岡山大名誉教授の近藤義郎さんと元中学校長の中村常定さん共著の「地域考古学の原点 月の輪古墳」(新泉社)を読んだ。
月の輪古墳は、岡山県美咲町飯岡、大平山(三二〇メートル)の頂上にある。一九五三年、地域住民ら延べ一万人が参加した発掘調査で全国に知られる。その時、近藤さんは若き考古学者、中村さんは地元の中学教師。
「村の歴史の真実は自分たちの手で明らかにしていきたい」。近藤さんの現地踏査を機に、村民有志が声を上げた。この思いに村と村民が一致。希望する人はだれでも発掘に参加できるという方針を立て、専門家の協力を得て実現した。
畑からよく土器片が出土し、山麓(ろく)にも古代の遺跡が多い飯岡村は、もともと歴史への関心が強かったらしい。発掘に集まったのは、農民、鉱山労働者、主婦、教員、中高生ら。毎夜の学習会は熱気に満ち、老人たちは米一升、麦二升と、カンパを持ち寄ったという。
「…それにしても こんなに高いところへ えらかったろうな」。中学生は古墳を築いた人を思い、詩に書いている。
この出来事を、近藤さんは「国民的歴史学運動の貴重な実践」、中村さんは「月の輪運動」と呼ぶ。地域が主体の“地域考古学”が半世紀前、月の輪にはあったのだ。しかし、今、考古学の世界は専門分化され、地域は過疎・高齢化がいちだんと深刻化しつつある。
「原点を忘れるな」と、八十代の二人の著者は叫んでいる。考古学への、そして地域への“喝”に違いない。
(編集委員・清水玲子)