルビア政府のスキャンダルや失政も続き、厳しい政局運営を強いられた。













     \ 臨時ニュースです /

     | ________ |
     | |           | |
     | |. セルビア国王  | |
     | | 軍部過激派に | |
     | | 暗殺される  .. | |
     | |             | | 
     |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | 
    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    |.                 |
    |__________|





    ___,,,,,__
  〃/ / /  \ ヽ   「つぎのセルビアの国王さまは、どんな人がなるんじゃろ?」
  ≪|__|  ( ・ ∠ |
   (d u  ⊂⊃ |)   _,,,,,___
   __|  : : : : : : ヽ.,,∠,,,--(__)-ヽ、
  ,,-\ヽ└<>-'丿=| // - 、-ヽi  「混乱続きだったから、普通レベルならそれでいいや。」
 /   \ ̄ ̄/ ̄.i.. |__| |   ・|・ ||
 |/(⌒ヽ/⌒)____|.. (d  ` - o-´ !
  ゙|\, ̄ ./ ̄ .ノ   ヽ、   3 ノ , つ
  .|   ̄   ̄ |     /゙\ ̄/ヽ /⊃)





      ____
    /       \/ 、\
    /   ,  -|   ・|・  |- ヽ   「私が新たに即位した以上、セルビアは強くなるのだ!」
  / /    `− ●- ′  | 
  | |    二二  | 二二. |   「セルビア王国はオーストリアの属国ではない!」
  | | |\ -─  | ─___) 
 _ ! | !   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / /_   「これからは親ロシア・親フランスだ!」
( __)\ヽ \(二二二)//(__)
 \   ━━━━6━━  /
   |   /___ヽ |/   ←新たに即位した、セルビア国王ペータル1世
   |   | ヽ__ノ ノ |





        _____
      / , へへヘ∧ヽ
     |  |     \l l/ |    「俺様の属国ではない、だと?」
      /⌒    ( . ∠ l
    ヽ_       (二) ヽ   「セルビアの経済は、我がオーストリア帝国に牛耳られたも同じなんだぜ?」
     l   ______つ !
      >、 \|_|_|_/ /    「セルビア王国のような小国ごときに、なにができるんだw」
    / l ヽ、 ____ /、
   /   ` ー──‐─ ´   \
  / |   __(^|      /⌒ ヽ
 /ヽ| (二   ヽ    /    | ←オーストリア
       l     \ /\   /
      `ー 、       ヽ /




オーストリア帝国とセルビア王国は、経済協定でお互いに最恵国待遇を結んでいた。


しかし"列強"であるオーストリア帝国と、産業革命も迎えていない小国のセルビア王国では経済の基盤が違う。

そのため当時のセルビアは、「食料をオーストリアに輸出し、オーストリアから製品を買う」という、典型的な経済の従属パターンであった。








      ____
    /       \/ 、\
    /   ,  -|   ・|・  |- ヽ   「輸出先をオーストリアに依存していては、オーストリアの言いなりだ!」
  / /    `− ●- ′  | 
  | |    二二  | 二二. |   「それに、このままでは我がセルビアの工業技術も成長しない」
  | | |\ -─  | ─___) 
 _ ! | !   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / /_   「ブルガリアと仲直りして、関税協定を結ぶんだ!」
( __)\ヽ \(二二二)//(__)
 \   ━━━━6━━  /
   |   /___ヽ |/
   |   | ヽ__ノ ノ |






     /⌒ヽ   / ⌒ ヽ
    /  , ─`ー'─− 、i  
    l/   , ────\   
    /   / ⌒   ⌒ ヽ  ←ブルガリア公国
   /  /   、=@ 、=@ヽ
    l  /    /⌒ヽ  ⌒ヽ  !   なになに、「過去には戦争もしたけど、仲良くしようね。」
    l  |     |  (|   |) |  |
    ヽ  l     `ー/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄7  「関税同盟と、あと軍事同盟も結んでくれると嬉しいな。byセルビア王国」
    ヽ ヽ     /         /
     〉━━/⌒ヽ      /^ヽ   …まぁ私も仲間は欲しいし、受けよう。
    /  _ヽ__ノ      ヽ_ノ
  _  l     「 |______l
 r'o7┤    ヽ、__ノ/
  `  ヽ____┌__ |
     (____)__ )





しかしバルカン半島の諸国が結束することを恐れるオーストリア帝国は、ただちに反応した。



           ( ⌒ ⌒ )
          (     )
          (、 ,   ,)
            || |‘

        / ̄ ̄ ̄ ̄\
        l ∨∨∨∨∨ l
        |   \()/   | 
        (| ((・) (<) |)     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        |    ⊂⊃   |    /  生意気だぞ、セルビアのくせに!
       | .| ⌒ \.l/ ⌒ | |  <   
     / |. l + + + + ノ |\  \  ブルガリアとの関税交渉をただちに中止しろ!
    /   \_____/  \  \___________
  /   _              \
 // ̄ ̄(_)               |
 |ししl_l  (            |    |
 |(_⊂、__)  オーストリア   |    |
 \____/              |    |



オーストリア外相 ゴルコウスキは、セルビアとブルガリアとの交渉を「非常に不愉快なもの」と言い、中止を要求。






      ______
    /    −w−、\
    /    , -|  ・|・  |-ヽ
  /   /  `ー ●ー′ i   オーストリア帝国が、大事な商売のお得意様である事に変わりはない。
  |  / U 三  |__  三 |
  l  |        __)   !   不本意だが、ブルガリアとの関税交渉は中止するか…。
  ヽ  !       __)    /
   ヽ ヽ   __     ./    そうすればオーストリア帝国も、機嫌を直してくれるだろう。
    l━━(__ )━O━く
     |   /___ヽ\



セルビア王国は、オーストリア帝国に対し妥協の姿勢を示した。



しかし、セルビア王国が軍需品の発注を、オーストリア帝国の会社からフランスの会社に変更したことで、両国の関係は一気に悪化した。




                       , ─ 、
                        (_(_(_, ヽ  「ナニが妥協します、だ!
                   , ─── 、  (⊃_ ノヽ 
  ┃ ┃┃          /WWW \ \   l     l   俺様にケンカを売っているのか!」
  ┣━     | |    l \ll/    ヽ/^ヽノ    |
  ┃       | |    (| (。) ∠      ノ      !
      ┃┃ | |   / (二) / ⌒ヽ  | |    /
   ━╋┓    /|  l _    /\ \|  l l    く
\\ ┃┃ |\/ |/| (__/ \ ヽ ノ //    \
  \\   _|   _└  ヽー`ー`─ ´ /´
 ☆    \   (ヽ  \  |  ̄ ̄ ̄   / ⌒ヽ
  /⌒ヽ ∠   \\/ヽ l      ̄ ̄|   二|
/   /\  |/ヽ/\ ヽ_ノ ヽ、_    ヽ_,_ノ
l_/\/\  /\/  ̄    \  ̄ ̄ ̄





        _____
      / , へへヘ∧ヽ
     |  |     \l l/ |    「セルビア王国は、すべての軍需物資の発注を
      /⌒    ( . ∠ l
    ヽ_       (二) ヽ    我がオーストリア帝国の会社にしろ、いいな?」
     l   ______つ !
      >、 \|_|_|_/ /
    / l ヽ、 ____ /、
   /   ` ー──‐─ ´   \
  / |   __(^|      /⌒ ヽ
 /ヽ| (二   ヽ    /    |
       l     \ /\   /
      `ー 、       ヽ /




 //     / /
 /   ,  ───  、
   /     /⌒ヽ⌒ヽ\      /
  /    , -|/ ・|<ヽ|、ヽ     //
. /   /  `ー ●ー′ ヽ  //
 l   /     三.   |  三  | /      「そんな屈辱的な要求なんか飲めるか!」
 |  l  /⌒ヽ、__|__) l
  l  |  |        /  /
  ヽヽ ヽ、 ____ / /^ヽ
   〉━━,-、━━━━´ヽ_ノ
   / / ヽフ   \.  /



ここにいたり、交渉は決裂する。




           ( ⌒ ⌒ )
          (     )
          (、 ,   ,)
            || |‘

        / ̄ ̄ ̄ ̄\
        l ∨∨∨∨∨ l
        |   \()/   | 
        (| ((・) (<) |)     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        |    ⊂⊃   |    /  生意気だぞ、セルビアのくせに!
       | .| ⌒ \.l/ ⌒ | |  <   
     / |. l + + + + ノ |\  \  経済制裁で屈服させてやる!
    /   \_____/  \  \___________
  /   _              \
 // ̄ ̄(_)               |
 |ししl_l  (            |    |
 |(_⊂、__)  オーストリア   |    |
 \____/              |    |







::::::::::::::::::::::   ____,;' ,;- i
::::::::::::::::::   ,;;'"  i i ・i;
:::::::::::::::  ,;'":;;,,,,,, ;!, `'''i;
:::::::::::  ,/'"   '''',,,,''''--i
:::::::::  ;/  .,,,,,,,,,,,,,,,,,   ;i'"`i;        ./≡≡≡≡≡≡≡≡≡|
:::::::  i;"     ___,,,,,,,  `i"        |┌─────┐ J |||
::::::: i;    ,,;'""" `';,,,  "`i        .| |オーストリア、| ◎ |||
::::::: |  ''''''i ,,,,,,,,,,  `'--''''"        | |セルビア産の|    |||
::::::: |.    i'"   ";|             | |豚を輸入停止||||||| |||
::::::: |;    `-、.,;''" |            .|└─────┘||||||| ||
::::::::  i;     `'-----j            | | ̄|| ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄||




オーストリア帝国は、獣医学上の問題を口実にセルビアからの豚の輸入を停止

セルビアの輸出の9割はオーストリア向けであり、全輸出品の8割は豚である。

つまり単純計算で、セルビアの輸出産業は市場の7割近くを失ったことになる。



                       _,.>
                   r "
      マジで!?       \    _
                    r-''ニl::::/,ニ二 ーー-- __
                 .,/: :// o l !/ /o l.}: : : : : : :`:ヽ 、
                  /:,.-ーl { ゙-"ノノl l. ゙ ‐゙ノノ,,,_: : : : : : : : : :ヽ、
              ゝ、,,ヽ /;;;;;;;;;;リ゙‐'ー=" _゛ =、: : : : : : : :ヽ、
              /  _________`゙ `'-- ヾ_____--⌒     `-: : : : : : : :
...-''"│    ∧  .ヽ.  ________   /   ____ ---‐‐‐ーー    \: : : : :
    !   /   .ヽ  ゙,ゝ、      /  ________rー''" ̄''ー、    `、: : :
    .l./     V   `'''ー-、__/__r-‐''"゛     ̄ ̄   \   ゙l: : :
                   l     .,.. -、、 _ ‐''''''''-、    l   !: :
                  |   /    .| .!     `'、  |   l: :
                      l   |     .l,,ノ     |  !   !: :
                       / '゙‐'''''ヽ、 .,,,.. -''''''''^^'''-、/  l   !: :
             r―- ..__l___    `´            l   /   /: :
                \      `゙^''''''―- ..______/_/   /: : :





いわゆる1906年の"豚戦争"である。



この経済制裁は、単純に外交だけの問題ではない。

オーストリア帝国内では、ハンガリーの農民から「セルビア王国からの農作物が、自国の農業を苦しめている」と突き上げられていたのである。






                     /二二二ヽ
      「そうだ そうだ。」   |∧,,∧  | |   「今回の輸入停止は、すばらしいことだ!」
    __              | ・ ・   |_| 
  /   /  ̄ ̄ \      ⊂二    __)   「このままセルビア産の農産物を、国内から締め出してしまえ!」
 ⊂二>_ヽ__(_ ̄_ ヽ i / ̄ ̄└─┐ ノ|\l>
  | ・) ・) | |) | |) | | ⊂二二>-┬// |∠lヽ  
  (  ^  | 丶   _) | (・ )( ・ ) |_ ̄/▽▽^゙\
   ` -─  ヽ._⌒ ィ−' | ⊂⊃   _)| |    |\ヽ    ← ハンガリー農民
   /     / || ̄||^ヽ ヽ、(「「「「).ノ | |    |//
   | |    | || ⊂ ̄) ̄/ ̄ ̄  ヽ| |   (_)′







そしてこの禁輸措置は、セルビア王国に深刻な経済危機をもたらすかに見えた。



      ____
    /      ̄ \
    /          ヽ
  /              |
  i              |   「こ、このままではセルビアの経済は窒息だ…」
  |     , -===- 、i
   |   /         ヽ
   ヽ /          | |
     |_|           |_|
     (.__.)        |_)
      │     -● |
      |     |   |
     ⊂二二⊃⊂二⊃    





しかし…



    ↓フランス
      __, - 、        
.    /, ─── 、)               
   //  /    ヽi      「セルビア産の豚肉なら、私が買おうじゃないか。」   
   |_|    ┃ ┃ |      
   (     ⊂⊃ ヽ     「お礼? 君は武器輸出のご新規さんだから、お互い様だよ。」
   >、   \__ノ ノ  .nm   
  /  \─── ´ヽ、 /)- |
 /    \--/ |  ̄|_丿
 |      /   |  ||  



追い詰められたセルビア王国は、新規の輸出先としてフランス市場の獲得に成功する。

セルビアには海港がないため、オスマン・トルコ帝国と交渉し、マケドニア→テッサロニキ経由の輸出ルートを確保した。






くわえて空気を読まない同盟国。



         ___
      /⌒      `\
      (  (  ( (\   ヽ
      l`ヘ   `ヘヽヽ   l     「あ、私もセルビア産の豚肉を買いたいわ。」
      | |) |  |) l  |   ! 
        / ー、   ー ′ ⌒Y、  _   「オーストリアが買ってくれないなら、私に売ってちょうだいよ。」
        l  ー─┐    _ノ ヽ | |
     / \ \_ノ  / \(ヽ (、ヽ  「前からバルカンには経済進出したかったのよね〜。」
     l _ノ ` ー┬ ´ノヽ、   ヽ _ソ
          /  ̄  /⌒\/  /
          / |     ヽ     /
           ↑ ドイツ


※ドイツ帝国とオーストリア帝国は、独墺同盟を結んだ同盟国です。






セルビア王国はオーストリア帝国にかわる新たな市場を得て、豚戦争はオーストリアの敗北


オーストリア帝国がセルビア王国につかえる外交カードは、もはや軍事力の行使だけになってしまった。




ウ    //∨∨∨∨∨ヽ
     |. |    ∪∪  |    「そ、そんな馬鹿な!」
 ウ   |__|    (@ (@ |、
    (d  へ   ⊂⊃  'ヘ
 ウ   | i⌒\ /__!_\/^| |
  :   | | WW//WW\\| |       __
    __i\ヽ-//一⌒ー-\\  ⌒ )    /
  /  \ / / ̄ ̄ ̄ノ ̄ヽ\(    ) /
 /⌒ヽ   //  ̄ ̄ ̄  |  i (   ノ  ┌┴┐
 |   ( ` ⌒ )     |  |  ` ′     /
 |__| (   )      |_|           ツ
 |   |  ` ′      |  |
       オーストリア







当時のフランスは、イギリスや日本、イタリアといった国と次々に友好関係を結び、

「ドイツ・オーストリア包囲網」の強化を図っていたのである。




     フランス
      __, - 、    「経済を制する者は、外交を制するんだよ。」
.    /, ─── 、)
   //  /    ヽi    「日本とロシア、そしてセルビアも、今や我がチーム・フランスの一員だよ。」
   |_|    ┃ ┃ |
   (     ⊂⊃ ヽ  
   >、   \__ノ ノ  .nm━・~~~
  /  \─── ´ヽ、 /)- |
 /    \--/ |  ̄|_丿
 |      /   |  ||
 !    /     ノ   |
 `iヽ__ノ━━━━ヽ、__ノ
  ヽ、     |^ヽ、__ノ
    ̄ ̄ ̄` - ′






またこの豚戦争は逆効果に終わっただけでなく、オーストリアに対する国際社会の反発を買った。





「オーストリアって横暴だよね」

「セルビアが可哀想だよね」  「ただでさえ火薬庫なバルカンで、何やってるのかしら」

「スラヴの同胞を困らせているんだよ!」            「そ、そんな…」
      ___                             ___
    /____ヽ     __                   /∨∨ヽ ヽ
    | | / −、 -、|    /     \  _____       |・   |__  |
    |__|─|  ' | ' |   |       | >____ |     ⊂⊃   6)、|
    (d  `− o- |  .|        |  ̄ |・ |・ |ヽ|__|      |   U    ヽ、
     ヽ、   3 ノ   (ヽ     /) _|-o−′ 6)      ヽ __ /   \
     / ▽▽ヽ   / |\∧/| \  >     /         /
     |     |   | .丿´|  |´\ )   ̄/▽▽ヽ          |







     フランス
      __, - 、    「『軍事力が外交を左右する、大義名分や正義など無意味だ』だって?」
.    /, ─── 、)
   //  /    ヽi    「分かってないねぇ、軍事力はあくまでも『外交のカードの1つ』なんだよ。」
   |_|    ┃ ┃ |
   (     ⊂⊃ ヽ           「経済力や道義・正当性も、同じく無視できないカードなのさ。」
   >、   \__ノ ノ  .nm━・~~~
  /  \─── ´ヽ、 /)- |
 /    \--/ |  ̄|_丿
 |      /   |  ||
 !    /     ノ   |
 `iヽ__ノ━━━━ヽ、__ノ
  ヽ、     |^ヽ、__ノ
    ̄ ̄ ̄` - ′









さて豚戦争を勝ち抜いたセルビア王国では…





                     /二二二ヽ
      「そうだ そうだ。」   |∧,,∧  | |   「オーストリア帝国は、我がセルビア農民の敵だ!」
    __              | ・ ・   |_| 
  /   /  ̄ ̄ \      ⊂二    __)   「領土を広げて自由に使える港を確保するんだ!」
 ⊂二>_ヽ__(_ ̄_ ヽ i / ̄ ̄└─┐ ノ|\l>
  | ・) ・) | |) | |) | | ⊂二二>-┬// |∠lヽ  「今こそロシアとバルカンの全スラヴ人が協力する時だ!」
  (  ^  | 丶   _) | (・ )( ・ ) |_ ̄/▽▽^゙\
   ` -─  ヽ._⌒ ィ−' | ⊂⊃   _)| |    |\ヽ
   /     / || ̄||^ヽ ヽ、(「「「「).ノ | |    |//
   | |    | || ⊂ ̄) ̄/ ̄ ̄  ヽ| |   (_)′



セルビア人の民族主義に油をそそぎ、また経済面でのオーストリアへの従属を改善させる結果に終わった。


そして…


経済制裁に苦しまされた結果、「自由に使える海港」として、

ボスニア・ヘルツェゴヴィナを求める声が強まったのである!










 「妥協せず強硬にでて失敗した好例」ですね、この豚戦争は。

最近はネットの影響か、「外交ではいかなる譲歩もしてはならなのは、歴史が証明している。」

…と主張する人が増えていますが…

その人たちって、どこの惑星の歴史を勉強したんでしょうか?
譲歩を拒否した結果、相手の態度が硬化した例なんて、歴史にはいくらでもあるんですが。

 またそうやって、敵を増やすような発言を…

 でもヒトラーは、宥和政策によって野心に火がついたって言うお。
この現代でも、北朝鮮の金体制は似たようなモノだお。

 譲歩すべきか、すべきでないか ――― それはケース・バイ・ケースですよ。

「ヒトラーの時に譲歩して失敗したから、どんな時だって外交は譲歩したら駄目。」

…という発想は、自分の価値観に都合のいい史実を選んで見る行為です。

 「人は見たいと思うものだけを見る。」ってやつですね。

 歴史を語る上でやってはいけない事 …… それは、

「ある史実をもって、それが普遍の真理かのように錯覚する」

…という行為でしょう。
まぁ私もそうならないよう、気をつけないといけませんが。



 さて…



 対セルビア外交が破綻しつつあるオーストリア帝国ですが、まだ余裕がありました。
最大の仮想敵国であるロシア帝国との外交は順調だったからです。

 あれ? バルカンに進出して地中海に出たいロシアは、オーストリア帝国とは水と油じゃないんだお?

 できもしない事にグダグダこだわっても仕方ないでしょう?
強行すればイギリスやフランスも敵に回しますし、ドイツもそこまできたら味方できませんので。

 …なるほど。

 でもそれで仲良くなれるものなんですか?

 双方の国益の一致、というものです。
19世紀の後半から20世紀の初頭にかけて、ロシア帝国はアフガニスタンや満州といった中央アジア〜東アジアでの領土拡張に力をいれていました。
そこに集中するためにも、西のバルカン半島でモメ事があったら困るのですよ。
バルカンで騒乱があれば、アジアにまわせるリソースが減りますからね。


 そしてバルカン半島に"平和を執行できる"のは、列強オーストリア帝国だけです。

つまりロシア帝国はオーストリア帝国を必要としていたのですよ。

 もちろんオーストリア帝国の方も、バルカン半島の安定……つまり現状維持を強く望んでいます。
そのためロシアとオーストリアは、バルカンの現状維持を協定で約束しています。




 しかし…20世紀のはじめ、どこの国も予想しなかったハプニングがおきました。



   ・
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   ・

 日露戦争…勝てませんでしたね…

 勝てなかったクマ…

 政府の権威は大きく失墜し、革命さわぎまで起こってしまうし…

 そもそもお前が「極東の島国に対して譲歩など屈辱です!」などと、知能指数の低い馬鹿ウヨクみたいなことを言うからいけないクマよっ!

 そんな、陛下だって、日本の公使が「両国が平和でありますように」と言ったとき、「あのバカは地図を見て両国の面積を比べるべきだw」と笑っていたではありませんか?!
そもそもは陛下が大して価値もない朝鮮半島にこだわるから!

 それはお前が「日本が朝鮮半島の支配だけで満足するわけがなく、よって朝鮮で譲歩しても無意味」などと、相手との対話を無視したことばかり言い立てるのが原因クマーっ!

 陛下だって私が日本と交渉している最中に、「満州の権益は多大な犠牲を払ってゲットしたんだから」と、まるで20世紀の極東の島国の国粋主義者みたいなことを言うからいけないんですよっ!

 お前だって、中央アジアで領土を広げた時のノリそのまんまでイケイケだったのを忘れたクマか?!
ちょっと勝ったぐらいで浮かれて、まるで20世紀の極東の島国の国粋主義者クマ!

 陛下だって、採算もあやしいシベリア鉄道の保護のために、ロシアの国力の限界を無視して東アジア情勢に深入りするという、まるで20世紀の極東の(以下、書いてて悲しくなってきたので省略)

 △■※+AA@∴――!!

 凹凸(▽)’’$$―――!!!




…以下、延々と不毛な責任のなすりあいが続く…




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 シベリア鉄道の第一の目標は、シベリア開発と東西交易であり、軍事目的は鉄道の拡張の過程でついてきた「オマケ」です。

 しかし日本はそうは受け取りませんでした。
鉄道が近代戦に果たす役割を考えれば、当然の脅威ではあります。


 そして一方、日本の朝鮮半島の支配は、ロシアの膨張に対する防壁とすることです。


 しかしロシアはそうは受け取らなかったのです。
当時は帝国主義の時代であり、拡張主義と自国の防衛がセットになっていた時代であることを考えると、無理もありませんが。
この相互不信からくる齟齬が、日露戦争の根本的な原因であると私は考えます。


 これがもし相手がイギリスであれば、ロシアも粘り強く交渉し、妥協したことでしょう。
しかしロシア皇帝の考えでは、日本は弱小である以上、妥協しなくても重大な事態にいたるわけもない。




 ・・・・・・・・・・・・



 すいません…日露戦争について持ち出したのは、別に日本とのかかわりを話すためではありません。
日露戦争の開戦経緯について語りだすと長くなるので、それはまた別の機会にでも。
ここで重要なのは、日露戦争がバルカン情勢に与えた影響です。




   ・
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   ・
   ・
   ・



 あー…領土を広げる余地が無くなってしまったクマね…

 もういちど、日本と戦争をするのはどうでしょうか?

 日本とは日露協商を結んで、仲直りしたクマよ。

これにて東アジアの国境線は確定したクマ。

 そんなの破っちゃえばいいじゃありませんか♪

 2つの理由で駄目クマよ。


 まず一つ目…同盟国のおフランスが、我がロシアと日本との戦争を望んでいないクマ。

 なんでおフランスが??
同盟国ならば、むしろ我がロシアを助けるのが筋だと思いませんか?

 そんなの知らないクマ、だけどフランスに借金をしている以上、フランスの意向は無視できないクマ。


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   ・
   ・

↓フランス
 アリスはいるですの?

 はい、お嬢様。

 日本とロシアとの関係はどうなったですの?

 日本への工作が成功して、日本はロシアとポーツマス条約を結んで講和…
そして日露協商を締結し、これで極東アジアの国境線は安定しました。
日本とロシアが戦争することは当分はないでしょう。

 よくやったですの。

 お嬢様…どうして日露戦争では同盟国ロシアの味方をせず、敵国の日本を助けて講和を斡旋したのですか?
我がフランスが日本の債務を低金利で肩代わりしてあげるですの☆」と約束したからこそ、日本はロシアとの講和で「賠償金は放棄」という選択肢を取ることができました。
こんな裏工作、ロシアが知ったらカンカンに怒ると思いますが。

 たとえロシアが勝っても、ボロボロになられては、ロシアに貸したゼニが利子つきで返ってこないですの。

 「ゼニ」ですか。

 「ゼニ」ですの。


 世の中ゼニですの、ゼニの威力を軽視する者は、ゼニの威力に泣くことになるですの。
日本とは三国干渉のせいで仲が悪かったけど、ゼニの威力で今やチーム・フランスの一員ですの。


 うふふふふふふふふ☆
ざまーみろですのドイツ野郎、日本とロシアを戦わせれば、ロシアの圧力はドイツに向かない、ですって?
そうは問屋がおろさないですの!!!!



 それともう一つ…


 ロシアが無謀にもアジア情勢に深入りして泥沼にはいると…我がフランスがドイツと戦争になった際に、

「今ちょっとアジア情勢で忙しいクマ、ごめんねクマー」

…と言われてしまうですの。
宿敵のドイツ野郎と張り合うには、ロシアにはヨーロッパ情勢に専念してほしいですの。

 要するに国益ですか、お嬢様。

 要するに国益ですの。



   ・
   ・
   ・
   ・
   ・


 …で、日本とコトを構えるべきではない2つ目の理由は何なんですか?

 日露戦争のせいで国力が疲弊しているクマ。
おまけに国内政治に対する不満も高まってきてるし…1905年のような革命騒ぎは困るクマ。






「ロシアには、30年の内外の平和が必要」

      ―――― byストルイピン内閣



 …というわけクマよ。
領土を広げる余地がなくなったのは、逆に国境紛争はカタがついたと前向きに考えるクマ。
しばらくは内政改革に専念するクマよ。

 え゛〜〜〜〜〜、激しくつまんな〜〜〜い!
読者だってきっと、平和で優等生なロシアなんて望んでいませんよ〜?

 ……部下の人選を間違えたクマ。

 ・・・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・・・・・


 ( ← ナニか思いついたらしい )


 陛下、私に名案があります☆

 国士サマ系の電波キャラと化しつつあるお前に名案が?
まぁ聞くだけは聞いてやるクマ。

 陛下…ロシアから輸出される穀物の6〜7割は、黒海からボスポラス海峡・ダーダネスル海峡を通っていますよね。

 それがどうかしたクマ?

 しかしボスポラス海峡・ダーダネスル海峡はオスマン・トルコ領…
そのため戦争になると、オスマン帝国はこの海峡を封鎖し、我がロシアの経済に打撃を与えてきました。
我がロシアの経済が発展すればするほど、この「弱点」はより深刻なものになっていきます。

 それで?

 だから…この海峡を自由にいつでもロシア艦隊が通れるようにすれば、ロシアの国益には大きなプラスですよね?
アジアでは領土を広げる余地がなくなった今だからこそ、あらためて黒海からのロシア艦隊の地中海進出を!
あきらめずに念願の不凍港を手に入れようではありませんか!

 ・・・・・・・・・・・・・


 お前…今までのロシアの歴史を少しでも勉強したクマか?
そのたびにイギリスその他の反発にあって失敗しているクマよ。
しかも現在はオーストリア帝国との外交がうまくいっているので、今ここでバルカン情勢に手をつっこんで、オーストリア帝国との間に余計なトラブルを起こしたくはないクマ。
さっき「30年は平和が必要」と言ったのを忘れたクマ?

 だから、要は軍事力でゴリ押ししたから他国から反発を受けたんですよね?
だったら事前の話し合いで利害を調節したらよいではありませんか。
心配なさらずとも、平和的に目的を達成してみせますわ。

 ・・・・・・・・・・・

 列強オーストリア帝国からの支持を得られたら、どうでしょうか?
バルカン情勢にもっとも敏感なのはオーストリア帝国であり、彼らがロシア艦隊の地中海進出を支持してくれるなら、情勢は一気にひっくり返りますよ?

 …うまくいくとも思えないけど…まぁ話し合いなら、断られても別にどうということはないクマ。
いい案があるならやってみろクマ。

 は〜い☆



   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

↓オーストリア
 …なるほど、つまりボスポラス海峡・ダーダネルス海峡を自由に航行したい、と。
そのためにバルカン半島に隣接する、我がオーストリア帝国からの賛同が欲しい、というわけか。

 はい☆

「ロシア艦隊には海峡の自由な航行権を…しかし他国の艦隊にはそれを禁止する。」

このように海峡の支配権を変更するよう、オーストリア帝国からも支持をお願いします。

 …皇帝陛下…いかがなさいますか…

 「わが国の支持が欲しければ、買いにこい。」
「高い値をつけた奴に、わが国の支持を、売ってやるよ。」


 …ナニ言っているんですか、このオッサンは?

 … ウィーンでは今、ライアー・ゲームが流行っているんです … 気にしないで下さい …

 すでに終わった春ドラを「流行っている」と言われても…

 「理解しろ、バルカン情勢を支配しているのは、この俺だ。」
「お前の国益を生かすも殺すも、この俺次第だ。」


 … はいはい、秋山、秋山 …

 もちろんタダとは言いません、我がロシアには代償を提供する用意があります。
もしもオーストリア帝国が、海峡の航行権を我がロシアの支配下におくことに賛同してくれるのなら…

 してくれるのなら?

 今は行政権を持っているにすぎないボスニア・ヘルツェゴヴィナを、正式にオーストリア帝国領に併合することを支持します。

 「オーストリア、チョー嬉しいんですけどー!」

 ……。

 … フクナガの真似です … 気にしないで下さい …

 いいだろう、その交換条件で問題ない。

 … ボスニア・ヘルツェゴヴィナは … もう実質はわが国の領土も同じですよ … ?
この前に同じような提案を受けて、断っていませんでしたか?

 … それに併合したらハンガリー政府が、スラブ人の人口が増えると怒り出しますよ …
… あとセルビア王国もカンカンに怒り出すでしょうね …
… もちろんオスマン帝国も、タダでは併合に同意しないでしょうね …

 とりあえず、わが国としてはボスニア・ヘルツェゴヴィナを併合しないといけない事態になった…とだけ言っておく。

 … どうしてですか?…

 今ここで話すと長くなるので、後編で"事情"を説明するから。


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   ・
   ・
   ・

 この密談を「ブフラウ会談(1908年9月)」と呼んでいます。
このときの密談では、ロシア側の外相イズヴォルスキーは記録を取っておらず、会談の内容はオーストリア帝国の外相エーレンタールが残したものしかありません。


 このブフラウ会談では、基本的なことは一致しましたが…細かい部分では意見の相違もありました。



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   ・


 ただ…ボスニア・ヘルツェゴヴィナをオーストリア帝国が併合することは、ベルリン体制を変えることを意味します


 国際社会の同意で決められたベルリン体制を変えるのですから、国際会議を開いて、そこで他の列強の了承をとる事が必要です。

 ふむ…意見の調整は当然だな。
しかし私はそこまでしなくても、各国の大使級の人間が会談するだけで十分だとは思っているが。

 あとボスニア・ヘルツェゴヴィナはセルビア王国にとって、「悲願の地」です。
そこをオーストリア帝国が完全に併合するのですから、彼らはカンカンに怒るでしょう。
ですので彼らには何らかの領土の保障を、かわりに与える必要があるかと。

 セルビア王国の領土を拡大させろと?
セルビアは潜在的な敵国だ、1キロたりとも領土の交渉をする気はないね。
私の領土を譲る気もなければ、オスマン帝国の領土を削って与える気もない。



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 会談の最中では、これらの「意見の相違」は小さなものに感じられたようですが…
しかし後に、この小さな解釈の差が、両国の関係を決定的に悪化させることになるのです・

 しかしそんな破滅の未来が分かるはずもなく、ロシア外相は交渉の成功(?)に安堵していました。


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 わーい、わーい☆ これで不凍港げっとーーーーーーー☆


 不凍港げっとーーーーーーー☆
不凍港げっとーーーーーーー☆
不凍港げっとーーーーーーー☆
不凍港げっとーーーーーーー☆


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 イギリスの反対でボツになると予想します。

 そんな、分かりきった結論を言ってネタバレするのは良くないお!

 これには当時のロシアとイギリスの関係について知っておく必要があります。
当時の両国は、どういう関係だったと思いますか?

 爆乳好きとツルペタ好きのように、敵対関係でしょ?

 ブルマ派と短パン派のように、敵対関係だお?

 初代ガンダムファンと種死ファンのように、敵対関係でしょ?

 3次元派と2次元派のように、敵対関係だお?

 あなた方に質問したのが間違いですね…

当時の両国は、「英露協商」を結んだ友好国です。


 Σ( ̄◇ ̄;)

 ロシアは不凍港を求めて中央アジアや東アジアで南下政策を進めますが…
中央アジアではアフガニスタンをめぐってイギリスと対決…東アジアでは満州と朝鮮をめぐって日本・イギリスと対立…
中央アジアでは交渉の末に、東アジアでは日露戦争の末に、国境線について同意が成立しました。

 イギリスにしたら、ロシアが南下政策をあきらめてくれるのなら、ロシアと争う理由もありません。
そしてイギリスにとっては、海軍の軍拡で競争を挑んでくるドイツが新たな脅威であり、ロシアを味方につける必要に迫られていたのです。

 へぇー、散々対立してきたのにねぇ。

 というわけで、イギリスにしてもロシアの希望を無下にはできませんでした。



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 アジアで不凍港を持つのは無理になったことだし…黒海から海峡を通って、地中海に出たいクマ。
海峡の航行権、ちょっと前向きに考えてほしいクマ。

 そうですわね…今や友好国なんだし、前向きに考えないこともないですわ。

 わーい♪

 ……(どうやって断ろうかしら)

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 英露協商が成立したのは1907年…その翌年の1908年の6月に、レヴァル(現在のエストニア)において、ロシア皇帝とイギリス国王が会見しています。
これは英露協商がきちんと機能していることを相互に確認し、そして諸外国にアピールするものです。
この「レヴァル会談」において、ロシア皇帝は海峡問題について好意的な取り計らいを要請し、イギリス国王も好意的な示唆を与えています

 お得意のリップサービスですか。

 イギリスの反応が上々だったので、ロシア外相は

「今こそチャンス、後はオーストリア帝国の同意をとりつけるだけだ!」

…と大喜びでした。
それが先にのべたブフラウ会談につながったのですよ。



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 わーい、わーい☆ これで不凍港げっとーーーーーーー☆
陛下、やりましたよ!
これでロシアの歴史的な悲願が達成だわ!
海洋国家のイギリスの賛成と、バルカンに隣接するオーストリア帝国の賛成があれば、もう成功も同じだわ!


 さて…国際会議を開催して、列強諸国からの正式な承認をゲットだわ。


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 その国際会議では、ボスニア・ヘルツェゴヴィナをオーストリア帝国が併合すること。
そして黒海の海峡問題の改定についても、あわせて話し合われるはずでした。


 その国際会議では、ロシアはオーストリア帝国のボスニア併合を支持し…
そしてオーストリア帝国は黒海の海峡問題でロシア側を支持するはずでした。


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ここまでの流れ…


1904年〜1905年  日露戦争 → ポーツマス条約

1907年  英露協商…ロシアとイギリスは友好国となる

1908年6月10日  レヴァル会談…英露協商がより強固となり、黒海の海峡問題で好意的な取り扱いを示唆

     7月2日  ロシア外相、オーストリア外相に「ボスニアの併合を容認するかわりに…」と、取引を打診

※ この時点では、オーストリア外相は「時期早尚である」と返答している


     8月27日  オーストリア外相、ロシア側の提案に応じる旨を伝える

     9月4日  オーストリア外相、イタリア外相にボスニア併合の計画を打ち明ける

     9月5日  オーストリア外相、ドイツ外相にボスニア併合の計画を打ち明ける

     9月15、16日  ブフラウ会談



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 さ〜て、各国の外相に国際会議の開催を求めるとともに、黒海の海峡問題についても「根回し」しなきゃ。
これから忙しくなりそうね♪




 △■※+AA@∴――。

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 さて次はフランスと会談、そして次は本命のイギリスね…いやー忙しい、忙しい♪
陛下、私は祖国のために頑張ってますよー☆




 フランスさん、実は―――

↓フランス
 ああ、ボスニアの併合問題ですの?

 あれ? ご存知だったんですか?

 ええ、オーストリア外相が「併合を宣言するから」と伝えてきたですの。

 …(国際会議で話し合おうって言っていたのに、もう併合を宣言?)


 はい、その件については、国際会議を開いてから決定を、と――

 会議もなにも、もう併合は決定事項のようですの。

 ………。


 ちょっと予定が狂ったかしら…できたらその前に、いちど会議を開きたいんですが。

国際会議では、他にも"ちょっと話し合いたい議題"があることですしぃ〜。
そしてその件では、会議の前に"ちょっと1対1で相談したい"ですしぃ〜。



 で、オーストリア帝国はいつ併合を宣言すると言っているんですか?
それに間に合うように、私も急いで日程を調整しないといけません。


 3日後ですの。 ※実話です





























ぎゃふん ☆














 根回しで各国をまわっていたロシア外相は、この事態にうろたえました。
併合が実施されるまでに、まだまだ交渉・根回しする時間があると思っていたからです。


 海峡問題をロシア側に有利に解決するには、フランス…とくにイギリスとの打ち合わせは必須です。
しかしその時間がないということは…それどころか、国際会議の開催も怪しいとなると、海峡問題を解決するチャンスが再び遠のくことを意味します。


 また併合が先行して既成事実化してしまうと、最悪はオーストリア帝国が約束を反故にする可能性だってありますからね。

 ブフラウ会談では、いつ併合を実施するのか、話し合っていなかったのですか?

 ブフラウ会談は、「会話の記録は残さない」という条件での密談談でしたので、なにが話されたかは推測です。
オーストリア側の記録はありますが、一方の主張だけでは正確なことは分かりませんからね。


 しかし前後の経緯をみるに、オーストリア側は意図的に予定を話さなかったと見るのが妥当ではないでしょうか。
理由は後編で話しますが、当時のオーストリア帝国は、急ぎボスニアを併合する必要に迫られていましたから。

 で、ロシアはどうするお?

 どうするも何も…できる限りの手を尽くすしかありません。



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…5日後、ロシア外相はパリ → ロンドンに到着…

…そして翌日、イギリス外相と会談…




 イギリスさんっ、私たちは歴史的な争いをのりこえて、英露協商を結んだ友好国ですよね?
もう争っていた昔みたいに


 「ロシア野郎は地中海に出てくるなぁー」


 …だなんて言いませんよね?!
黒海の海峡問題では、わが国の国益を好意的に考えてくれますよね?

 ……

 この問題を話し合うべく、国際会議を開きましょう!
そしてそこでは、あわせてオーストリアのボスニア併合問題も話し合いましょう!

 ……


 「海峡通航問題はイギリス政府が大変慎重に考慮する時間を持たねばならない問題であり、イギリス国内の世論がそれを準備するだけの時間をほとんど有していない。

  ――― イギリス外相グレイ

 …………。

 それより問題は、オスマン・トルコ帝国の態度ですわ。
自分の領土をオーストリア帝国に一方的に奪われるわけですから、下手したら戦争になるかもしれません。
むしろそっちの方が重要な問題だと思いませんか?

 …………。

 ご存知の通り、我がイギリスはオスマン帝国と友好関係…言ってしまえば"保護者"です。
我がイギリスは、オスマン帝国の国益と安全が守られるよう、"考慮" と "保障" を与えるつもりです。

 ええ、ですから国際会議を開こうじゃありませんか!

 国際会議を開くなら、議題を1つに絞ったほうがいいと思うのですが。

 …………。


 …( 駄目だわ、海峡問題を主題にできる空気じゃないわ )


 イギリスさんっ、たしかに事態はバルカン半島の平和にかかわります。
ロシアの国益にすぎない海峡問題どころではありませんわ。
この件で国際会議を、というのは撤回します。

 賢明ですわ。

 そのかわり、『オスマン帝国の国益を損ねるものではない』という条件でなら、我がロシアが海峡問題について新たな協定をオスマン帝国と結んでも、イギリスさんはそれに反対しないと約束してもらえませんか?


 我がロシアには、オスマン帝国の国益を損ねる気はありません。
約束して頂けるのなら、オスマン帝国内の我がロシアの権益を一部、放棄します!

 …(事前に大使から情報があった通り、やはりそれを要求してきたわね)

 レヴァル会談では、「海峡問題は前向きに考える」と示唆して頂きましたよね?
一国の君主どうしの会談で、まさか嘘なんかつきませんよね?

 レヴァル会談では、そこまで具体的な内容を話した覚えはありません。

 …………。

 まぁまぁ、そんな顔なさらずに。
あなたの希望は、内閣で協議してみると約束します。

 …………。(それって、典型的な役人の「検討いたします」じゃないの!)

 ああ、それから…海峡問題でのロシアさんの希望は、あまりに一方的すぎますわ。
黒海の海峡の通航を、「ロシア艦隊だけ」とか、「黒海の沿岸諸国だけ」とか、そんなことを言われましてもねぇ…。

 「相互的でないいかなる協定においても大きな困難が生じるであろう。

 ……。

 「オスマン帝国の了承が得られるかぎり、海峡はすべての国家に公平に開放されるべきである。

 ……。


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 イギリス外相のグレイは、ロシア外相の要求を全てボツにしました。
またロシア外相が受け入れやすいよう含みを持たせた文面にしながら、かつ何らの言質も与えませんでした。


 この会談以降、ロシア外相は海峡問題を取り上げることはなくなりました。

 完全に断念したようでつね。

 カワイソス。


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 こんなはずじゃ…こんなはずじゃ…


 ……途中までは完璧な計画だったのに … だったのに…


 ……そうよ、ボスニア併合の日程がここまで急だと分かっていたら。
…そうよ、それで全てのスケジュールが狂ったんだわ。


 もしブフラウ会談で、予め併合の日程が分かっていたら…
私だって、そこはちゃんと交渉して、他国と粘り強く交渉する時間の確保は要求したわよ!
きちんと国際会議にかけようと、絶対に下がらず主張したわよ!


 …


 そういえば今回のオーストリア帝国との交渉…最初は私からの提案は「時期早尚である」と断られたわ…
なのにその後になって急に「やっぱり受けたい」と言ってきた…
そしてその直後に併合を宣言…


 …まさか…私の賛成だけが欲しくて…
…ボスニア併合をただちに実行すると決めていながら、ブフラウ会談では私に黙っていたの??


 ……







 オーストリアさん、この仕打ちはあんまりですっ!
あなたのやった事は、外相どうしの約束を無視した抜け駆け行為ですっ!
これではもう、あなたの言うことが信用できなくなります!

 「騙してなにが悪い、これはライアーゲームだろ。」

 … はいはい、秋山、秋山 …
























「 ぶ ち 」 (何かが切れた音)














 オーストリアァァッ !!!!!!!





 どぅあーれが、ボスニア併合なんて認めるものくぁーっ!
ええ、認めるものか、認めるものですかーっ!
お前を敵国とみなして、もう徹底的に妨害してやらぁぁぁぁぁーっ!



※テッサファンの方、イメージを壊して申し訳ありません。





→ 「ボスニア危機(後編)」に続く。
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