大流行になれば、多数の死者が出るとされる新型インフルエンザ。アジアで鳥インフルエンザ(H5N1型)の猛威が収まる気配はなく、いつ変異し、発生してもおかしくないといわれている。
政府は迅速に対応するため、感染症法と検疫法の改正案を国会へ提出した。与党もプロジェクトチームをつくり、自衛隊の活用などさらなる対策を検討している。健康被害を最小限に抑えられるよう、万全の備えを急ぎたい。
改正案では、発生が確認された直後から、患者の隔離や入院の勧告ができるようにする。エボラ出血熱やペストなど「一類感染症」に相当する措置だ。空港や港での入国チェックを厳しくし「感染の疑いがある人」も十日程度隔離する。
初期段階で封じ込め、拡大を防ごうという狙いだろう。患者を早く囲い込めば、流行のスピードを抑え、冷静に対応する時間を稼げるかもしれない。しかし、隔離される当人や家族にはショックだろう。混乱を防ぐためにも、事前に国民への啓発が不可欠だ。
新型インフルエンザは、ほとんどの人が免疫を持たないため、大流行の懸念がある。政府の推計では約三千二百万人に感染し、最大で約六十四万人が死亡する。だが、医療体制や治療薬などの準備も、まだ十分とはいえない。
政府の行動計画などによると、流行の初めは、感染症指定医療機関などに収容する。患者が増えてきたら、都道府県が一般の病院などに発熱外来を設け、重症者だけを入院させる。
広島県でも先月、保健所管内ごとに医師会や市町が発熱外来の協議を始めた。ただどこに設けるか、誰が診るかなど詰めるには時間がかかりそうだという。ピーク時に三百五十人もの医師が必要とされる。医師らに不安もあろう。国や県は防護体制を整え、不安を取り除く必要がある。
ワクチンは新型ウイルスを採取して作るため、半年はかかる。それまでは治療薬としてタミフルなどでしのぐしかない。国の想定する備蓄は約三千万人分。患者に行き渡るか疑問の声も出ている。
個人の準備も重要だ。外出を控えることが、最も効果的な予防策とされる。家庭でも災害時と同様、二週間分の食料や日用品の備えを頭に入れておこう。
社会がパニックに陥らない工夫も必要だ。心の準備をするとともに、地域ごとで万が一を想定した訓練も求められる。
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