全国で初めて必修化された県立高校の道徳に、異議が出た。県高校教職員組合は21日、テキストに天理教の布教内容が含まれているとして、「憲法違反」を主張。県教委に削除を申し入れた。価値観やモラルを扱う道徳教育の難しさが改めて浮き彫りになり、教育現場に波紋が広がりそうだ。
 道徳は今年度から必修化され、テキスト「ともに歩む―今を、そして未来へ―」は県立高校105校で使われている。
 問題になったのは、筑波大名誉教授の村上和雄氏の著書から引用された「生命(いのち)はゼロからつくれない」=抜粋参照。ここに出てくる「サムシング・グレート」について、村上氏は別の著書で、天理教の「親神様」のことを言い換えている。高教組はこの点を問題視し、「今回の問題は道徳教育に赤信号をつける。必修科目であり、県教委はテキストの作成をもっと慎重にすべきだった」と指摘する。
 一方、県教委は「命の大切さは色々な角度からみる必要があり、道徳の資料として適切」とし、テキストには「問題ない」との立場をとる。
 現場の思いは複雑だ。県南の高校の道徳担当教諭は「このテキストを一読しただけでは分からなかった。布教目的であるならば削除されても仕方がないとも思う」と話す。また、別の教諭は「できあがったものを見ているだけで、(この問題を)どうとらえればいいのか分からない」と困惑した様子で話した。
 道徳教育学に詳しい千葉大大学院の上杉賢士教授は一般論としたうえで、「道徳は一定の方向性をもちがちなため、宗教の微妙な表現もなるべく避けた方がよい」としている。
【道徳テキスト抜粋】
 (略)地球上に存在するあらゆる生き物、カビなどの微生物から植物、動物にいたるまで、少なく見積もっても2百万種、多く見積もると2千万種と言われていますが、これらすべてが同じ遺伝子暗号によって生かされているのです。
 こうした奇跡的な現実を前にしたら、どうしてもサムシング・グレートのような存在を想定しないわけにはいかなくなります。
 サムシング・グレートとは、具体的なかたちを提示して、断言できるような存在ではありません。どのように思われても、それは自由です。
 ただ、私たち生命体の大本にはなにか不思議な力がはたらいていて、それが私たちを生かしている、私たちはそういうものによって生かされているという気持ちを忘れてはいけないと思います。
(略)