[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック




 ノーマッドと!

 使徒ラミエルの!

 ロシア史番外編 bQ ―― 「毛皮を求めて3千里」〜♪

 おかげさまで、このサイトも1日150〜200人近くが訪れていただけるようになりました。
目標としている歴史サイトにはまったく及びませんが、これも皆様のおかげです<(__)>


 しかし書いていて思ったのですが…歴史の話ではやはり外交や戦争に絡んだ話が好まれるようですね。
もちろん私も大好きですが。

 諸君、私は戦争が好きだ。

 はやく戦争になぁ〜れ♪

 では逆に、聞いているだけで眠たくなる歴史のお話は何でしょうか?

 N●Kでやってた歴史講座は、マジで眠たくなります。

 あれは話の内容というより、疲れてユンケル飲んでそうなオッサンが講師だからだお。

 では眼鏡をかけた滝川クリステルを講師に、宮崎あおいとマナカナを生徒役にしたらどうでしょう。


 ←講師(滝川クリステル)

 ←生徒A(宮崎あおい)

 ←生徒B(マナ・カナ)




 もう視聴率20%超えは確実でつね!
これぐらいクオリティの高い番組を作ったら、みなN●Kに受信料を払ってくれることでしょう。

 でも宮崎あおいタンには、彼氏がいると分かってショボーン(´・ω・`)だお…

 …どうでもいいけどラミエルさん、あんた何時から語尾が「お」になったんですか?

 ノーマッドさんと似た電波系の非人間キャラなので、せめて口調で差別化を図るんだお。

 あのー…

 なんでつか?

 毎度のことですが、話がズレていますよ……

 ゴメンなさい、何の話をしてたっけ??

 コホン。


 まぁ話の内容でいうと……眠たくなるのは文化や経済の歴史だお。

 たしかに…歴史でもっとも退屈な話題の1つが、文化や経済の歴史でしょう。
血わき肉おどる話や、にわか愛国心で脳内麻薬が分泌される話ではありませんので。


 しかし文化は人間の活動ですし、それは経済の活動につながります。
戦争や外交は、簡単に言うと経済活動の利益を得るため・守るためにやるものです。
つまり文化や経済活動は、歴史の大きな原動力になるのです。


 というわけで今回は退屈なお話かと思いますが、ロシアと毛皮の歴史を話したいと思います。




「ロシアという国」……番外編 bQ

「毛皮を求めて3千里」




 素朴な疑問でつが……ロシアにとって、毛皮ってそんなに大事なモノなんでつか?

 まぁロシア人と言えば毛皮の帽子、毛皮のコートだお。

 ロシアは寒い国ですからね。
「毛皮のコートを着ていたら、初冬なら下はシャツ1枚でもOK」だそうです。

 いや個人レベルの生活で大事なのは理解できるんでつが、国家が関わるほどの事なのか、と。

 単なる文化ではなく、とても大事なものです。
ロシアだけでなく周辺……北欧、西欧、東欧、それにイスラム圏や中華帝国……でも需要がありましたから。
まだロシアの鉄鋼業が未発達だった頃、毛皮はロシアにとって大事な収入源でした。



 「毛皮と人間の歴史」 西村三郎 著 p176

ロシア皇帝自身がいわば大毛皮商人といっても差し支えなかった。16世紀末には毛皮からの収入が全国家収入の3分の1に及んでいた。まさにロシア帝国の財政は、シベリアからとどけられる“柔らかな黄金”にかかっていたのである。



 ウハウハだお!

 もっとも乱獲のしすぎで、現在はラッコロシアデスマンのように捕獲が禁止された毛皮獣もあります。
またシベリアのクロテンも、乱獲のせいで現在は年間での捕獲制限があり、資格を持った猟師しか取ることが許されていません。

 すいません綾波さん。
毛皮を身にまとう習慣の無い日本にとって、毛皮ってどんな種類があるのか分かりません。
「ラッコ」とか「ロシアデスマン」とか「クロテン」とか言われても、「へー…」としか答えようが無いんでつが。

※日本は高温多湿な気候のため、毛皮の保管には適さない

 分かりました、では簡単に毛皮獣について説明します。
そもそもお金になる高級な毛皮って、どんなのが思いつきますか?

 冬になると日本でも、若い女性がキツネのマフラーをしているお。

 でも毛皮といえばミンクのコートでしょう。

 あと成金の家には、玄関にトラヒョウの毛皮が置いてあるってイメージがあるお。

 2人(?)とも、なかなかいい線をついていますね。
一般に高級と言われる毛皮には、以下の条件があります。


  1) 毛が長くやわらかい動物の毛皮である
  2) 冬毛である
  3) 換毛の直後に取れた毛皮である


 犬を飼っている人はご存知でしょうが…動物は季節によって毛が生えかわります。
当然ですが冬毛は夏毛より防寒機能が高いので、価値が上がります。
また毛は紫外線や擦過といった自然現象でも劣化していくので、完全に生えかわった直後…真冬から早春…の毛皮が最高品質です。


 こういった条件でみると寒い場所に棲む動物の毛皮が高級品ですね。
寒いと防寒のため体毛が発達しますし、緯度が高い北方ほど、紫外線も弱くなり毛の劣化も少ないですから。
あと同じ理由で、水辺に棲む動物の毛皮も高級品として扱われます。

 なんで水辺?

 防水のため、体毛が発達するからですよ。
この代表選手はラッコ、ビーバー、ロシアデスマン、それにオットセイでしょうか。
たとえばラッコの毛皮はびっしり生えた体毛によって中に空気を保ち、防水と浮き輪の役目を果たします。

 見た目はどうなんだお?

 もちろん関係ありますよ。


  1) 光沢があり、濃い色調である。 または純白である
  2) 珍しい模様がある
  3) 個体数が少ない毛皮獣だと、レアものとして希少価値がつく
  4) その時代の流行


 この条件で考えると、一般に肉食獣の毛皮が高級になるのは分かりますか?

 なんで??

 肉食獣は草食獣に比べて、個体数が少ないからですよ。
また傾向として、肉食獣には草食獣にはない美しい独特の模様や斑紋がある場合が多いのです。
そのため草食獣の毛皮は普段着に、肉食獣の毛皮は儀式や貴人の衣服に用いられる傾向があります。
まぁあくまで「傾向がある」ってだけですが。
例えばヨーロッパの富裕階級に人気だったのはキタリスの毛皮ですし。


 また気温だけでなく、自然の環境も動物の毛皮に影響を与えます。
明るく開けた場所よりも、うっそうと茂って昼でも暗い森林の方が、毛が長くてやわらかい、そして光沢のある毛皮になります。
じっさい装飾用や富裕層が着る高級な毛皮の多くは、深い森林にすむ動物の毛皮ですから。
その代表選手はクロテン、ビーバー、キタリスでしょうか。

 そう考えると、クソ寒くて森林だらけのロシアは最適でつね。

 ではここで、毛皮が高級とされるロシアの毛皮獣たちを紹介します。
まずはエントリーナンバー1番、今は捕獲が禁止されているロシアデスマンです。



    ロシアデスマン Russian Desman


 ネズミ??

 アリクイ??

 いえ、モグラです。
ロシアの南西部であるドン川、ボルガ川、ウラル川流域にだけ生息し、モグラでは珍しく水辺で暮らします。
ビーバーと同じ半水半陸の動物で、足には水かきまであります。
エサは昆虫やミミズですが、水にもぐって水生植物の根も食べます。

 こんなのが高級な毛皮獣だお???

 寒い地方の水辺に棲む動物なので、密生する体毛は水を通さないほどですよ。
19世紀から毛皮を目的として捕獲されるようになり、毎年およそ2万頭の毛皮売買がありました。
また19世紀末から20世紀の初めにかけては、ロシアデスマンの毛皮を着用するのが流行しています。
おかげで乱獲され、ドニエプル川の流域(ウクライナ)では絶滅してしまいました……
そして現在は捕獲が禁止されています。
また尻尾からじゃこう臭を出し、昔は貴婦人が切り取った尻尾を胸元に隠しいれたそうです。

 ヘー。 モグラがねぇ…

  次にいきましょう。
エントリーナンバー2番、王侯貴族に大人気のリスです。
このキタリスですが、夏は褐色ですが冬になるとグレイの毛になります。


    リス Squirrel


 リスと言ってもいろんな種類がいますが、毛皮用に捕獲されるのはキタリス(Eurasian red squirrel)ですね。
ユーラシアの北部に広く分布し、日本には亜種のエゾリスがいます。
キタリスは棲息地域によって色が異なり、アジア産は背が暗色なのに、西のヨーロッパにいくほど淡くなっていきます。
ウラルよりも西になるとパールグレイないしシルヴァリーグレイとなり、これが最高級品とされます。


    

 とくに最高品質とされたのがノヴゴロドの北方に棲息するキタリスの毛皮でした。
これは中世ヨーロッパの貴族や富裕階級に絶大な人気があり、ロシア帝国ができる前から商人が乗り込んで毛皮を集め、河川を通ってビザンツ、イスラムに売っていました。
下は河川を移動してキタリスの毛皮を狙うハンターの絵です。


   


 ノヴゴロド??

 ロシア産の毛皮の収集センターだった都市ですよ。
かってはドイツ商人の独壇場でしたが、ロシアの前身であるモスクワ大公国がモンゴルの支配から独立すると、追放されてしまいましたが…
ノヴゴロドの場所はここです。


  


 ロシアがウラル山脈をこえてシベリア……毛皮獣の宝庫である密林(タイガ)……に突撃するまでは、キタリスの毛皮がもっとも多く取引されていました。
余談ですが、「シンデレラ」のお話に登場するガラスの靴は、あれはガラスではなくてキタリスの毛皮のブーツではないか、という話もあります。
真偽はともかくとして、キタリスのシルバーグレイの毛皮はそれだけ王侯貴族に珍重された、という事ですね。
フィンランドでは、リスの毛皮はそのままお金の代わりにもなったそうですから。

 でもいくら上質でも、リスなんて小さな動物の毛皮、ものすごい量がいりませんか?

 ええ、その通りです。
キタリスの場合、帽子なら30〜40匹。
王侯貴族の毛皮のマント1着を作るのには、キタリスが1000〜2000匹も使われました。
また着衣だけでなく、上流階級がつかう毛皮の掛け布団だと5000匹ほど使われています。

 カワイソス(´・ω・`)

 人間って罪深い生き物だおー…

 着たい人はご自由に、残酷だと思うのならご自由に、としか答えようがないですね。
私は気にしていませんし、むしろ欲しいです。
でも残酷だという人を「偽善者だ」「感傷的だ」と批判する気はありません。
価値観なんて人それぞれですので、お互いに押し付けあわないことが一番だと思っています。

 毛皮が欲しい、て……綾波さん、あんたそんなキャラじゃないでしょ。

 私の場合はファッションが目的ではありません。
歴史の原動力になったアイテムですから、手にとって歴史の流れに想いを馳せてみたいのです。

 ところでキタリスの毛皮って、今でも販売されているんだお?

 はい、今でも高級品として販売されています。
「ロシアリス」でネットで検索したら見つかりますよ。
この会社では、コートが18万円〜33万円だそうです。

 ロシアリス??

 その名の通りシベリアで獲れるリスで、「ロリス」とも呼ばれています。
棲息範囲からみて、おそらくキタリスではないかと思うんですが。
毛皮はブルーグレイで、現在のリス皮では最高品質ですね。
このロリスの毛皮は他のキタリスとちがい、染められることなくそのままの色で使用されます。


 続いていきましょうか。
エントリーナンバー3番、昔からヨーロッパで大人気、近代でも北アメリカ大陸で大人気のビーバーです。


    ビーバー Beaver


 知っているお、木をかじり倒してダムを作る動物だお。

 ビーバーはユーラシアの北部と北アメリカ大陸の北部に生息します。
ロシア帝国ができる前から、キタリスと同じように毛皮を目的として捕獲されてきました。
あのナポレオンの帽子にもビーバーの毛が使われていることは、TVで紹介されて知っている人も多いのではないでしょうか。
冷たい水辺で暮らす動物だけあって、密生した下毛を持っています。

 ビーバーの毛皮って、今でも使われているんでつか?

 ええ、今でも高級毛皮として扱われていますよ。
ちなみにこのカナダ製のビーバーのジャケット、値段は3,700カナダドルです。


    


 およそ37万5千円……やっぱ高いでつ!

 これ、カナダ人にとってはどの程度の価値だお??
おなじ37万円でも、日本人にとっての37万円とカナダ人にとっての37万円は違うと思うお。

 カナダ人の平均年収は、男性で38,400ドル…年収のおよそ1/10ですね。
日本人の男性の平均年収は541万円ですから、年収の1/10…
日本人にとっての54万円ほどの価値になります。

 (すいません、日本でビーバーのコートを販売しているサイトが見つけられなかったもので)

 当然ながら乱獲の対象となり、イギリスでは16世紀に絶滅したようです。
ビーバーは北アメリカ大陸にも生息し、これはアメリカやカナダに入植した白人………イギリス人とフランス人………によって狩りたてられ、やはり絶滅の危機に追いやられました。
でも今は狩猟を制限したおかげで回復し、安定して市場に出回っています。
カナダのケベックで獲れるビーバーの毛並みが、最高品質だそうです。


    ←ケベック


 では次……エントリーバンバー4番、アカギツネです。
ユーラシア大陸のほぼ全域と北アメリカの大部分に棲息しますが、やはり毛皮獣の例にもれず、北方に棲んでるものほど良質の毛皮が採れます。
とくにロシアのカムチャツカ産は「ファイヤーフォックス」と呼ばれ、良質とされます。


      アカギツネ Red Fox


 さてこのアカギツネ、普通は赤褐色の「キツネ色」なんですが…
個体変異で違う色が生まれることがあります。
全身が黒いもの(黒狐)、黒い地毛に銀の毛がはえたもの(銀狐)、頸部の色が濃く、上から見たら十字模様があるもの(十字狐)……。


     黒狐 Black Fox


     銀狐 Silver Fox


 どう見てもちがう生き物でつね。
これが同じアカギツネとは信じられないでつよ。

 この中でも特に高価なのが銀狐です。
また黒狐の方も、ロシアがまだモンゴル帝国の属国だった頃には、モンゴルへの貢納品として用いられていました。


Red Fox 6,200ドル
(約71万円)
Black Fox 4,000ドル
(およそ46万円)
Silver Fox 8,000ドル
(およそ92万円)



 やっぱビーバーよりも高いでつね?

 毛皮は “ ナマモノ ” ですので、決まった価格があるわけではありません。
個体の毛並みのよさ、毛皮を採取したときの条件や保管状態でも大きく変化します。
あくまで目安ととらえて下さい。


 あとキツネの毛皮では、主に北欧のスカンジナビア半島が産地のブルーフォックスも有名ですね。


     青ギツネ Blue Fox  ※北極ギツネ( Arctic Fox )の一種

     青ギツネのコート 2,100ドル (24万円)


 やはりキツネさんも、毛皮目当てに乱獲されて絶滅の危機なんでつか?

 いえ、現在ではミンクのように養殖されていますよ。


 次にいきましょう……エントリーバンバー5番、アーミンです。


      アーミン  Ermine


 これ、イタチやテンの仲間でつか?

 はい、日本ではオコジョと呼ばれていますが。
北欧のものはアーミンと呼ばれ、冬の真っ白な毛が王侯貴族に珍重されました。
イギリスではアーミンの毛皮は王室御用達で、今でも公式行事ではアーミンのガウンが使われます。
フランスではアーミンの毛皮を着るのは王侯貴族の特権とされ、中産階級の女性がアーミン・ミンク・リスの毛皮を着用することを禁止していました。



アーミンの白い毛皮で裏打ちされたマントを着た
1559年1月15日戴冠式当日のエリザベス1世。

なお王侯貴族が用いるマントには、数百匹の
アーミンが用いられたという。


※ 西村三郎「毛皮と人間の歴史」参照


 もちろんロシアでも、王族の衣服にアーミンを用いていました。
資料として、旅行家が残したイワン3世についての記述を紹介します。



 イタリア人旅行家のアンブロージョ・コンタリーニによる、イワン3世についての記述

「年齢は35歳くらいに見える。背が高く、やせていて、顔だちは整っている。(略)私に話しかけられたとき、公はじつに気さくに近づいてこられた。(略)私は公と1時間あまり、言葉を交わした。公は優しい態度で、アーミンで裏打ちされた金糸のすばらしい着衣を見せてくれた」


モスクワ大公国 イワン3世 (在位1462〜1505)

モンゴルの属国だった「モスクワ大公国」を独立させた。
このモスクワ大公国が、後にロシア帝国となる。



 アーミンって、今でも使われているお?

 この写真の通り、世界的な有名人も着ています。




     


 誰でつか、これ?

 スター・ウォーズのパルパティーンだお。


      パルパティーン元老院議長


 いえ、ローマ教皇ベネディクト16世ですよ。
教皇がサンタのコスプレをしているのですが、身に着けているのはアーミンの毛皮です。
ちょっとベネディクト16世のファンクラブから抜粋します。


The Ratzinger Fan Club
On the feast of the Immaculate Conception we saw the revival of the Ermine trimmed mozzetta.



 さて……前座はこれぐらいにして、そろそろ本命を紹介しましょうか。

 おおっ!?

 まずは海の毛皮の王者、ラッコです。



      ラッコ  See Otter


 ………

 ………

 まちがえました、こっちです。


      ラッコ  See Otter


 かわいいお!

 こんなのが毛皮の王者なんでつか??
いやまあ、たしかに水族館の人気者ではありまつが。

 ええ……北方にすむ動物は、防寒のために厚い皮下脂肪を持つのが普通です。
ましてや北の冷たい海にすむなら尚更でしょう。
なにせラッコがすむのはアリューシャン列島やアラスカ沿岸ですから。

 たしかにトドやアザラシといった海獣は太ってますね。

 しかしラッコは皮下脂肪がほとんどありません。

 んじゃどうやって防寒しているお?

 毛皮だけで防寒しているんですよ。
びっしりと生えた柔らかい毛のすき間に空気をためこみ、断熱材 & 海にプカプカ浮かぶ浮き袋にしています。
防寒の性能では、毛皮獣のなかではナンバー1です。



 「海からの世界史」 宮崎正勝 p130

一頭のラッコの毛皮は、大体8億本から10億本の綿毛からなっていると推定されている。その密度は1平方センチメートルあたり10万本から14万本で、世界中にそれ以上の密度の毛皮は存在しないのである。



 ラッコの毛皮の防寒能力が分かっていただけましたか?

 すごいでつね〜。

 またラッコは、他の毛皮獣とちがって群れで行動します。
そのため1つの群れに遭遇したら、大量の数を捕獲できました。
これはハンターにとって、まさに「濡れ手に粟」でした。

 ウハウハだお??

 ええ、ウハウハです。



 「シートン動物誌」 今泉吉晴 訳 第6巻 p335 ※シートン本人ではなくウォルター・テーラーの引用

「1880年に当地の海岸で捕獲されたラッコの毛皮は、1枚が平均80ドルで売られた。」


 1880年での80ドルって、いくらぐらいの価値でつか?

 このブログによると、橋を作る労働者の日給が2ドル25セントだったそうです。
1ヶ月働いたら、およそ50〜60ドルほど…1枚で労働者の月収を上回りますね。

 たった1枚で?!

 映画「ラスト・サムライ」では、トム・クルーズ演じる主人公が「月に500ドルもらえるのなら誰だって殺してやるさ」と、太平洋をこえて日本にいく場面がありますね。
つまり1ヶ月で6〜7匹を捕まえたら、それに匹敵する価値があるということです。
そして繰り返しますが、ラッコは群れで行動するので捕獲するときは一気にゴッソリ、でした。



 「シートン動物誌」 今泉吉晴 訳 第6巻 p325

チェース・リトルジョンはこう書いている。
「1880年から81年にかけて、白人と先住民は執拗なラッコ猟を組織し、6000〜8000頭のラッコを捕獲することで(赤面の至りですが、そのなかには私が捕らえたラッコも含まれています)、ラッコの激減に追い打ちをかけました。(後略)

この乱獲末期の状況について、チャールズ・タウンゼント博士はつぎの事実を明らかにしている。
(前略)フーパー船長が収集した、おそらくアラスカ貿易会社の記録にもとづくものと思われる資料によると、1873年から96年にアラスカ海域から出荷されたラッコの毛皮の総数は、5万8148枚にもになる……。(後略)



 ………

 参考までに…
1871年のレートは1ドル=90銭ですので…10年ほど空いていますが、80ドルですと72円になります。
1871年当時の日本では、巡査や大工さんの月収が5〜10円です。
ラッコの毛皮1枚で、日本なら半年から1年ほど暮らせますね。

 ちょっと、ぼのぼのを拉致って皮を剥いでくるお!!!!

 ラミエルさん、あなた本当に神に遣わされた使徒でつか?

 現在は保護されている動物ですので、やめて下さいね。
あと素人が狩りをすると、おそらく海の藻屑になりますよ。



 「シートン動物誌」 今泉吉晴 訳 第6巻 p353

「千島列島の海域は、吹きすさぶ強風と激しい潮流で四六時間中荒れくるっており、猟はたいへんな危険と困難がともないました。私は1人の猟師が、激しい潮流が引き起こす荒波にのまれるのを見ました。波のボートが一瞬直立し、ついで海に沈んでいったのでした。
この仕事では多くの人間が命を落としました。
何百人という猟師が長い年月をこの仕事に従事して過ごしたのですが、こうして生きのこり、今や絶滅寸前のラッコの生活と習性について自分の体験を記述できるのは、おそらく私ひとりでしょう。
私の知るかぎり、サンフランシスコから猟に出た最後の狩猟隊は、私の兄以下30人ほどの乗組員からなる遠征隊で、1889年に出港しています。しかし、おなじ目的で海を渡ったほかの多くの不運な船とおなじように、二度とその消息が聞かれることはありませんでした。



 ……ガクブク、ブルブル ((((((( ゜Д ゜;)))

 さて……では本日最後の毛皮獣を紹介しましょう。


 かってハンターたちに「走る宝石」と呼ばれ、その高貴な毛皮は「やわらかい黄金」と珍重されました。

毛皮獣の帝王、クロテン(Sable) です。




       クロテン(黒貂)  Sable



 ラッコとちがい、このクロテンは現在でも毛皮獣のチャンピオンとして活躍しています。

ユーラシア北部に生息して日本にもいますが、シベリア産が最高級品とされています。

 やっぱ高いんだお??

 ええ、ありえないぐらいに。

ちなみにこのクロテンのコートは36,000ドル(約432万円)だそうです。


 ←36,000ドル(およそ432万円)



 煤i ̄□ ̄;)

 そんなに素晴らしい毛皮なんでつかね??
クロテンの写真を見る限り、そこらの森にいそうな顔した動物でつが。

 クロテンそのものは日本にもいますよ。
しかし先に述べたように、同じ種類の動物でも寒くてうっそうと茂った森の方が毛皮の質が良くなるのです。
毛皮を扱っている会社で紹介されている、ロシアン・セーブルの購入者のコメントを引用しましょう。



 ロシアン・セーブル購入者の声 (毛皮ストール館 http://www.rakuten.co.jp/framboisier/ より引用)

「やはりロシアンセーブルは違いました。すごい気品に満ちている素材です。素晴らしいストールです。
残念だけど、今まで購入した毛皮が色あせて見えます。 」

『きゃ〜本当にやわらか!思いっきり頬擦りしましたよ!手を洗って、ばっちり洗顔してから!私は首が細くも長くもないけれど、とてもゴージャス。信じられないほど艶やか。見事なセーブルの大判マフラーでした。
あぁ、春なんて来なくていいよぉぉぉぉいつしよう?どこにして行こう???
でも、タンスの中にいるって思うだけでシアワセ♪』

『すごいの一言。やはり肌触りが違いました。ここ数年で毛皮に目覚めましたが、とうとうロシアンセーブルまできてしまいました。ミンクも良かったけど格が違います。なんかみんなに見られてるよう。今日から私もセ・レ・ブ



 ストールやマフラーでこれなんですから、コートを着た日には感激のあまり卒倒しそうですね。
高級なクロテンのコートには1千万円をこすものもあるそうで。

 ちょっとシベリアに行って、捕獲して皮を剥いでくるお!

 ラミエルさん、あなた本当に神に遣わされた使徒でつか?

 乱獲を防ぐために年間での捕獲数制限があり、また資格のあるハンターしか猟は許されていません。
あと素人さんはやめた方がいいと思いますよ。
クロテンを捕獲するのは冬毛が生えている時期ですが、東シベリアにあるヤクート共和国の1月の平均気温は-35℃。
場所によっては-70℃に達することもあります。
シベリア送りになった人は寒さで顔が凍りつき、顔をこすったら鼻がモゲ落ちたそうですから。

 ……ガクブク、ブルブル ((((((( ゜Д ゜;)))

 さてこのクロテン、やはり王侯貴族に愛用されました。
イギリスのエドワード4世などは、1456年に法令で


「貴族でない者がセーブルの毛皮を着用するときは10ポンド以上の科料に処す。」

※「科料」…軽微な犯罪に科す財産刑。


 …と、独占を図ったほどです。
もちろんロシアの王侯貴族も着用していました。
17世紀にロシアの宮廷を訪れた外交官の記録を見てみましょうか。



 アダム・オレアリウス(ホルシュタイン公がロシア宮廷に派遣した使節)の見た、皇帝ミハイル

「玉座にすわったツァーリは、あらゆる種類の宝石を散りばめ、大粒の真珠で刺繍をしたローブを身にまとっていた。黒貂(くろてん)の帽子の上に、大きなダイヤで飾られた王冠を重ね、手にはやはりダイヤを散りばめた黄金の笏をもっていた。」

※ミハイル…在位1613〜1645。ロマノフ朝の初代ツァーリであり、「大帝」ピョートル1世の祖父になる。



ミハイル・ロマノフ



 さて……そろそろ毛皮にまつわる歴史の話をしましょうか。


 本編の第一話では、ロシアという国はもともとモンゴルの属国であったと話しましたよね?

 キプチャク・ハン国でしたっけ。


   


 このモンゴル帝国はかなりの毛皮フェチでして…
住民はみな毛皮を着用し、武将も兜に毛皮をつけるほどでした。

 こんなカンジだお??




 いやそれ、どー見てもただの悪党ですが。

 んじゃ、こんなカンジだお?



 ゴメンなさい、こんな時はどんな表情をしたらいいのか分からなくて…

 そう言いながら蔑んだ目をするのは止めて下さい。

 こんなカンジです。
これは漢人の描いたチンギス・ハーンです。

チンギス・ハーン


 たしかに、頭に毛皮をかぶっていまつね。

 よく見たら服の袖口にも、毛皮が用いられているお。

 彼らモンゴルの貴人への献上品には、高級な毛皮がよく用いられました。
チンギス・ハーンの一代記『元朝秘史』にも、高級なクロテン(黒貂)の毛皮を贈る場面が出てくるそうです。


 またマルコ・ポーロの「東方見聞録」によると、フビライの宮廷では元旦節と毎月1回、合わせて年に13回の祝典が催されていました。
その祝典ではハーンから家臣に礼服が下賜されるのですが、その礼服にも同じように、袖口や裾に毛皮が用いられていたと思われます。

 ふーん。 …で、それがどうかしたお?
服に毛皮が用いられていることは、さっきの絵で分かったお。

 「礼服を下賜する」と簡単に言いましたが、重臣や武将は12,000人もいました。

 ってことは、すごい量の毛皮を消費していたことになりまつね。
しかも重臣や武将への下賜品でつから、そこらの犬コロの毛皮なんかじゃ駄目なんでしょう?

 はい、毛皮であれば何でもいいわけではありません。
モンゴルの貧民は狼や狐、猿(※)との毛皮を用いていましたが、貴人たちはクロテンといった高級な毛皮を用いたと思われます。

「猿」 …実際は猿ではなく、シベリア〜モンゴルの草原に多く生息するマーモットと思われる

 そんな大量の高級な毛皮を、どこから調達したんだお?
話からして、やっぱりロシアからだお??

 ええ、ロシアのような属国からですよ。
モンゴル帝国は、属国であるロシアの諸侯に対して毛皮を貢納させていました。
以下にローマ教皇の使節としてモンゴル帝国に赴いた使節団の団長である、修道会士ジョヴァンニの報告を見てみましょうか。



 「毛皮と人間の歴史」 西村三郎 著 p157-158

モンゴル人にとっては、黒貂や栗鼠(ケレム)などの獲物の多い土地こそもっとも価値ある好ましい場所だったのである。
彼らはみずから狩猟するほか、政略・征服した種族からも毛皮を貢納させた
(中略)
(ジョヴァンニ)とその一行はクラコウ、キエフ、南ロシアをへて第三代ハーンのグユクのもとへ赴いたのだったが、ロシアにいる間にグユク(※1)とバトゥ(※2)からつかわされた一人のイスラム教徒役人に会う。その役人は奴隷と貢租徴収のために来ているのだった。ジョヴァンニによれば、役人は、〔原住民に対して〕大人も小人も、その日に生まれた赤子でさえも、また富めるも貧しきも、一人につき次の(いずれかの)貢納を支払うよう命じた。すなわち、白熊一頭の毛皮、黒海狸〔ビーバー〕一頭、黒貂(クロテン)一頭、黒狐一頭、それにある種の動物(※2)の黒い毛皮を出せと言うのだ。これらのものを差し出さぬ者はだれであっても、タルタル人のもとへ連れていかれ、分配のうえ奴隷にされてしまうのだと。

※1 「グユク」…3代目ハーン。
※2 「バトゥ」…チンギス・ハーンの孫。
※3 「ある種の動物の黒い毛皮」…おそらくはマーモット。




 …とまぁ、モンゴル帝国の搾取はエグいものでした。
高価な毛皮を差し出さないと奴隷にされてしまうんですから。
もちろん逆らったら、容赦なく虐殺コースです。

 さすがユーラシアの暴れ者タルタル人だお。

 話はそれますが、どうしてモンゴル帝国は「偉大なハーンの帝国」とか言われるんでしょうかね。
絶対服従と過酷な貢納を要求し、逆らったら町ごと皆殺し。
貢納できなければ、さらって奴隷にする。
あんなのが偉大な帝国の業績ならば、十字軍による異教徒の虐殺だって偉大な業績になりますよ。
ヨーロッパの十字軍や帝国主義、奴隷売買が歴史の汚点ならば、モンゴルの征服もやはり歴史の汚点だと思うのですが。
白人が有色人種を征服・搾取するのは悪なのに、有色人種が白人を征服・搾取するのは偉大な事業なのでしょうか?
私には歪んだ差別主義にしか見えません。

 まぁまぁ、そーゆー政治的な話はなるべく避けるのが作者のスタンスなんだし。

 ………(避けているようには見えないお)

 コホン……


 しかしモンゴルの力が衰えると、ロシアは1480年にモンゴルから独立
259年にわたるモンゴルの支配『タタールのくびき』から脱出します。

1480年、ロシアの前身である「モスクワ大公国」は
モンゴル帝国(キプチャク・ハン)の支配から独立。



 ここは本編の第一話「膨張時代」で説明しましたよね。

 独立したら、もう毛皮を貢納しなくてもいいでつね。
これ以降はどうなるのでつか?

 もちろん毛皮を採り続けますよ。
毛皮はロシア(当時はモスクワ大公国)にとって貴重な外貨獲得の資源ですから。



 さてモンゴルの支配から独立したモスクワ大公国は、順調に領土を広げていきます。
緑が独立した頃の領土で、うすい緑がその後の1533年までに拡張した領土です。



 破竹の勢いでつね。

 モスクワ大公国が拡大できたのは毛皮のおかげですよ。
もともと地方の都市にすぎなかったモスクワが大公国として成長したのも、毛皮税(ヤサークと呼ぶ。毛皮にかける税金ではなく文字通り毛皮を徴収する税)といった租税の徴収権があったからです。
特にモスクワ大公国にとって重要だったのが、ノブゴロドを支配下においたことですね。
ここはロシアで取れる毛皮を各地に配送するための集配センターでしたから。

 主に北東にも領土が広がっているお。

 北東の部族を平定したことは、モスクワ大公国にとって大きな利益をもたらしました。

 でも、そこまでいくと北極圏に入ってしまいませんか?

 たしかに寒い場所ではありますが、そこは良質の毛皮獣の産地だからです。
当時のヨーロッパでは、良質の毛皮を持つ獣は乱獲で枯渇しており、ロシアの森林地帯で取れる毛皮は高値で取引されていました。
モスクワ大公国は北東の部族を平定することで、ウラル山脈より東の森林……シベリアの密林からもクロテンといった貴重な毛皮が送られてくるようになったのです。


 さて、ここでもう一度さっきの地図を見てください。
1533年のモスクワ大公国の領土です。





 なんで1533年なんて半端な数字で区切るんだお??

 1533年は、「雷帝」イヴァン4世がツァーリになるからですよ。

※または「イワン4世」

 自分の息子の脳天を鉄棒で叩き割った皇帝陛下でつね。

 自分の側近を「冷水と熱湯に交互に浸けてショック死させる」という方法で公開処刑した皇帝陛下だお。

 イヴァン4世からロシアの本格的なシベリア進出が始まります。
それまでのロシアにとって、ウラル山脈よりも東側はまだモンゴルのテリトリーで、簡単には手が出せませんでした。
それを打ち破って東方に出るのがイヴァン4世からなのです。
これはアメリカ大陸での開拓に匹敵する大事業といってもいいでしょう。
なにせシベリアは毛皮獣の宝庫であり、16世紀の末には全国家収入の1/3を占めるほどになるのですから。


 というわけで、次回はシベリア進出と毛皮ハントを話したいと思います。



→To be continue
→Top