気絶したのどかが慌ただしく運ばれて行く。
 彼女には古菲と楓が付き添った。 これで場に残ったのは、木乃香と刹那、朝倉、エヴァに横島たち3人と詠春だけになる。

「で、どう言う状況なんだ、近衛詠春?」

「ここの設備と人員でも、今回の相手の石化呪文だけなら何とか出来ました。
 問題は、何故か彼女だけそれで済ませて貰えていなかった事です」

「と言うと?」

 手の出せない状況なぞ、なまじ知識が有るだけに幾通りも浮かぶ。

「まるで彼女だけ特別だったとでも言うように、石化したその上で身体を壊されていたんです」

「…なるほど、な」

 父親たちのそんな会話に、木乃香も意識を飛ばし掛けて、すぐに後ろを振返った。

 そう、まだ彼女が頼れる人間は残っている。
 あれほど派手に魔法を操ったエヴァ。 そんな彼女すらも治せなかったネギを、いとも容易く治してみせた。
 そんな男が、今、ここに居るのだ。

「横島さん」

 歩み寄ると、縋る様に彼女は横島に抱き付いた。

「おう、任せとけ。
 未来の美女だ、何が何でもなんとかすっから」

「…うん、お願いや」

 お腹に顔を押し付けたまま何度も頷く木乃香の頭を、横島は優しく撫でた。

 長い事離れていた娘を見詰める詠春と、未だ彼女との距離を計りかねている刹那とが、そんな二人の様子に複雑な思いを抱え顔を強ばらせていた。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その32   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「こちらです」

 道場のような床張りの部屋。
 その中央に据えられた、棺のような白木の箱の上に彼女は横たえられていた。

 出来るだけ綺麗に拾い集められたのだろう。 上半身と下半身の間に、細かな破片が小さな山を形作っている。 それが変なリアリティを増していて、ただそれだけで凄惨なイメージを演出していた。

 朝倉は、眉を顰めつつもクラスメートの成れの果てを真っ直ぐ見詰めた。

「…ゆえ吉」

 思わずその名が零れる。
 この少女は、のどかと朝倉を逃がす為にあの場に残り、そしてこうなったのだ。

 たとえ夕映が、端からそう言う役目を担っていたのだとしても。
 真実に向き合うジャーナリストとして、この現実から目を瞑る訳にはいかない。
 そして何より、クラスメイトの、友の一人として、この姿から目を逸らしてはならない。

 自分が何に足を踏み込んだのか、これからどうするべきなのか。
 それを考えながら、朝倉はただただこの姿を目に焼きつけた。

 他の少女たちも、この状況には声も無い。

「お姉様…」

「これは… いくら横島さんでも…」

 高音や愛衣、エヴァらの魔法使いたちにしても、実際に見にすれば言葉詰る状況だ。
 石化に対処するすべ
 石化に対処する術は、実際の所かなりの数が知られている。
 勿論、術者のレベルや持つ魔力の多寡、また対処すべきその呪文の難度など、それらの状況に応じて出来る範囲と言う物は存在するのだが。 例えば、高位の悪魔による石化などと言った、対処の手がほとんど無いケースなども多々存在するのである。 基本的には、より強い魔力で呪を打ち破る、なのだから。
 今回に関して言えば、簡単と言うほどでないにせよ、石化への対処自体は可能な範疇のモノだった。

 …それが単に石化されただけ、と言う話であれば、だ。

 夕映の様に身体を砕かれた場合、当然 話は異なってくる。
 手足のような末端であれば、解呪してから再生すればいい。 そう言う魔法の遣い手も、少なからず存在するからだ。
 ネカネの例を紐解けば判るだろう。
 彼女を助けたナギらしき男も、やったのは石化を止める所までだ。 その後の治療は、収容された施設でなされている。 死んでさえいなければ、ある程度は魔法でどうにか出来た。

 だが、石化された揚げ句に胴体が切り離された、となると話は別だ。
 手足と違い、石化の解除はイコール即死。 それこそ、死からの蘇生クラスの術やアイテムが要求される事になる。

 ネギに付いて行った筈のカモが、何時の間にか現れ、この状況に絶句した。

「こ、こいつぁ…
 なんてこった、ネギの兄貴がどう思うか」

 責任感の強いあの少年が、この事実に自身を責めるだろうことは確実。 なまじ子供なだけに、それだけでは済まないかも知れない。

「おい、これでも貴様はどうにか出来ると言うのか?」

 エヴァが横島にそう問い掛けるのを聞いて、詠春は窺う様に彼女たちを見詰めた。

 見覚えの無い『少年』である以上、エヴァが連れてきた東の魔法使いなのだろうと推測はしている。
 だが、その見掛けからはどんな術者なのかまるで判らない。 それどころか、一緒の少女二人と比べても、まるで魔力を感じないのだ。 なのに、エヴァは彼だけに話を向けている。 彼ならば、とばかりに。
 木乃香の事もあって、詠春が注目するのも無理は無い。

「ま、何とかするさ。 この娘だって育てば…
 …育つ、よなぁ?
 とにかく、5年もしたらきっと美人に育つ筈だ、たぶん。 そん時の為にも頑張るさ」

 美女・美少女の事となれば、横島は何をおいても見過ごせない。
 その命が掛かっているとなれば、尚更に。 まだ胸の奥底に、チクリと刺すモノだって残っているのだ。

 いつもの様におちゃらけていい場面じゃなかった。

「つうこったから、ちょっと待っててな」

 そう言って、未だに縋り付いてる木乃香の頭を再び軽く撫ぜた。
 こくりと彼女が頷いて離れると、夕映の身体に向き直る。

 さて、と呟いて目を閉じる。

 文字は『修』『復』。 それで充分だろう。

 問題は、何処まで彼女のカタチをイメージ出来るか、だ。
 何せ横島と夕映とは、半月程前に一度お茶した事が有る、程度の関係でしかない。 中途半端な修復をして、後から問題になったら本末転倒だろう。
 何より、自分の願望を反映させてしまいそうなのが恐い。 この少女は色々足りな過ぎる。

 結局、他所から調達した方が良さそうだと、目を開いた。
 ぐるっと見渡すが、適任者は多くない。

「木乃香ちゃん、ちょっと手伝ってくれないか?」

「ウチ?」

「うん。 夕映ちゃんの事、きちんとイメージ出来なくてなぁ。 おかしな事になったら困るしさ」

 良く判らないなりにも、自身が重要な手伝いを請われたと気付いたのだろう。
 木乃香は神妙な顔でどうすればいいのかと問い返した。

「俺の手を握って、夕映ちゃんの事、出来るだけ細かく思い返してくれ」

 そう言って差し出された掌に見慣れた丸い珠を見て、何か口にし掛けるもすぐに頷く。
 周囲の興味津々の視線の中、繋がれた手と手の間から眩い光が零れた。

「む… う、うぅむ…
 はぁ…」

 ぶるんぶるんと首を振る。

「どうしたん? なにか…」

「いや、大丈夫。 ちょっと、なんつーか色々とな」

 あからさまな溜め息に不安げな顔をした木乃香に、気にするなとジェスチャーする。

 彼女は本当に細かく想起してくれたのだ。
 見れても煩悩の湧かない『夕映の隅から隅』まで。 彼女たちはこの2年ほどと言うもの、寮暮らしと言う事もあって衣食住の少なからずを共にしている。 だから、まぁ、そう言う事だ。

 萎えてしまった煩悩を、もう一度頭を振って白紙に戻す。
「とにかく、さっさと治しますか。 『 ぽ  ち
「とにかく、さっさと治しますか。 『修』『復』っとな」

 しゃがんで、再び両の手に文珠を握り込むと、夕映の上半身と下半身へ押し付ける。

「おぉ…」

 誰が洩らした声か。

 柔らかい光に包まれた石の身体が、スローの逆再生映像の様に一つに纏まって行く。 その様子は、魔法使いであるほどに不自然に思えるシーン。 こんな事が容易に出来るなら、ウェールズで眠る石像たちの誰もが欠け無き状態で居るだろう。
 やがて、石化された直後と思われる体勢で、ひび一つ無い姿が再構築される。

 右手を突き出し、何かに背を押されて転び掛けながら、振返って睨み付けそちらへと左手を伸ばす。

 そんな姿勢の石像を見て、初めて横島の眉がピクッと動いた。
 これは、逃げる姿勢とは言い難い。 どちらかと言えば、組みついて反撃された、とかそんな感じだ。

「ま、後だ、後。
 それよりさっさと、『解』『呪』せんとな」

 一文字でも充分な気はしているが、出し惜しみはしない。 男ならともかく美少女だ。 これで手持ちは尽きるが、それでも気にしない。

 文珠を握り込んだ両手でそっと触れる。
 再び柔らかく光った石像はすぐに色を取り戻し、石化直前の勢いそのままに横島へと倒れ込んだ。

「えっ?!
 な、なにがどうなったですか? あの少年は?
 いえ、確か…
 そう、私は…」

 はっきりと思い出したのだろう。
 目の前の相手が誰かと認識しないまま、それでも縋る様にその服をぎゅっと握り締める。 ブルブルと身体を震わせながら。

 そして、ポロポロと涙を零した。

「大丈夫だ。 もう居ないから。 もう大丈夫だぞ」

 下敷きになった状態で、そう横島が告げて抱き締めた。 怯えた小さな子供を慰める様に。
 彼女は、本当にただの一般人だったのだ。 あんな目に遭えば、こうなるのも無理は無い。

 背をぽんぽんとさするように叩いて、横島は落ち着くのをじっと待った。
 その様子に、周囲の目が暖かく緩む。

 やがて、様子が落ち着いたと見て、彼は持ち上げるように彼女を起き上がらせた。

「そろそろ大丈夫か?」

「え、ええ…
 えっと、その、みっともない所をお見せして…」

 一度会った事がある程度の知り合いに、泣きながら縋り付いていた。
 その事実に、今さらながらにテレたのだろう。 額まで真っ赤に染めながら俯いて、彼女はボソボソと答えた。

「身体の方はどうだ?
 一応ちゃんとやったつもりだけど、俺の願望が混じってチチやシリがでかくなったりとかしてないよな? 感触からすると大丈夫だと思うんだが」

 そんな横島の軽口に、周囲の少女たちの目が点になる。

「なっ…」

 当の夕映は、別の意味で朱に染まった。

「や、やり直しを要求するです〜っ!!
 なんでこんな人に〜〜っっ!!!

 京都に来て登り調子だった横島の評価が、一瞬にして地に落ちた瞬間だった。

 

 

 

「……彼は、一体ナニモノですか?」

 目を見開いたまま、驚愕を共有しているだろう傍らの少女に問い掛けた。

 たといそれが何らかのアイテムに因るものだとしても、その制御などを横島が担っていたのは明らかだ。
 あんな事がああも容易く出来るなら、この世から不慮の死なぞ無くなっているだろう。
 魔法を知るからこそ、歴戦の士であるからこそ。 より強くアレが常軌を逸していると、彼らにはそう感じられる。

 そんな疑念の視線の先には、かつての獰猛な瞳があった。

「エ、エヴァンジェリン…?」

「さぁな…
 それは私も今、無性に知りたくなった所だ」

 そう言って、にぃっと嗤った。
 確かに死者の蘇生をした事が有るとは聞いている。 だが、聞くのと目の前で見せられるのとでは、やはり大いに違う。

 戸惑う詠春を他所に、エヴァはさっと手を振った。

「のぁっ?!
 な、なんじゃ、こりゃ?!!

「どうしたですか、その愉快な格好は?
 ナニか脳に来たんですか?」

 突然、横島が何かに縛りつけられたかの様に、両手足を拡げたのに驚いて夕映が首を傾げた。

「い、いや、何が何やら…」

 だが、彼自身も何が起きてるのか理解出来なくて困惑を隠せない。 動かそうにも、何か見えないモノで固定されて、手足の自由が利かないのだ。

 そこへかつかつと歩み寄ったのは、言うまでもないエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、その人である。

「面白過ぎる… 面白過ぎるぞ、きさま」

「は? 顔がですか? それともおつむが?」

 意趣返しの様な夕映の言葉を、ちらりと視線を向けただけで黙殺して、エヴァは横島を見据えた。

「喜べ、そのチカラ、私のモノにしてやろう」

 ニヤリと笑う顔は、獲物を狙う野獣の様に剣呑だった。
 思わず腰が退ける横島だったが、何せさっきから何かに拘束されて動く事も儘ならない。
 周囲の面々も、恐怖と僅かばかりの好奇心とで動けないまま、二人を見詰める。

 と、その中でただ一つ動く影。

「あ、姐さん…」

 邪魔するなとばかりにジロリと見据えられ、カモは思わず全身の毛を逆立せた。
 だが、土下座しながら、それでも言葉を続ける。

「どうせなら、俺っちにさせちゃあ貰えませんか」

「む…
 ふん、いいだろう。 やれ、小動物」

 僅かに思案して、許可を出す。
 エヴァが何をしようとしてるのか、即座に気付いたカモへの感心もそれを後押しした。

 ありがてぇ、と頭を下げると、カレは横島の周りに魔法陣を描く。
 ネギとがベストだったが、とにかく携われれば5万オコジョ$は入るのだ。

「血を吸うのは後の楽しみとしよう。
 さて、頭を下げろ」

 と言っても、横島が自身でどうにか出来るようになどしていない。
 きゅっと指を握り込むように動かすと、横島は膝を突いて上半身を前に倒した。

「にょあ?
 ななななナニを?!!

「きさまを私の従者にしてやろうと言うのだ、有り難く思えよ」

「ぅげっ?!
 ★♂△※♀∞〜〜っっ!!!

 悲鳴が無理矢理押し込められ、その内にじゅるじゅると何とも言えない音が響き出した。

 そもそも吸血鬼であるエヴァは、吸血それ自体で仮契約を行える。
 その場合、体液の交換が術式の骨子になるのだが、ソレもあってか代償的に唾液の交換を行ったのだ。 あくまでそれ以外の他意は無い。
 …いや、幼女幼女とうるさいこの男が嫌がってるから態とそうしている、と言う側面はあるかも知れないが。

 とは言え、見た目はディープなソレである。 今度は溢れる興味で、周囲の少女たちは黙り込んだ。
 一人、詠春が苦笑いで視線を逸らす。

 やがて、スポンと音がしそうな勢いでエヴァは口を放すと、腕で口元を拭った。

「うぅ、汚された… 最初のディープキスが蛇女で2回目が幼女…
 なのに、やっぱり気持ち良かったのが、なんだかとってもちくしょぉ〜っっ!!

 茫然自失から、一転 騒ぎ出す。
 唯一動かせる頭を左右に振って泣き喚く様は、それはそれで何か愉快な見世物だ。

「黙れ犬。
 それより、小動物。 出来たならとっとと寄越さんか」

 カードを取り出した姿勢で固まっているカモに催促する。

 なかなか動き出さないカレに、業を煮やしてカードを奪い取るなりエヴァは目を点にした。

 

 

 

 ドキドキとキスシーンを見詰めていた周囲の中、一人何やら考え込んでいた木乃香は、カモの手にカードが出現した瞬間 ぽんっと手を打った。

 彼女は明日菜の仮契約カードを見ている。
 そして、キスをする事でそれが手に入る事を知っている。
 目の前でカードが出た以上、今なら出て来るだろうと言う予測もついている。

 この場の誰より魔法に関する知識が無い木乃香は、その上で『自分のカード』を欲しがっても居た。 かつて見た明日菜のカードは、横島が渡したお守りと同じくらい彼女を虜にしていたのだ。

 そうして、木乃香のちょっとおかしな方向に真っ直ぐな行動力が、今、遺憾なく発揮された。

「なぁ、横島さん」

「うぅ、木乃香ちゃん。
 俺、汚されちゃったよ…」

 滂沱の跡が、しかし憐れさよりおもしろおかしさばかり強調してくるのはなぜだろう。 やはり、彼がそう言うキャラだからなのか。

 そんな横島に微笑見掛けると。

「したら、口直ししたるな〜」

 そう言って、返事も待たずに横島の顔を両手で固定するなり口付けた。
 ネギを除けば、彼は木乃香にとってただ一人の親しい男友達だ。 行為そのものへの抵抗は然して無い。 ネギの様な子供相手じゃないから、ちょっと照れくさいけどイヤじゃないと言う所か。
 見た限り、結構楽しそうだ。

!!!?

 ソレに対して、声にならない悲鳴が3つ重なる。

 言うまでもなく、1つは横島のモノ。
 残りは刹那と詠春だ。

「おやおや、こいつぁ」

「…ナニをしてるですか、このか」

 朝倉はニヤニヤと取り出していたカメラにその様子も収め、夕映は首を振った後、額に手を当て溜め息を零す。

「はぁ…」

「む〜」

 溜め息をつく高音と小さく唸った愛衣は、拗ねた様な なんとも微妙な表情を浮かべた。

 そして、木乃香の行動で一気に気力を回復したカモは…
 カードが出てきた途端、再び固まっていた。

 そんな中、木乃香が横島から顔を離す。 えへへと照れた様に、横島を見遣って。
 すぐに、不思議そうに首を傾げたが。

「ん、どないしたん?
 なぁ、横島さん? 横島さ〜ん?」

 彼は、1個の白い彫像と化していた。
 処理落ちしたMeと言うか、再起動には時間が掛かりそうだ。

「ま、ええか」

 周囲から、良いのかそれで、と声に出ないツッコミが降り注ぐ。
 が、そんなモノ、彼女は気にしたりしない。

「それより、カード、カード…
 あ、出とるなぁ」

 立ち竦むカモからカードを取り上げる。
 嬉しそうにそれを見詰めて、木乃香はらしからぬ声を上げた。

「今度はなんで〜? なんで横島さんがへちゃむくれに〜?!

 その声に、エヴァが再起動した。
 暴走した訳ではない。 原因を締め上げようと、固まっているカモを掴み上げたのだ。 有る意味暴走かもしれないが、気にしてはいけない。

「ぎゃあわっ?!!
 な、なん、すか…真祖の、姐、さん」

「どう言う事だ、コレは?」

 辛うじて、言葉が出せる程度の手加減はされている。 だが、何せ彼女は吸血鬼、そもそもの腕力からしてとんでもない。 封じられてるならともかく、今は解放されているのだ。

「お、俺っちにも、なん、でだか…
 けど…」

「けど、なんだ?」

「向こ、の姉さん、たちとの時、もだし、横、島の、兄さん、の、問題じゃ…」

 絞られて苦しい中、それでも高音たちへと指を向ける。

 改めて床の魔法陣を見詰めるが、エヴァの目から見ても術式に破綻は見当たらない。
 自分ほどではないが、木乃香もきちんと口付けていた。 だから、契約の動作それ自体にも問題は無い筈だ。
 とすれば、その可能性も無くは無いだろう。

 カモを握り締めたまま、そう考え込む彼女に不意に声が掛けられた。

『ソレ、合ってるかも…』

 振り返れば、さっきまで不貞腐れていた横島のお目付けの一人……エヴァにとっては今のところ高音も愛衣もその程度の認識に過ぎない……が、額に仮契約のカードを当ててこちらを見詰めていた。

『あぁ…
 やっぱり聞こえてるんですね』

 何処か諦観したような響き。

 だが、彼女の口は動いていない。
 しかも、念話の為に発動される類いの自発的な魔力も感じない。
 つまり、これはテ レ パ テ ィ ア
 つまり、これは念話の魔法ではないと言う事だ。
 それはすぐに実証された。

『えぇと…
 こうでええん〜?』

 ビクっと肩を震わせ、更に顔だけギギギっと曲げれば、木乃香がカードを額に当てて笑っていた。

『そうです、このかお姉様』

 エヴァの脳裏に、二人の遣り取りする念話が流れ続ける。

 ソコへ今度は耳に響く声。

「ど、どう言う事ですの?」

 横島のマスターは、もう一人居るのだ。
 当然の様に、高音にもこの念話は届いていた。

『私たちの横島さんとのカード、お姉様との間でもカードでの念話、繋がってるじゃないですか。
 だから、このかお姉様たちのもスカカードだったんなら、もしかしてと思って』

 高音も額に取り出したカードを当てた。

『そんなバカな…
 …と言いたい所だけど、横島さん、ですものね』

『えぇ。
 実際に、このかお姉様ともエヴァンジェリンさんとも繋がってますし…』

『驚くだけムダなのかも知れないわね、横島さんは横島さんだし…
 そうよ、あの時もあの時もあの時も… ふふ、ふふふ…』

 高音が、虚ろな笑いを乗せる。

 かつての仮契約の時へと意識が飛び、そこから彼の特異性、そして文珠へと巡って、しまいに脱がされたトコロまで伝言ゲームの様に想起してしまったのだろう。
 なんとなくその事に気付いた愛衣は、気の毒そうに彼女へ視線を向けた。

『このカード、こんなんもでけるんやねぇ。 おもろいわ〜』

『面白いって言うか、まぁそれなりに便利だとは思いますけど』

『ん〜
 そや。 いつでもでけんの、コレ?』

 続けて説明を求める木乃香に、愛衣は素直に答える。

『いえ、距離が離れると届かなくなっちゃいます。
 ただ、横島さんが近くに居なくても問題は無いみたいなんで、学校の中でくらいだったら、私とはいつでもお話出来るんじゃないかと。
 あと、お姉様はウルスラなんで、その時の状況次第だと思います』

 付属女子中とウルスラは同じ女子学校区画に建てられているので、タイミング次第では繋がるかも知れない。 主に高音の性格的な都合で、愛衣たちはソレを試した事は無いけれど。
 高音は普通のメールの遣り取りなんかですら、私的な物は終業後でないと受けてくれないのだ。

 また、実験で届いた最遠距離よりも横島の学校との距離の方が遠いので、そちらへも試した事は無い。

『尤も、ホントならこんなコトにならない筈らしいんで、実際にやってみてからでないとちょっと判らないんですけどね』

『へぇ、そやったら今度ウチとお話しよなぁ』

 そんな説明を聞きながら、エヴァは手の中のカモをボトッと落とした。
 白い小さな身体を痙攣させているが、どうにか息は有る様だ。

「ふ… ふふ… ふは、ふははは…
 いっくらなんでも、面白過ぎるぞ、きさまぁ〜〜っっっ!!

 黙り込んだかと思うといきなり笑い出し、横島の襟首をがくんがくんと揺すり出す彼女に、傍で見ていた夕映と朝倉は思った。

 キスで、なんかヤバイもんでも感染したんじゃないだろうかと。

 

 

 

 【ま、続きは後のごろうじろ、ってね】

 


 ぽすとすくりぷつ

 賛否両論、否のが多いかな? なんせネギは従者、未だ二人だし… 対して4人だもんなぁ、これで横島の『マスター』は(^^;
 なんかイイ思いをさせ過ぎな気もしなくもありませんが、横島的にはどっちかっつーとショックな出来事ですんで(苦笑)

 そりと、別にエヴァは恋愛感情でコトに及んだ訳じゃ有りませんので、念の為。
 木乃香の方は、まだしもソレっぽい部分も有りますが(^^;
 …つまり彼女にしても、アイテムゲットの方が重要だった、って事ですね(笑) しても構わない、くらいの好意は有るにせよ。

 高音の様な、キスへの幻想とかは無いんで、結構ドライ。 恋愛経験自体は無いんで、お子様寄り。 恋愛に対する夢とかそう言うのが無い訳じゃないけど、お見合いを繰り返させられたりして、現実もある程度 目には入ってる。
 少なくとも、私の見る木乃香はそんな感じです。

 本当に好きになるって気持ちを覚えたら、その時どうなるかはまた別の話ですけど。


 
 

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