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… 16世紀、モスクワ大公国 …




… 「雷帝」イヴァン4世の時代である …





 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 何でもできちゃう側近 オプリーチニキ!

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 陛下のご指示で政敵 粛清してあげるぅ〜♪

 いーやよ、ダメよ、こんなのぉー… バカバカぁ〜☆

 そんなに疑わせないでぇー。
お願いだからぁ… えいっ!!

 粛清天使ぃ〜 血しぶきドクドク イヴァンちゃん ☆
拷問天使ぃ〜 赤の広場で イヴァンちゃーん ☆

 切って バラして 晒してぇ〜♪
熱湯 冷水 浴びせかけ〜♪

 でーもそれって、陛下の「愛」なの♪





    2番、いっきまーす!



 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 万能血まみれ忠臣 オプリーチニキ!

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

 歩合でアナタのヤル気 かなえてあげるぅ〜☆

 いやん、ばかぁーん、うっふぅーん… ダメダメぇ〜♪

 そんなに張りきらないでぇ。
お願いだからぁ… えいっ!

 粛清天使ぃ〜 爆弾ドンドコ イヴァンちゃん ☆
粛清天使ぃ〜 串刺しザクザク イヴァンちゃ〜ん ☆

 斬って 殴って 嬲ってぇー。
刺して 晒して 垂らしてぇー。

 でーもそれって、陛下の「愛」なの♪









 すいません、この替え歌、歌詞の意味が分からないでつよ。

 では解説しましょうか。




ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪
ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪
何でもできちゃう側近 オプリーチニキ!

※「オプリーチニキ」…イヴァン4世の親衛隊で、イヴァン4世に不服従と見なされた人々を粛清していった。
彼らには法的な規制が免れるなどの特権があり、馬には犬の頭をくくりつけ、手に持ったムチには箒がついている。
これは「裏切り者には犬のように噛みつき、箒で国から掃き出す」という意思表示である。



 「イヴァン雷帝」 アンリ・トロワイヤ p160
彼ら(オプリーチニキ)はその職務ゆえに、法律の拘束を受けなかった。彼らを侮辱すれば、大逆罪とみなされて死刑になるかもしれなかった。
(省略)彼らが罰金を科し、男たちを拷問にかけ、女たちを犯し、子供の眼をえぐり、家屋に侵入して略奪し、森や収穫物に火をかけても、だれひとり文句は言えないのだった。



ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪
ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

陛下のご指示で政敵 粛清してあげるぅ〜♪

※イヴァン4世は大貴族を国内の抵抗勢力とみなした。 オプリーチニキの任務は、粛清によって彼らの力を完全に削ぐことである。

いーやよ、ダメよ、こんなのぉー… バカバカぁ〜☆
そんなに疑わせないでぇー。
お願いだからぁ… えいっ!!

粛清天使ぃ〜 血しぶきドクドク イヴァンちゃん ☆
拷問天使ぃ〜 赤の広場で イヴァンちゃーん ☆

※イヴァン4世は大貴族との権力闘争の末、誰も信用できない独裁者となっていった。
1570年7月、イヴァン4世はノブゴロド市民がひそかに、この都市をポーランドに明け渡そうとしていると信じ込み、ノブゴロド市民を虐殺した末、市の有力者とその家族をモスクワの赤の広場で拷問し、処刑した。


切って バラして 晒してぇ〜♪
熱湯 冷水 浴びせかけ〜♪

※ある者は、オプリーチニキの手でバラバラに切り刻まれた。
ある者は、熱湯と冷水を交互に浴びせられて「まるで鰻のように皮がぞろりとむけてしまった」。
これらの行為はモスクワ市民の眼前で行われ、死体は放置されて腐るがままだった。


でーもそれって、陛下の「愛」なの♪


ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪
ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

万能血まみれ忠臣 オプリーチニキ!

※オプリーチニキは身分を問わず、政敵を逮捕・告発する能力によって登用された。
彼らはイヴァン4世によって地位と財産を得たため、当然ながら忠誠心が高かった。


ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪
ぴぴる ぴるぴる ぴぴるぴ〜♪

歩合でアナタのヤル気 かなえてあげるぅ〜☆

いやん、ばかぁーん、うっふぅーん… ダメダメぇ〜♪
そんなに張りきらないでぇ。
お願いだからぁ… えいっ!

※貴族を告発・逮捕したら、その資産の1/4が逮捕・告発した者に与えられた。
このためオプリーチニキらは好んで富裕層を標的にした。


粛清天使ぃ〜 爆弾ドンドコ イヴァンちゃん ☆
粛清天使ぃ〜 串刺しザクザク イヴァンちゃ〜ん ☆

※イヴァン4世の政敵とされた人物、あるいは謀反の疑惑がかけられた人物は、さまざまな方法で殺害された。
ある者は大砲用の火薬の樽に座らされて、爆殺された。
ある者は生きたまま串刺しにされた。


斬って 殴って 嬲ってぇー。
刺して 晒して 垂らしてぇー。

でーもそれって、陛下の「愛」なの♪




 ガクガク、ブルブル (((((( ゜Д ゜;))

 作った作者が言うのも何ですが、この替え歌はまるで笑えないですね。

 ぷぎゃーっはっはっはwwwwwww
この替え歌テラおもしれーお!もう爆笑だおー!


 …ラミエルさん、あなた本当に天使の名を持つ使徒でつか?

 「雷帝」イヴァン4世の恐怖政治は国土の荒廃をまねき、西欧ではルネサンスだというのに乗り遅れてしまいました。
なぜかソ連時代には高い評価が与えられていますけどね。
曰く「大貴族との階級闘争に挑んだ果敢な建国の父」だそうで…

 なんでイカれた専制君主が「階級闘争の父」とか言われるんだお??

 当時のロシアで強い力を持っていた大貴族の勢力を削いだからです。



 ヴィッペル

従来、ロシアの歴史研究において、オプリーチニナ制度はイワン4世の疑心暗鬼からくる恐怖と絶望が形になってあらわれたものだと考えられてきた。
(略)
しかし、そのような浅薄な考えは永遠に葬らねばならない。今こそ、オプリーチニナ制度の導入は、時代の要請に答えた偉大な軍事行政改革であったと認識を改めるべきである。



 かのスターリンは、この歴史学者ヴィッペルの記述を夢中で読んだそうです。
疑わしきは粛清、虐殺……雷帝とスターリンは、きっとあの世で意気投合していることでしょう。

 えーと綾波さん、「雷帝」イヴァン4世がイカれているのは分かりましたが…
今日は毛皮の話をしていただけるんですよね??

 そうでしたね…ではこれより本編が始まります。




「ロシアという国」……番外編 bR

「毛皮を求めて3千里(中編)」



 素朴な疑問ですが、ロシアの前身のモスクワ大公国って、いつから「ロシア帝国」になるんでつか??

 見方は2つあります。
1つめは「ツァーリ(皇帝)」を名乗るようになってから…。
初めてツァーリの称号を名乗ったのは独立したモスクワ大公国のイヴァン3世ですが、当時の西欧は相手にしませんでした。
2つめは「ツァーリ」が諸国に認められるようになってから…これは「大帝」ピョートル1世の時代ですね。
北方戦争でスウェーデンに勝利したピョートル1世は、記念に「皇帝」の称号を元老院からもらい、国号もロシア帝国となります。

※「ツァーリ」とは「カエサル」に由来する称号で、以前はビザンティン皇帝やタタールの大ハーンを指した。

 さて…「モスクワ大公国」について、簡単に説明しましょうか。
もともとは辺境の都市にすぎなかったモスクワですが、

「宗主国であるキプチャク・汗の支配に、積極的に協力する」

という、名づけて勝ち馬の忠犬ポチになろうぜ作戦で頭角を現します。

 なんかミもフタも無いお。

 モンゴルのキプチャク・汗が、ロシアの諸侯に毛皮の貢納を要求したのは前に話しましたね?
モスクワは毛皮などの租税をきちんと納め、「あっしは使える子分ですぜ旦那ぁ」モンゴルに媚りまくりです。
結果…キプチャク・汗は、貢納を払えないロシア諸侯の領地を取り上げた際には、好んでモスクワに与えました。

 モスクワって一体……

 他にも、

 「キプチャク・汗に豪華な貢ぎ物をして、ハーンの妹を嫁にもらう。」
 「キプチャク・汗に反乱した諸侯の鎮圧に協力する。」
 「政敵をキプチャク・汗に処刑してもらう。」

…といった事をして、ライバルの諸侯がモンゴルに蹂躙されるのを尻目にガンガン成長していきます。
こうしてキプチャク・汗から大公国の地位をもらい、ロシア諸侯の中で最も強い勢力になっていったのです。

 自主外交を唱える愛国者サマが聞いたら、怒りで発狂しそうな外交でつね。





 何とでも言え、国家は発展し生き残ることが正義クマ。




 さてそんな忠犬ポチ熊のモスクワ大公国ですが、宗主国のキプチャク・汗が分裂して弱体化すると、あっさり態度を急変させます。



 もうキプチャク・汗に貢納してやる租税は無いクマよ!



 …と、貢納を要求するタタールの使者の前で、督促状をビリビリに破いてしまいました。

 君子は豹変するのでつね。

 それ、意味が違うと思うお。

 キプチャク・汗は懲罰軍を送りますが、けっきょく貢納を取り立てることができず、ここに「タタールのくびき」が終わり、モンゴルの支配から独立を果たします。
1480年のことですね。



 その後も順調に成長を続け、とくにノヴゴロドを併合したことは大きな利益をもたらしました。
ノブゴロドは寒いロシアの森で取れた良質の毛皮の集配センターであり、ここに集められた毛皮はバルト海を通って西欧に輸出されていたからです。
またノブゴロドを制圧することで北部も制圧でき、北東から良質の毛皮がザクザク送られるようになりました。



…独立時のモスクワ大公国  1533年までに拡張した領土


 もっとも、ノヴゴロドで毛皮の売買をしきっていたドイツ商人を追放したせいで、バルト海の航路は使えなくなりましたが。
バルト海の航路を安全に使えるようになるには、「大帝」ピョートル1世が北方戦争でスウェーデンを破るのを待たないといけません。

 その間の航路は無しでつか?

 アルハンゲリスクから北極海を通るルートがあります。
「雷帝」イヴァン4世の時代には、この航路を用いてイギリスと交易します。
イギリスではエリザベス女王の時代ですね。




 この北極海を使った航路は、冬になったら凍りつくので5〜10月の間しか使えません。
しかしイギリスとの交易は双方にとって大きな利益をもたらしました。

 後には敵国になるのに、不思議だおー。

 この頃はまだ、奪い合うような航路なんて無いですので。
それに当時のイギリスにとって、航路の邪魔者はスペインです。
ロシアが黒海→地中海航路を求めてイギリスと衝突するのは19世紀になってからですよ。
ともかくもイヴァン4世の時代、モスクワ大公国は「イギリス」という貴重な貿易相手 & 友好国をゲットします。

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↓イギリス
 ロシアの寒い森で取れた高級毛皮…とくにクロテンとアーミンは、わが国の上流階級で大人気ですわ。
ヨーロッパでは毛皮資源が枯渇しているので、頼りにしていますわよ。

 いくらでも売るクマよ〜♪

 あと蝋燭をつくるのに蜜蝋も欲しいですわ。
またわが国は海洋国家なので、帆船に欠かせない麻布・麻綱・木材もお願いします。

 OK、あと皮革、獣脂、鯨油も売ってやるクマ。

 そのかわり…わが国は不況で苦しいので、こっちの商品も買ってくれませんか?
毛織物をアジアに売りたかったけど、航路が確保できないのでモスクワ大公国が買ってくれると助かります。

 OK、我が国に来たイギリス商人には保護と特権を与えるクマ。
貴重な貿易相手だから、大事にするクマよ。

※イギリス・ロシアの貿易をもちかけたのは、ロシア側からである



こうしてロシアからは毛皮を筆頭に、香料、ロープ、蜜蝋、獣脂、ダイオウ、タール、麻布が輸出された。

逆にイギリスから、毛織物、香辛料、武器、弾薬、乾燥フルーツ、ワイン、塩、スズ、白目製品を輸入した。



 このとき、モスクワ大公国はロンドンに「モスコヴィ会社」または「モスクワ会社」という貿易会社を設立しました。
もちろんイギリス側もロシアとの直接貿易に乗り気で――なにせドイツ商人を通さなくても良くなるのですから――、イギリス側も出資しています。

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 あとね、わが国は辺境のため西欧のルネサンスに乗り遅れているクマ。
職人や技術者、それに軍事顧問を送ってほしいクマ。
そのかわりイギリス商人には特権を与えるクマ。

 いいですわよ ☆

 あとね…もし俺に何かあったら、イギリスに亡命してもいいクマ?

 ……(そーいやイヴァン4世って、虐殺のしすぎで「雷帝」と恐れられ、評判も悪いそうですわね)
……(ってか、こんなことをお願いするのって国家元首としては屈辱ってことを理解しているのかしら)

 もちろん構いませんわ♪ 御自分の費用で存分にお過ごし下さいませ。 (^^*

 あとね、あとね!

 うぜーなクマ野郎、お前なんて単なる商売相手なんだよ。(ボソ

 なにか言ったクマ?

 何でもありませんわ〜、オホホホホ (^^*

 俺と結婚しない? 英国女王とモスクワ皇帝って、最高のカップルだと思うクマ。
そして軍事同盟を結ぼうクマ!

 …










 ご存知かと思いますが、私エリザベスは殿方の求婚を断り続けていますので…(滝汗

 んじゃー、お前のいとこを嫁にくれクマ。
そして露英同盟を結んで、対ポーランド戦に協力してほしいクマ。










 私のいとこはブサイクですので、もっと美しい姫君をロシアでお探しになられた方が。

 俺が送った使者によると、美人だというクマ。

 ごめんなさい、本人が泣いて嫌がるんですのよ、オホホホホホホ♪
(自分の息子を撲殺するようなクズに、私の親戚を嫁にやるなんてトンデモナイ!)

 …せめて攻守同盟を結んでほしいクマ。
ポーランドやスウェーデンと戦争する際、援助してほしいクマ。

 ……(なんで私がポーランドやスウェーデンを敵にしないといけないワケ?)

 共通の敵と戦う際には、援助を約束しますわよ。(^^*


   訳 :「イギリスの敵ではない国に、戦争しかける気なんてねーんだよボケwww」


 我が国での貿易の独占を認めるから、ポーランドとの戦争を援助してほしいクマ。

 私は侵略戦争は嫌いですのよ。

 ポーランド領のリヴォニアは、もともとロシア領クマっ!

 そうでしょうか?(プw

 ムッカーーーーーー!

 そんなことよりも、イギリス商人の特権をさらに拡大――

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 心あたたまる交流だお。

 もっとも「雷帝」イヴァン4世が亡くなった後は、ロシアの親イギリス政策にもかげりが出てますが……
しかしそれでもモスコヴィ会社は18世紀の中ごろまで存続し、毛皮をはじめとする貿易を続けたようです。


 さて…ここからが重要になるのですが…
「雷帝」イヴァン4世の時代、モスクワ大公国は宿敵だったタタール勢力をのきなみ征服することに成功します。
これは毛皮獣の宝庫である森と、そして毛皮の輸出ルートの確保を意味します
これは地図を見ると分かりやすいですね。


「雷帝」イヴァン4世の時代における『汗国の征服』



 地図を見ての通り…まずカザン・汗を1552年に征服。
続いて1556年にはアストラハン・汗を征服します。

 すいません…タタール軍団ってそんなにショボいんですか?

 いえ、決して弱くはありません。
逆にクリム・汗はモスクワまで侵入して火を放ったことさえあります。
また国境沿いに砦を多く築いていたことからも、厄介な相手だったのは明らかです。

 ではどうして、そんなにアッサリとやられるんだお?

 以下の記述によると、武器の進歩にタタールが対応できなかったからのようです。



 「世界史」 ウィリアム・H・マクニール p379-380

攻撃をかけてきて速やかに退くような種類の敵に対してなんとか国境線を守ることは、ロシアの軍事能力を依然超えるものではあったけれども、1500年ごろから後は、ある動かしがたい事実が明らかになった。騎馬の射手がもはや充分な装備をした歩兵には勝つことができない、という事実である。交易や農業を行うロシア社会が、当時の主要な武器であった銃を歩兵部隊に供給する力があり、また実際に供給したのであるが、それまで定着農工民に対して基本的に軍事的優位を誇っていたステップの牧民社会は、馬から降りて、火薬を用いる新しい技術的可能性を開発することを拒んだのである。その結果として生まれた根本的に新しい勢力の均衡はほどなく表面化した。1552年に、イヴァン4世雷帝はカザンを占領した。



 このカザン・汗とアストラハン・汗の2つの汗国を征服したことは、大きなメリットをもたらしました。
南東の領土をゲットすることで、もうタタールに通行税を払わなくても、中央アジアやイランにも毛皮や木材といった森林資源を輸出し、ひきかえに宝石や絹・綿織物といったものを輸入できるようになりました。


 しかし何といっても、続くシベリア…シビル・汗国の征服が最大の成果でしょう。
これによって、ロシアは資源の宝庫である東方へと領土を爆発的に拡大していきます。
ではその様子を見てみましょうか。



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 シビル・汗からの毛皮の貢納…最近は滞納しがちですね。

 いい根性をしているクマね。





1552年にカザン・汗がモスクワ大公国に征服されて以来、シビル・汗はモスクワ大公国に服従するようになった。

イヴァン雷帝は、シビル・汗のハーンに毎年1000枚のクロテンの毛皮と、そして徴貢のため派遣される皇帝の使者に対して、同じく1000枚のリスの毛皮を納めることを命じていた。




 シベリアに入植したロシア人とも、争乱が絶えないようですわ。
というより、明らかに妨害していますわね。

 シビル・汗のやつ……オレへの服従は口先だけクマね。

 それどころか…大人しく我らに毛皮を貢納していた部族にまでも、武力で妨害する始末です。
しかも入植者の村を襲撃して製粉所や製塩所を破壊し、農民を拉致っています。

 …なんか腹たってきたクマ。

 …人質にとっているハーンの親族はどうします?

 殺せ。

 イエッサー!




 ちょっとだけスッキリしたクマ。
でも毛皮の貢納が滞納しているのは、むかつくクマね。

 シビル・汗のハーンは、完全に我々にケンカ売ってますね。

 お忙しいところ、ちょいとスイマセン。

 誰だオマエ。

 私はストロガノフと申します。

 ストロガノフって、あのビーフシチューのストロガノフのことクマ?

 イヴァン陛下…その「ストロガノフ」は後の世です。
このストロガノフなる一族は、製塩で財を成した成金ですよ。
最近は北方の部族と毛皮の取引をして利益を上げていますが。

 で、その成金が何の用クマ?
今ちょっと機嫌が悪いので、要点を簡潔に話すクマ。

 今日はおもしろい話を持ってまいりました。
この動物をごらん下さい。




 この犬のなにが面白い話クマ?

 「尾も、しろい。」

 コイツを拷問して殺せ。

 サー、イエッサー!

 ちょっ!!! す、すいませんっ! 話のつかみのロシアン・ジョークですっ!

 (無視) どんな殺され方がいいですか?
主計官フーニコフのように、熱湯と冷水に交互に浸してショック死がいいですか?
アレをやると、皮膚がぞろりとムケちゃうそうですが。

 イヤー!! へ、陛下っ! 私に任せて頂けたら、シビル・汗に入植したロシア人を、タタールどもの妨害から守ってみせます!

 !!!

  (無視) テーレプネフ公のように、生きたまま串刺しにして、もがき苦しむあなたの前で家族をなぶり殺しにしましょうか?
あるいは腹を空かせた野性のクマのいる檻に放り込んで、クマの餌になりますか?

※アンリ・トロワイヤ「イヴァン雷帝」参照

 殺すのはちょっと待つクマ。

 えー!? ツマンナーイ!!

 た、助かった…

 具体的に話すクマ。 殺すかどうかはそれから決めるクマ。

 ウラル山脈よりも東の地域には、肥沃な草原があるのに耕作されず、人家もなく、国庫に税も納められていません。
登記上は誰にも所属していない土地です。
そこの土地を頂けませんでしょうか。

 いいだろう、おまえに土地をくれてやるクマ。
どーせ誰のものでもないんだし。

 あのー…そこのロシア人の入植者はシビル・汗の兵によって焼き討ちにされ、皇帝陛下の使節団さえ殺されるA級のデンジャラス・ゾーンなんですのよ。
断っておきますが、あなたの開墾事業のために、正規兵を護衛に割く気はないですわ。

 もとより陛下の兵を頂くつもりはございません。
そのかわり…私に兵を募集すること、開墾地に砦をつくることを許可してください。

 いいクマよ。

 ありがとうございます! では、朗報をお待ち下さい!

 ………

 ………

 うまくいくと思うクマ?

 ウラル山脈をこえたら、そこは蛮族タタール人どものテリトリーです。
募集しても、まともな人間なら行きたがらないのでは?

 まぁお手並み拝見クマ。








さて、ロシアの辺境の地では…











 わはははは! 金目のものを奪えー!
邪魔するヤツはぶち殺せー!


 野郎ども、ズラかるぞっ!


 ハァハァ…ここまで逃げたら大丈夫だろう。
わはははは、略奪は楽しくて止められないぜ!

 おい、そこのリアル犯罪者。
なんか見るからに悪党な顔をしているな。

 なにか用か?

 ここは私の土地だぞ。
それから…オマエはもしかして、お尋ね者の盗賊団の首領エルマークか?
勇猛であるという以外、ロクな噂を聞かないが。

※資料によっては「イェルマク」。なおエルマークは渾名で、本名はヴァリーシー・ティモフェーヴィッチ。

 だったらどうする、官憲にでも引き渡すか?

 私が捕まえるまでもないな、エルマーク。
イヴァン雷帝は、お前を捕まえるために大軍を派遣したらしいじゃないか。
大方それで、こんな辺境地まで逃げてきたんだろう?

 ……

 だが私に強力してくれるのなら、お前は国家の英雄になれるぞ。
それともこのまま犯罪者として流転し、捕まって縛り首になりたいか?

 …美味しい話なら、詳しく聞こうか。

 簡単だよ……ウラル山脈をこえて、シベリアの地に入植する。

 ウラル山脈よりも東は、タタール人どもの領域だぞ?
とくに今のシビル・汗のハーンは、モスクワ大公国からの入植者を武力で排除しているが。

 だからこそ、おまえのような荒くれ者が必要なんだよ。
シビル・汗の軍隊を倒してシベリアの地を征服すれば、お前はモスクワ大公国の英雄だ。
なにせシベリアは、「柔らかい黄金」のクロテンをはじめとする、高価な毛皮獣の宝庫だからな。
そうなれば皇帝陛下も、おまえの今までの罪を赦してくださるだろう。
そしてお前は大金持ちだ。

 たしかにこのままでは、いずれ処刑されるだけだな…
いいだろう、その話に乗った!

   ・
   ・
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   ・
   ・


 ストロガノフ家は、逃亡農民やコサックといったアウトローな連中を募りました。
その数ははっきりしませんが、500人とも5000人とも言われています。
彼らは現在に希望がなく、一か八かの勝負にかけて遠征隊に参加したのです。

 コサックってよく聞くけど、どんな連中なんだお?

 収奪や抑圧を嫌って辺境地に逃亡していた、貧農や農民の集団ですよ。
もともと彼らは国家に属さず、狩猟や牧畜で生計を立てていましたが…
しばしば河川を往来する官船や商船を襲い、中には国境を越えて他国の住民から略奪することもありました。

 で、エルマークってのは?

 シベリア遠征隊のリーダーに抜擢された、盗賊団の首領ですよ。
リーダーシップがあり、豪胆で部下の人望も厚く…まぁコサックの首領としての素質を備えていたそうです。
ストロガノフ家は彼らに衣服から食料、小銃、はては大砲までもを供給しました。
そして1581年…彼らはウラル山脈を東にこえて、シビル・汗国への遠征を始めます。

 なんつーか、悪と悪の戦いにしか見えないお。

 そして1582年…エルマークとその一行は、シビル・汗の軍勢を撃破し、首都イスケルを陥落させます。
シビル・汗のハーンは家族とともに、財宝を持って首都から逃亡しました……

※首都イスケル…現在のトボリスク


エルマーク率いる遠征軍は、河川を利用して
楽に移動することができた。

シビル・汗(右側)の武器は弓・槍・剣に対し、
ロシア側(左側)の武器は銃火器で戦った。








 東の国境地帯に、タタールどもが侵攻してきたそうクマね。
ストロガノフ家の連中が兵を持っていたと思うから、そいつらに撃退させるクマよ。

 それが…シビル・汗の遠征に出払って留守ですわ。

 あの役立たずども、勝手に犯罪者集団を集めてシビル・汗のハーンに喧嘩を売りおって!
戻ってきたらコサックともども処刑してやるクマ!

 陛下…その遠征隊の隊長エルマークが、遠征が終了して報告書を送ってきましたわ。
エルマークは逃亡中の犯罪者であり、すでに死刑が確定しているヤツですが。
こんなロクデナシを雇って隊長にするなんて、ストロガノフは何考えているんでしょう。
ついでに報告書を持ってきた使者も逃亡中のリアル犯罪者です。
どのツラさげて王宮に来たんでしょうか。

 ナメやがって…まぁ報告内容だけ聞くクマ、その後でエルマークは処刑クマよ。

 えー、なになに…




我らコサックはシビル・汗を制圧して、ハーンとその軍勢を破りました。
ここに陛下に対して、シベリア帝国を贈り物として捧げます
陛下の統治下にはタタールを初めとする周辺部族が加わります。
そして陛下と全てのロシア人に対して服従し、欠かさず朝貢することを誓約させました。




 キタコレ!

 本当かしら〜?
犯罪者の言うことなんですから、差し引いて考えた方がいいですわよ。


 …あ、書簡を持ってきた使者は陛下への贈り物も携えていますわね。


 えーと……クロテンの毛皮が2400枚、ビーバーが50枚、黒キツネが20枚…


 ……すいません陛下、シビル・汗がこれまで貢納していたクロテンの毛皮って、たしか…

 ……年に…1000枚クマ……

 ………

 ………

 っキャー !!!!!!!!!!!

 クマー !!!!!!!

 毛皮よ毛皮っ! フサフサのクロテンの毛皮がこぉーんなにっ!!!!!
ちょっと顔洗ってから、たっぷりほお擦りしますわっ!!!!!


 陛下っ! 今度のボーナスはクロテンの毛皮のコートでお願いしますっ!!!!!!!
あと「珍品中の珍品」黒ギツネの毛皮の帽子も欲しかったんですのよっ!!!!!
あーもう、これで私も西ヨーロッパの貴族にだって負けないセレブよっ!!!!!

 エルマークと彼の部下には、今までの罪状をすべて赦免するクマ!
いやそれだけじゃ足りない、報奨金と下賜品も送るクマ!

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

 このときのイヴァン雷帝の喜びようは尋常ではありません。
皇帝はコサック ―― 当時のモスクワ大公国では、国家の支配を無視していた犯罪者まがいのアウトロー ―― に対して下賜品を贈ります。
また首領であったイエルマークには、皇帝自身が身に着けていた高価な毛皮の外套、双頭の鷲の紋章の入った甲冑が贈られました。
さらにモスクワ市内では、彼の偉業をたたえてあらゆる教会の鐘が鳴らされたそうです。

 盗賊あがりのゴロツキに、皇帝が自分の着けていた甲冑を!?

 資料によると、これは大きな意味を持っているようです。
ちょっと長いですが引用しますね。



 「毛皮と皮革の文明史」 下山晃 p300

ロシアで至高の地位に登りつめた雷帝が愛用の双頭の鷲の紋章を掘り込んだ甲冑を盗賊あがりの下賎なコサックに下賜したことは、当時の慣例からみてまったく破格の待遇を意味した。というのは元来、鎧や兜は由緒ある高貴な貴族や高潔な騎士にだけ着用が許されてきたもので、しかもビザンチン皇帝の血統に連なったばかりのロマノフ家の紋章入りの甲冑を与えられた下層民は、それまでロシア社会の中に誰一人としていなかったからである。この特別の恩寵により、コサックは何より重要な「名誉」を得て股肱の臣となり、聖なる権力者と賤なる機動部隊とが以後は一体化した。植民地時代の北米での場合と同様にロシア版の毛皮貴族Fur Baronが生まれた訳であるが、このことは実は、社会における「名誉」をひとつの支柱として成り立っていた中世的な政治支配の身分配置の構図を、大きく変質させる要因をも含んでいた。中世にあっては、社会の枠の中で「名誉を持たざる者がすなわち賤明」なのであって、そうした社会的な身分定規は、中世人の宇宙観や自然観、そして「自由」の概念などと分かち難い形で強固に結びついてもいた。ロシア中世はまさに、雷帝とイェルマークが手を結んだことによって、したがってシベリアの毛皮資源の開発・収奪をきっかけとして、変質し瓦解しはじめたのである。植民地と現世的な富(毛皮)をもたらす者こそが「名誉」を獲得し、以後ロシアは王国から近代的な帝国への脱皮の準備をはじめる。



 すいません、毛皮が高価なのは前回で分かりましたが…
そこまでスゴイんでつかね?

 当時のヨーロッパでは、獲りすぎ&森林伐採で、毛皮資源が枯渇していましたので。
下の資料は、ロンドンのリス皮とビーバー皮の輸入枚数です。


西暦/毛皮の種類 リスの毛皮 ビーバーの毛皮 アーミンの毛皮
1384年 377,200 3,926 1,856
1390〜1391年 351,000 1,380 775
1400〜1401年 124,000 240 300
1438〜1439年 175,620   20
1480〜1481年 65,780 300 240
1502〜1503年 35,080    
1512〜1513年 38,200    
1536〜1537年 8,040   240
1545〜1547年 18,000    
※「毛皮と皮革の文明史」 下山晃 p181-182


 たしかに、年とともに減っていってまつね。

 こんな状態で新たな毛皮の供給先が手に入ったのですから ―― しかも最高級のクロテン皮―― これは大きな富になりますよ。
こうしてロシア人はシベリアへと突撃していきます。



 さて…次回はシベリアでの毛皮収奪の実態と、そしてその先のアジアとの交易について書きますね。
ではまた〜♪


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