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<反響特集> 満床、医師に「難民」と言われ

緊急呼び出し、分娩室へ/生活基盤整っても妊娠迷う

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長女の心花ちゃん(左)、二女の歩花ちゃんとくつろぐ小島早紀依さん(埼玉県入間市で)

 6日から9日まで連載した「生活ドキュメント お産崩壊」(4回)に、40通を超える手紙やファクス、メールが寄せられた。出産を経験した女性や医師の手紙から、産科医療の厳しい現実が浮かび上がってきた。

 埼玉県入間市の小島早紀依(さきえ)さん(26)は昨春、双子の女の子、心花(ことは)ちゃん、歩花(ほのか)ちゃんを出産。連載を読み、人ごとと思えなかったという。

 昨年1月、国立病院で、双子のへその緒が絡まる危険性があると告げられた。高いリスクを抱えた妊婦の受け入れ先として、医師は別の2病院に当たった。1か所は満床で、新生児集中治療室(NICU)を持つ埼玉医科大総合周産期母子医療センターに翌日出向くことになった。

 ただし、ベッドの空きは、行ってみないと確認できないという。「あした受け入れてもらえなかったらどうなるんですか」。小島さんに、医師は「どうもこうも、『難民』ですよ」。高リスクの妊婦は受け入れ先を見つけにくいという現実があった。

 「ここでしか救えない患者は、満床でも受け入れる」という埼玉医科大の医師の言葉で、やっと安心することができた。約1か月後、予定より3か月早く、帝王切開で766グラム、902グラムの双子の女の子を出産した。

 この4月に1歳になる双子を前に小島さんは語った。「誰もが安心して出産できる場がきちんと確保されることを願ってやみません」

 連載では主に、疲弊する勤務医の実情を報告した。しかし、「開業医も、勤務医同様、厳しい状態だ」と、東京・国分寺市でレディースクリニックを開業する佐藤力医師(38)は話す。

 茨城県内の大規模個人病院でほぼ1人で分娩(ぶんべん)をこなした末に心身共に疲れ果て、美容外科に転身、その後開業した。自分のクリニックでは妊婦健診のみで、分娩はやっていないが、個人病院で週2回、産科の当直に入る。手が足りない産科開業医からの緊急呼び出しにもこたえるなど、「助っ人」をこなしている。

 休診日で家族と外出していても、分娩手術で呼び出されることがある。この年末年始は、個人病院で“5泊6日”の当直勤務だった。佐藤医師は「分娩を扱う開業医も日々綱渡りの状態。特に分娩施設が次々に消えている私たちの地区では、開業医が自分たちで協力しあってお産を守っていくしかない」と話す。

 取材班に寄せられた便りの多くは、出産年齢期の女性から。切実な内容が多かった。

 茨城県の32歳の女性は「夫も30歳を過ぎ、やっと生活基盤が整って『子どもを』と考えても、お産環境が万全でない。ハシゴを外された気分」と、妊娠に二の足を踏む。

 疲弊する医療側を思う便りもあった。千葉県の女性は、「早産で入院した一昨年、いつ家に帰っているのだろうと思うほど多忙な産科医の現実に接した。献身的な医師や看護師のおかげで出産できたと感謝している」と書いた。

 「医療機関の頑張りにだけ頼るのは限界」(福岡県の30歳の女性)として、行政による対策を望む声も多かった。

 連載では、健診を受けずに、出産のために突然、病院を訪れる「未受診妊婦」が、お産の現場の混乱に拍車をかけている点も指摘した。東京都内に住む1児の母(24)は「望まない妊娠などで未受診のまま悩んでいる女性がいたら、勇気を出してすぐに受診してほしい」と呼びかけた。

(生活ドキュメント取材班)
2008年2月23日  読売新聞)

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