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【社会】

見張り員伝達怠りか イージス艦 清徳丸発見当直交代の直後

2008年2月22日 朝刊

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 海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」が千葉県・房総半島沖でマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突した事故で、衝突十二分前に清徳丸を発見したあたごの見張り員が、この情報を他の当直員に伝えていなかった可能性が出てきた。その後、この見張り員は清徳丸を見失ったとみられ、再び灯火を発見するまで、十分間の空白が生まれた。回避が遅れた背景に、情報伝達の不備があった疑いが強まった。清徳丸の父子は依然見つかっていない。 

 艦橋から張り出した外の甲板にいる見張り員と艦橋内との連絡は、通話機が付いたヘッドセットで行う。ヘッドセットを着けているのは、左右の見張り員一人ずつと艦橋で水上レーダーを監視するレーダー員、それに下の階にある戦闘指揮所(CIC)にいるレーダー員の計四人。

 見張り員が発見した船舶の情報は、水上レーダーで確認するため、必ずレーダー員に伝えなければならない。艦橋のレーダー員がこれを復唱し、情報は艦橋にいるすべての当直員が共有できることになる。仮にレーダー員が復唱しなければ、見張り員が復唱を求めることになっている。二十一日までの海自の調べに右舷の見張り員は、十九日午前三時五十五分に清徳丸の白と赤の灯火を発見したと話した。距離は余裕を持って監視を続けられる約四キロメートルとみられる。さらに双方が接近すれば「警笛を鳴らす」「かじを切る」などの回避措置が必要になる。

 事故当時、当直員は十人いた。仮に衝突の十二分前に清徳丸発見の一報が艦橋内に伝われば、全員の注意が清徳丸に向き、今回の事態は避けられた可能性が高い。

 だが、あたごは清徳丸に注意を払うことなく、自動操舵(そうだ)のまま一〇・五ノット(時速約一九キロ)で航行。衝突二分前になって同じ見張り員が緑の灯火をみつけるが、清徳丸と認識できず、一分前になって当直士官が後進いっぱいを命じ、手動操舵に切り替えた。これは「全舷停止、かじ中央」と呼ばれる最後の緊急避難措置にあたる。

 当直員の交代は午前三時四十五分ごろ行われ、十人全員が交代。右舷見張り員が清徳丸を発見したのは交代直後だった。

海自側の回避義務濃厚

 千葉県・房総半島沖で、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が、マグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突した事故で、第三管区海上保安本部(横浜市)は二十一日、清徳丸に残された塗膜片などや破損状況から、あたごの艦首が清徳丸の左舷に衝突したと断定した。三管本部では、あたご側に海上衝突予防法に基づく回避義務があったとみて調べている。

 三管本部が行った清徳丸の実況見分によると、分断された船首左側の破断面からは、あたごのものとみられる灰色の塗料が採取された。塗料が付着していた破断面は清徳丸の操舵(そうだ)室の真下にあたり、あたごの艦首が操舵室を直撃し、一気に船体を切断した可能性が高い。状況などから、あたごは前方を右側から左側に航行する清徳丸の船腹に直角に近い状態で衝突したとみられ、回避義務はあたご側にあったとみられる。

 一方、三管本部の調べによると、午前四時前に、当直任務にあたる乗組員が交代。この当直交代が事故に何らかの影響を与えた可能性もあるとみて、乗組員らから引き続き事情を聴いている。

 また、回収された清徳丸の衛星利用測位システム(GPS)二台は海水に浸っていたため、解析は極めて困難という。

 

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