【ソウル中島哲夫】韓国の盧武鉉(ノムヒョン)大統領の任期が24日、満了する。多くの国民の意にかなう内政を展開できず、外交面でも摩擦を引き起こし、否定的な印象を広げてしまった5年間だった。後世の評価はともかく、現時点の韓国では「成功できなかった大統領」という総括が支配的だ。
●自賛に批判
盧大統領は22日、青瓦台(大統領官邸)担当記者団と歓談し、聯合ニュースによると焼酎を混ぜたビールで乾杯もした。「5年間はとても大変だった」「一番の望みは勝負の世界を離れること」などと感慨を語る一方、大統領を務めたことを「政治的に大きな成功をした」と自賛した。
しかし、客観的評価は厳しい。朝鮮日報が21日報じた韓国ギャラップ社の世論調査によると、盧大統領の国政運営について「よくやった」との回答はわずか21・1%、「よくなかった」が63・2%だった。「5年前に当選したのが間違いだった」という回答も49・7%に達した。
●理念が先行
不人気の原因について盧大統領は「言葉と態度の品位」に問題があったと認めたことがある。例えば政権末期のメディアとの対立でも「けんか腰」が目立った。もう少し穏当な姿勢であれば、反発は緩和されただろう。
だが、国内外で起きた摩擦の主因は、品位というより理念(イデオロギー)だった。
青瓦台など政府機関や国会に「反米・反日、親北朝鮮」の傾向が強い80年代の学生運動出身者が多数布陣して大統領を支えた。彼らが「米韓同盟を維持するのは米国に北朝鮮を攻撃させないためだ」などと言っているのを米政府は知っていた。韓国のイラク派兵や米韓自由貿易協定(FTA)交渉妥結、米国の対北朝鮮政策変更などで米韓関係はようやく極端な悪化を免れた。
対日関係でも盧大統領は、竹島(韓国名・独島)の領有権紛争を歴史問題にしてしまうなど、常識を超える論理と激越な表現で非難した。北朝鮮の核問題や拉致問題をめぐる日韓の食い違いも深刻化。それでも増える人的交流や韓流ブームに両国関係は救われた。
●離れた民心
盧政権はその基本理念から、福祉充実、弱者救済を実現したかったはずだ。しかし、年率4%台の一見好調な経済成長の陰で起きたことは、企業間・個人間の格差拡大、非正規職の増加、若者の就職難、住宅価格高騰など、庶民がますます苦しむ事態だった。
この5年で大型汚職をはじめ不正腐敗の減少、金権選挙の改善、外交文書公開など肯定的に評価できる成果も確かにあった。しかし多数派国民の豊かな暮らしへの願いは強く、「理念の政治」は復活困難なほどに支持基盤を失った。
毎日新聞 2008年2月23日 東京朝刊