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社説:指導要領改定案 揺れ動きが激し過ぎる
教育の大本がこんなに揺れ動いていいのだろうか。そんな思いにとらわれた人が多かったに違いない。文部科学省が公表した小中学校の学習指導要領改定案のことである。
学習指導要領は、子どもに教えなければならない教科や学習内容、授業時間数など教育課程の最低基準を示している。ほぼ10年サイクルで改定されてきたが、今回は一大転換といえる内容となった。
その筆頭は「ゆとり教育」の全面見直しである。「ゆとり」は1977(昭和52)年の改定で掲げられ、98(平成10)年改定の現行指導要領で明確に打ち出されたばかり。その基本路線を180度転換しようというのである。
教育も時代とともに変わり得る。しかし、教育は「百年の大計」であることを忘れてはならない。その観点に立ち戻れば、ゆとり教育に対する十分な検証・総括がないままの転換は、浅薄のそしりを免れない。
文科省にはどだい、教育行政をつかさどるだけの確固たる「教育哲学」があるのか。そんな疑問さえわき起こってくる。
学力低下批判に何とか応えようという意図は分からないではない。ただ、授業時間数や学習内容の増加を柱とする改定案が「適切な処方せん」であるかどうかといえば、やはり疑問符を付けざるを得ないだろう。
授業時間を増やせば学力が向上する保証はどこにもない。世界的には学力評価の高い国の方がむしろ授業時間が短い傾向にあるのだ。いわば「質」の問題を「量」でカバーしようとしてもうまくいくかどうか。
しかも改定案は、知識の習得と同時に言語力の育成を前面に押し出すなど、以前にも増して高い次元の目標達成を課している。見方によってはかなり欲張りな内容なのである。
目標が高ければ高いほど、実現するには周到さが欠かせない。改定案でいえば、一人一人の子どもに教員の目が行き届き、教材研究の時間も十分取れるような環境が必要だ。
しかし、そんな教育現場は極めてまれ。ないと言ってもいいだろう。忙しさに追われ、「ゆとり教育」に目鼻がついたと思ったら、今度は「ゆとり転換」。戸惑わない方がおかしい。
教育現場に創意工夫が求められるのは言うまでもない。同時に、現場が存分に創意工夫を発揮できるよう、文科省には教員増をはじめとする環境整備が重い宿題として残る。
道徳教育の強化も気になるところだ。子どものモラル低下が顕在化する中、規範意識を身に付けさせるという意味に限れば、理解できなくはない。
しかし、今回の強化は改正教育基本法を背景にしており、場合によっては特定の価値観を押しつけかねない危うさを秘めている。その点は頭に入れておかなければならない。
教育は学校だけでは完結しない。しつけを含めた家庭教育がしっかりしてこそ成り立つ。
学校教育が今後、どう変わっていきそうなのかをにらみつつ、家庭教育という足元をいま一度見つめ直す。学習指導要領の改定をそんなきっかけにするのもいいかもしれない。
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