四月に予定されている中国の胡錦濤国家主席の来日に向けて日本を訪れている唐家〓国務委員(外交担当)は、福田康夫首相と日中間に不信を生んでいる中国製ギョーザ中毒事件などについて会談した。
小泉純一郎元首相当時に冷えきった日中関係だが、安倍晋三前首相と温家宝首相の相互訪問、さらには昨年末の福田首相の訪中で改善への歩みを強めつつある。中国の国家元首として約九年半ぶりとなる胡主席の来日は、新たな日中関係構築への大きな弾みになると期待されている。
地ならしを中国きっての知日派で、三月には国務委員を退く大物の唐氏に託した。中国側の力の入れようがうかがえる。友好ムードに水を差したのが有機リン系殺虫剤メタミドホスによる中国製ギョーザ中毒事件である。その後、食品汚染も冷凍サバや肉まん、かつなどへ広がり、検出される薬剤の種類も増えた。消費者の不安は募る一方だ。
会談では、福田首相が真相究明のため日中両国が緊密に協力する必要性を強調した。唐氏は被害者への見舞いの気持ちを示すとともに、食の安全をめぐる日中間での中長期的な協力の枠組みを構築したいとの考えを表明した。この事件に関して、中国高官が公の場で政府の姿勢を直接示したのは初めて。事態の重要性を認識してのことだろう。
ギョーザ中毒事件をめぐっては、真相が明らかにならない中で日中双方が互いへの疑念を募らせている。事件を長期化させて国民感情を悪化させてはならない。今回、日中の警察当局による情報交換会議が行われた。近く捜査協力の在り方を協議するため警察庁次長が中国に向かう。唐氏が示した日中の協力枠組みを具体化させて情報を共有し、双方が国を挙げて早期解決と再発防止に取り組む時だ。
日中間に横たわる課題は、ギョーザ中毒事件以外にも多い。東シナ海のガス田開発問題も、その一つ。福田首相が早期解決の重要性を説いたのに対し、唐氏も早い決着へ努力することを表明した。
しかし、日中両国はガス田の共同開発では一致しているが、どの海域で実施するかという具体的な詰めになると難航してきた。進展が期待された昨年末の福田首相と胡主席の首脳会談でも、早期決着を目指して協議を継続することを確認したにとどまった。
日中が共通の利益を追求する「戦略的互恵関係」確立へ重要な場面を迎えた。歩みを後退させてはならない。直面する課題に双方が向き合い協力して解決に当たることが肝要だ。胡主席の来日へ向け課題解決の機運を高めたい。
〓文字は、(王)へんに(旋)です
米政府は、制御不能となった偵察衛星を洋上からの戦術ミサイルによって大気圏外で破壊した。心配されたスペースデブリ(宇宙ごみ)の拡散は最小限にとどまるとの見解も表明した。
偵察衛星は二〇〇六年の打ち上げ直後から遠隔操作ができなくなっていた。次第に高度が下がり、落下する見通しになった。衛星には、姿勢制御などの燃料として毒性が強く発がん性も指摘されるヒドラジンが満載されたままで、米政府は燃料タンクが燃え尽きずに地上に落下した場合、汚染された地域では人命にかかわる恐れもあることから、衛星破壊を決断したとする。
発表によると、北太平洋上のイージス艦から迎撃ミサイルを発射し、上空約二百四十七キロで衛星を撃破した。高度な軍事技術であるミサイル防衛システムを応用した衛星破壊の試みは初めてだ。
米国は「人命を救うための緊急対応」と強調するが、最先端の宇宙軍事技術を誇示する狙いがあったのではとの疑念が持たれている。ロシアは、衛星攻撃兵器の実験であり「新たな戦略兵器の開発を意味するものだ」などと強い懸念を表明している。
衛星破壊をめぐっては、中国が昨年一月に自国の気象衛星を弾道ミサイルで破壊する実験を行った。米国はじめ国際社会は、宇宙軍拡競争の引き金になるほか、破壊された衛星の破片が宇宙空間に飛び散り有人飛行を危険にさらしたなどと批判した。今度は、米国が同じ非難を浴びても仕方なかろう。
本当に軍事目的はなかったのか。米国は国際社会の疑念払しょくに、宇宙ごみの発生状況など事後の説明責任を果たすとともに、宇宙の平和利用精神の尊重が求められる。
(2008年2月23日掲載)