千葉・野島崎沖で起きた海上自衛隊のイージス艦「あたご」とマグロはえ縄漁船「清徳丸」の衝突事故で、艦橋や戦闘指揮所(CIC)にある水上レーダーのモニターに、清徳丸の船影を特定する作業をした形跡が残っていないことが分かった。事故直前に当直が交代したこともあり、運航責任者の当直士官やモニターを専門にチェックする担当者らが、周辺船舶の動きを監視する作業を怠っていた可能性が高い。横須賀海上保安部などは、見張り員の視認情報が伝わらなかったことと併せ、乗組員の確認状況などを調べている。
【図説特集】
イージス艦「あたご」衝突事故を検証
関係者によると、あたごのマストには、半径20〜30キロの船影をとらえられる水上レーダーが2基設置されている。レーダーでキャッチした情報をモニターする装置は当時、当直士官や航海科員ら10人がいた艦橋と、作戦の中枢で7人が配置されていたCICに、それぞれ一台ずつ設置されている。
当直士官らは、電波が反射している場所を発見し、探査する範囲や感度を調整しながら船影として確定。CICにはモニターを専門に監視し船影を特定する「電測員」がいて、特定すれば航跡が確認できる仕組みになっている。CICなどからの情報で、当直士官が操舵を最終的に判断する。
ところが、今回の事故前、あたごのレーダー機器に清徳丸の船影を確定する作業をしたことを裏付ける記録は残っていなかった。衝突12分前、清徳丸の灯火を確認したという見張り員からの情報が伝わらなかっただけでなく、当然行わなければならないレーダーでの監視を当直士官らが怠っていた可能性が高い。
事故直前に当直が交代していたが、護衛艦乗船経験のある自衛官は「基本的に画面にモニターされた船影はすべて特定する必要があるし、特定されたデータも引き継がれるはず」と話している。
自衛隊の艦船の場合、民間の船のように事故前の速度や方位を記録できる航海情報記録装置の設置は義務づけられていない。あたごの場合もこうした航海記録がなく、石破茂防衛相は22日の国会審議で、問題点として指摘している。【本多健】
【記事特集】
イージス艦「あたご」衝突事故
【写真特集】
イージス艦「あたご」衝突、漁船沈む
【関連記事】
イージス艦事故:不明父子の親族、現場の海に
【関連記事】
イージス艦事故:捜索阻む強風、「時間が…」焦る漁協仲間
【関連記事】
イージス艦事故:海洋調査船「かいよう」現場調査開始