現在位置:asahi.com>社説 社説2008年02月23日(土曜日)付 皇室問題―長い目で見守りたい息子夫婦が孫をちっとも連れてこない――。こんな愚痴は世間ではいくらでもある話だ。ただ、これが天皇家のこととなると、いささか事情が違う。 天皇、皇后両陛下が、皇太子さまの長女愛子さまに会う機会が少ない。もっと会う機会をつくっていただきたい。 このように皇太子さまに苦言を呈したのが宮内庁長官だった。 これに対し、皇太子さまが誕生日の会見で、「できる限り心がけてまいりたい」と語った。だが、実家へ足が遠のく理由については「プライベートな事柄なので、これ以上立ち入ってお話をするのは差し控えたい」と答えを避けた。長官の発言への反発も感じ取れた。 この話は、天皇陛下が一昨年の会見で、愛子さまと会う機会が少ないとこぼしたのが発端だ。陛下と皇太子さまがじっくり話せば解決できる問題のように思えるが、そうならないところを見ると、もう少し根が深いということだろう。 お二人の関係がぎくしゃくしているのではないかと思われるようになったのは、04年の皇太子さまの「人格否定」発言のころからだ。皇太子さまが「雅子の人格を否定するような動きがあった」と語ったのに対し、陛下が「初めて聞く内容だ」として国民への説明を求めた。 さらに、あるべき皇室像や公務のつとめ方をめぐり、弟の秋篠宮さまも加わって、意見の食い違いが表面化した。 たしかに陛下の苦悩はさぞ深いことだろう。70代半ばを迎え、がんとの闘病を続けながら多忙な公務をこなす。皇后さまの体調も芳しくない。自分の後を継ぐ皇太子さまに、こうあってもらいたいという思いはたくさんあるだろう。 一方、皇太子さまもつらい立場だ。「全力でお守りする」と雅子さまに誓ったご結婚から15年を迎えた。心身の不調に悩む雅子さまを守り続けるだけで精いっぱいなのかもしれない。 天皇、皇后両陛下と皇太子ご夫妻のどちらの立場に寄り添うかは、それぞれの世代や環境、価値観などによって違うだろう。週刊誌などでは、それぞれの立場からの意見や批判がにぎやかである。 だが、こんなふうには考えられないだろうか。皇室の歴史をひもとけば、いつの世も悩みを抱えていたはずだ。皇室の中で様々なきしみがあり、いつも理想的な家族を演じてきたわけではない。 いま憲法で日本国と国民統合の象徴と位置づけられている天皇は、多くの国民の理解と支持なしにはありえない。しかし、皇室に対して国民が期待することは時代によって変わるし、国民の家族観も親子のあり方も変化していく。 そうした時代と社会の移り変わりの中で、伝統を後世に伝えつつ、新たな伝統をつくろうと苦しんでいるのが、いまの皇室ではないだろうか。 長く複雑な歴史を背負ってきた皇室である。ここは穏やかな日々が戻ることを、長い目で見守っていきたい。 日米密約裁判―政府のウソはそのままか「公務員が主権者の代表である国会をだます。これ以上の政治犯罪はないのに、司法は行政に組み込まれてしまった」。元毎日新聞記者の西山太吉さんはこう怒りをあらわにした。 沖縄返還協定の裏で日米両政府が取り交わした密約をめぐり、西山さんが国を相手に起こしていた損害賠償請求訴訟で、東京高裁が請求を退けた。 裁判の焦点は、日本政府が30年以上、国会や法廷で繰り返した「密約はない」というウソを裁判所が認めるかどうかだった。東京高裁は判断を示さず、請求権がないとの法律論で門前払いした。 密約は、返還に伴う費用のうち米国分の400万ドルを日本が肩代わりするとの内容だ。西山さんは密約を裏付ける文書を入手し、それをもとに野党議員が国会で追及した。だが、政府は否定した。 その後、米国立公文書館の資料で密約の存在が確認された。交渉責任者の元外務省アメリカ局長も一転して密約を認めた。それでも政府は否定し続けた。 西山さんは、外務省の女性職員から文書を入手したことを理由に、国家公務員法違反(守秘義務違反のそそのかし)で有罪となった。「文書は国家権力の組織犯罪を示す証拠であり、機密として保護に値しない。起訴は不当だった」というのが、裁判を起こした理由だ。 東京高裁は、一審判決と同じく、不法行為から20年がすぎると賠償を求めることができないという民法の「除斥期間」の規定をあてはめた。 いつまでも請求する権利を認めておくと、相手はいつ訴えられるかわからず、永久に不安定な状態に置かれかねない。除斥期間はそうしたことを避けるのが狙いで、時効とよく似た考え方だ。 たしかに西山さんが提訴した時点で、起訴や刑事裁判での政府側の証言からすでに20年が過ぎていた。しかし、そうした公務員の行為に除斥期間を適用すべきなのだろうか。 最高裁は昨年、自治体が在外被爆者に健康管理手当を支給しないのは違法と認定した。その際、「行政が国民の権利の行使を違法に妨げた場合には、時効を主張できない」との判断を示した。 法令を守るべき公務員が不法行為をしたときは、時効や除斥期間で責任を逃れることはできないということだろう。この考え方でいけば、今回の裁判でも除斥期間を適用せず、密約がなかったのかどうかを正面から判断すべきだった。 東京高裁は政府側の証人調べも拒んだ。これでは真相解明から逃げていると批判されても仕方あるまい。 西山さんには、取材方法にも、文書の写しを野党議員に渡したことにも疑問がある。だからといって、政府がいつまでもウソを言い続けていいわけがない。 政府が間違ったことをすれば、それを正すのが裁判所の役目だ。西山さんは上告するという。最高裁までが除斥期間で逃げるようなことはないと思いたい。 PR情報 |
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