第17回 師匠
さんま 昔ね、うちの師匠(笑福亭松之助)
から言われて、
これは助かったなということがありまして。
糸井 はい。
さんま 我々の弟子稼業というのは、
掃除をさせられるじゃないですか。
で、掃除をしていると師匠が、
「それ、楽しいか」って言うんです。
「いいえ」って答えると「そやろ」って。
「そういうのが楽しいわけがない」と、
おっしゃるんですね。
糸井 うん、うん。
さんま そのときに、師匠に、
「掃除はどうしたら楽しいか考えろ」
って言われたんですけど、そこでしたねぇ。
あの、掃除なんて、
楽しくなるわけがないんですよ。ところが、
「楽しくなることを考えてることは楽しい」。
っていうところにね、
18歳のときに気づかせていただいたのが
非常に助かりましたね。
糸井 あーーー、それは、
いい師匠を得ましたねぇ。
さんま ええ、ええ。
これは、やっぱりものすごい助かりましたね。
とくに我々はお笑いやりたいから、
そこはスッと一所懸命できたんです。
けど、たぶん、そうじゃないふつうの人は、
「掃除は楽しくない」
というところでやめてしまう人が
多いんじゃないかと思うんですけど、
楽しくないものをどうすれば楽しいか、
ということを考えていくと楽しいんです。
糸井 それを考えてるときは、
もう、楽しいんですよね。
さんま はい。それやらない人、多いんですよ。
いまの若手とかにもね。
糸井 「楽しくなることを考えていることは楽しい」
それは、ハズレくじを引くどころか、
ハズレくじを引いて、
それをどう笑うかを考えてるわけですよね。
さんま そうそうそう。
そこにたどり着くことが、
さっきの夢と現実の話じゃないけど、
「入れ換える」ことなんですよ。
糸井 それを18のときに教えられたというのは、
やっぱり、大きなことですね。
さんま そうなんです。
糸井 はぁーー。
あの、ぼくはときどき、
松之助師匠のブログを読んでるんです。
まず、あの歳でブログをはじめられたというのも
すごいことなんですけど。
さんま いや、すごい人ですよ(笑)。
糸井 それを読むと、師匠のほうも
「さんまさんに勉強させられた」
っていうことを書いてらっしゃるんですよ。
さんま あ、そうですか。
糸井 あの、ぼくは思うんですけど、
たぶん、さんまさんって、師匠にとっては
なんでもない子だったと思うんですよ。
さんま はいはいはい。
糸井 どんなにすごくったって、
噺家の芸としてではないわけですから。
でも、師匠は、そんなさんまさんのことを
「勉強になる」と思って見ていたみたいですね。
さんま (笑)
糸井 やっぱり、
自分の問題として書いてるんですよ。
「さんまが、どうサボったか」
みたいなことでも。
さんま クワー(笑)。
糸井 おもしろいというよりは、
この師弟は、おそろしいなと思った。
さんま そういうことばっかり、
師匠としゃべってましたからね。
18歳のときに。
だから、あのときのね、
録音テープがあったら欲しいですね。
18のぼくと、うちの師匠としゃべってるのを
ずっと回しとけばよかった。
糸井 師匠といま会ったら、
どういう話になるんですか。
いまだと、世間話になっちゃうんですか。
さんま いや、ずっと世間話ですよ。
いまも、そのときも世間話なんですよ。
糸井 ああ、いいですねぇ、それは。
さんま 最近のやりとりは手紙なんですけどね。
なにかというと手紙を送ってくださるので。
糸井 いまも手紙が届くんですか。
さんま はい。すごい量ですよ、手紙は。
糸井 うわぁ、たまんないですねぇ。
そんな人がいるってすごいですね。
さんま いや、ぼくはもう、
ほんとうにすごい出会いを
させてもらったと思ってます。
糸井 すごいですね。
その人がいるかいないかで、
さんまさんの人生の軸があるかないかが‥‥。
さんま あ、もう完全に違いますね。
糸井 ですよね。
それなしで、いまと同じこと言ってても、
きっともっとふわふわしてますよね。
さんま はい。これはやっぱり、
出会ったっちゅうのが大きいというか、
うちの師匠をチョイスしたっちゅうのが、
ひとつの大きな縁ですし。
糸井 縁ですねぇ。
さんま けっきょく、たったひとり、
ぼくだけですから。弟子は。残ったのは。
糸井 はぁーーー。
さんま あとはぜんぶやめましたから。
息子さんがふたりいらっしゃるんですけど、
ひとりは、バレリーナです。
糸井 バ、バレリーナ(笑)。
さんま バレリーナなんですよ(笑)。
あの、師匠の家の前にバレーの教室ができてね、
そこの先生がキレイな人で、
それを、ちいちゃいころから見てたから、
バレリーナになっただけのことなんです。
だから、たぶん、その教室ができなければ、
彼は落語家になってたと思うんですけど。
糸井 いい話だなぁ(笑)。
さんま すっごいですよねぇ。
そう考えると、やっぱり縁で。
ぼくがうちの師匠に出会ったのもね。
糸井 大きいですね。
その話は、とっても聞いててうれしいですね。
なんていうのかな、いろいろな話が
さんまさんからパァっと広がっていくときに、
真ん中に1本、大きな塔が立ちますね。
さんまさんという景色が安定するというか。
さんま あ、そうですか(笑)。
糸井 うん。そういうのはまあ、
テレビで言う機会もないでしょうけど、
さんま ないですねぇ、ほんとに。ええ。
糸井 ぼくらはここで拾えて
本当によかったですね。うれしいです。
さんま あ、そうですか。
いやもう、そう言っていただけると。
糸井 こんな話ができてよかったです。
‥‥もう、ぼちぼち、時間もいっぱいですね。
さんま ああ、すいません。
糸井 「眠り」からはじまって、
だいぶん逸脱しましたけど。
さんま 大丈夫ですかね。
糸井 いや、ぼくらは、あの、
このくらい広がったほうが
いいくらいだったんで。
それはきっと、読んでる人も。
さんま あ、そうですか(笑)。
糸井 またもし機会があったら。
さんま いえいえ、もう、ぜひ。ほんとうに。
糸井 ありがとうございました。
さんま いえ、こちらこそ、
ありがとうございます。
糸井 ありがとうございました。
さんま いえいえ、もう。
糸井 こんなにキレイに終わっていいんだろうか。
さんま クワー(笑)。
  (さんまさんとのお話は、これで終わりです。
 お読みいただき、どうもありがとうございました)
 

2008-02-12-TUE

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN